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前回までのあらすじ

初版の帯には『怪物、徳川治済(はるさだ)。』と書かれていました。ええ、それはもう、気持ち悪いの一言なのです。

治済とは、吉宗の孫の三女小夜姫の娘です。しかも姉がおり、本来は一橋徳川家の家督を継ぐ立場にはありませんでした。

それが、気づいたら跡を継いで、男子を産み、その子に赤面疱瘡のワクチンを接種して免疫をつけて生命の保証を得て、十一代将軍にと推し進めていたのです。その頃、将軍になれる可能性のある血筋の姫たちはことごとく死に絶えていたのです。

この巻からは話の筋が二手に分かれ、絡み合っていきます。ひとつは十一代将軍家斉の大奥と、江戸の町で養生所(診療所)を開き、地道に赤面疱瘡の撲滅のために研究を続けている黒木と伊兵衛の姿です。おるい、という妻を得て、黒木はその名を良順と改めて町医者となっています。伊兵衛もその助手をしながら、慌ただしくも穏やかな日々をいきていたのです。

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11巻のネタバレ

松平定信は『寛政異学の禁』と呼ばれる蘭学禁止令を発布、田沼意次が敷いていた政治のカラーを全て排除し、意次自身も蟄居、全てを奪いつくしていったのです。

その頃の大奥は十一代将軍徳川家斉の治世で、春日局が熱望してやまなかった男性将軍のための女性の園となっていました。家斉は母の治済に言われるままに子作りに励む日々だったのです。

松平定信、そして幕閣の面々はようやく『何かがおかしい…?』と気づくことになります。赤面疱瘡を克服して健康な体を持つ男性の将軍が納める治世のはずが、最高権力者はその母である治済だったのです。

何かがおかしい、と家斉も感じていました。そんなころに思い出すのは、赤面疱瘡の痘瘡を施してくれた青い目に金色の髪の男のことでした。おぼろげな記憶をたどり、その名前が『青沼』だったことを思い出したのです。

家斉の大奥には数多くの女性がいました。そして次々に生まれる子供たちは幕閣の悩みの種ではありましたが、家斉の『家族』として、一応の平穏を得ていたのです。御台所茂姫は賢夫人であり、側室のお志賀の方らとも和気藹々とくらしていました。少なくとも、表面上は穏やかなはずでした。

ある日、家斉は母に青沼のことを問います。自分に施されたような予防接種を市井にも広めれば、赤面疱瘡が根絶できるはずでは?とも進言したのですが『男が政にかかわることを意見するな!』と厳しく叱責されるのです。

その母親の表情は、家斉にとっては恐怖でしかありませんでした。幼いころから優しく頭をなでて抱き寄せてくれるその母は、まさにその目の前で家臣に気まぐれに毒を飲ませて口元に笑みを浮かべて眺めている、そんなことが珍しくはなかったのです。

逆らえぬままに大人になり、将軍になったにもかかわらず、その力関係は変わらないどころか、さらに悪化していったのでした。この時の治済の豹変ぶり、その嵐が去った後の微笑みは不気味としか言いようのない、まるで妖怪のようでした。

幼いころに家斉の面倒を見ていた武女(むめ)という娘がいました。彼女は治済の傍に付き従い、しかし時に不手際の罰として毒を含まされるという日々を生き抜いて、大奥総取締にまで上り詰めていました。その顔は、平賀源内が襲撃された事件の裏側で暗躍していた女だったのです。

どんどん欲を肥大化させ、不要なものを排除(殺害)していった治済は、とうとう自らを『大御所』とするよう命じ、異論を唱えた松平定信を老中から降ろさせてしまいます。この時になって、定信は『この女は徳川家にとっての真の敵だったのだ』と確信したのです。

かつて大奥で青沼らと同輩だった松方は、一時は大奥総取締の役を得ていたものの、男女が入れ替わった今の大奥には用なしとされ、中奥に務める身となっていました。

家斉は彼を通じて青沼の教えを受けて蘭学を学んでいた黒木達に接触をはかるのです。自らも蘭学を学びたい、そんな淡い夢をみてもいましたが、最優先項目は赤面疱瘡の撲滅です。その方法を知る者(黒木や伊兵衛ら)の存在を知った彼は、母の目を盗み、どうすれば思いを遂げられるだろうかと考えを巡らせるようになっていたのでした。

しかし、治済の歪んだ欲望は家斉の子供たちに迫っていたのです。側室たちを次々に与えて産ませた子供たちが邪魔になったら、それを間引くようになっていたのです。

幼い子供たちがバタバタと亡くなり、ついに世継ぎの敦之助、そしてお志賀の娘総姫までが送り付けられた好物の菓子を口にしてあっという間にこの世を去ってしまったのです。御台所茂姫の心は壊れ、家斉は母の本当の姿を知ったのです。

その頃の治済は既にその『毒』を隠そうともしませんでした。彼女は幼いころから邪魔だったものを密かに手にかけては排除してきたのです。姉や母をも手にかけて、一橋家の当主になり、子をもうけ、その子を将軍に…と陰謀の限りを尽くしてきたのです。

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感想

黒木は我が子を得たことで赤面疱瘡の根絶への思いを強くし、旅にでました。そこで見たものは、かつて源内が施し、残していったさまざまな『遺産』だったのです。さまざまな確信を胸に江戸にもどった彼の前に、松坂を伴って現れたのは『公方さま(家斉)』でした。

彼は、母の異常性が暴走していることを危惧し、その目をかいくぐるようにして自ら赤面疱瘡をなんとかしたい、という気持ちに突き動かされて黒木のもとを訪れたのです。ここで、物語の軸がまた一つに融合しはじめるのでした。

それにしても、治済のサイコパスぶりは、見事な描写です。初見ではがっつり見てしまった彼女の表情でしたが、二度目からはちょっと目をそらしたくなるような不気味な目と口元です。

よしながふみさんは歪んだ人を描くのが上手いと思ったことは何度もありますが、治済の描き方は、これまでの大奥・その他の作品のなかでも飛びぬけてすさまじいものです。

若いころには整って見えたその顔が、どんどん歪んで老いさらばえていく様子は恐ろしくもあり、ここから家斉がどうその呪縛から逃れようとしていくのか、が物語の次のポイントになるのです。

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