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前回までのあらすじ

11代将軍、徳川家斉は実母の一橋家当主治済の支配下にあり、我が子をも『豚のように』踏みにじられ、どうにかその横暴を止めようともがいていました。

そして何よりも、自分の命を救ってくれた蘭方医の青沼の死の真相をしり、日本を滅ぼす勢いで蔓延していた赤面疱瘡という奇病を防ぎ、駆逐していくために奔走してくれた彼と、その中まで生き延びている者たちを助け、民を助けたい、と願い、行動を起こそうとしていくのです。

しかし、治済は老獪で、さまざまな妨害を行ってくるのです。
突出したことをすれば、将軍であっても命が危うい、家斉はそんな微妙な立場にいたのです。

そんな中で、幕府の中で、合法的に予算を得て蘭学と西洋医学を研究できる場所はないか、と探った結果、黒木は天文方(てんもんがた)翻訳局の翻訳官として幕府お抱えの蘭学者という身分を得て、公明正大に研究ができるようになったのです。

12巻のネタバレ

家斉の子供らが亡くなってから、御台所は心が壊れて、大奥の中でも孤立していきました。
側室お志賀の方は治済に取り入って大奥総取締となり、大奥を取り仕切るようになっていったのです。
彼女もまた総姫という娘を亡くしていたのですが、その時点で御台所とは決別してしまったのです。
そんな二人の様子に心を痛めた家斉でしたが、今でいう毒親、しかも名実ともに『猛毒』の母には、逆らうことが出来ないままにもがいていたのでした。

黒木が、療養所を伊兵衛に任せて出仕した天文方は、八代将軍吉宗が作った組織でした。
『農業の根本は気象と天文にある』というのが彼女の言葉でした。
吉宗を目指していたはずの松平定信は、妄信的に蘭学を排除していきましたが。
実は吉宗は大変に進歩的で合理的な思考の持ち主であり、やっと、彼女の目指していたところに時代と人が追い付いたのです。

役宅と禄が与えられるようになり、黒木らの研究は加速化していきました。
そんな黒木らの前に、高橋景保(かげやす)という女性の天文方が現れます。
彼女は学者が世襲でその家を守りつつ、ただ出世ばかりに気を取られている間にその知識や技術が劣化し、西洋からはどんどん立ち遅れている現実を吐露します。
自らも父からその仕事を受け継いだ身でしたが、学問や社会情勢に対しては貪欲で、黒木達もその姿に大きな刺激を受けていました。

彼女の息子は黒木の息子の清史郎とも仲良く数学を学ぶ秀才で、その日々は前向きに流れていくかに見えていたのです。

江戸城では、黒木を召し抱えた家斉と治済の親子の攻防戦が続いておりました。
家斉の意図を酌んだ松方(かつての黒木や青沼らの同僚)が、治済の気をそらすために、疑似大奥ともいえる美男を集めた場所を設けたことから、彼女は主食に溺れ、怠惰な日々を過ごすようになりました。

松方も、己の不遇を招いた治済に一矢報いたいとその隙を狙っていたのだ、というのです。
すこしずつ、家斉と、黒木らを支えるものが増えていき、黒木はやっと赤面疱瘡のワクチンを接種する方法に手が届くところまで来たのです。

そして、青沼の残した沢山の洋書や書付は、時を経ておおきな力となっていきました。

黒木と高橋ら、大人たちが懸命に最先端の知識と技術を探していたころ、子供たちもまた数学の知識を競うなど、学ぶ楽しさを覚えていました。清史郎と仲良しの、高橋の息子遼太は他の役人らの子供たちと共に算術の問題を解きあっていたのです。
その一人が、突然倒れました。
とうとう彼らの子供世代にも赤面疱瘡の災禍が降りかかったのです。

清史郎は、父の言葉を守り、他の子を遠ざけ、しかし倒れた子供を放置できず、傍で手当をしていたのです。
感染したかもしれない、というその恐怖と戦いながらも、友人を見捨てなかった清史郎に、黒木は痘瘡の接種を行い、幸いにして彼は生還しました。
その大きな賭けに、黒木は勝ったのです。

しかし、高橋の息子で清史郎の親友の遼太は残念ながら間に合わず、こと切れてしまうのです。
その亡骸を抱きしめて呆然と涙を流していた高橋は、しかしその死を無駄にすることがないように、と猛然と黒木を支えて働くのでした。

やがて、赤面疱瘡にかからないという噂が江戸市中に流れ、黒木らのもとへと息子を連れた母親たちが群れを成して訪れました。
幕府にもその事実が伝わり、家斉が陰ながら黒木らの支援をしていたことが母親の治済にバレました。

彼女は自分のコントロールを拒むものには容赦なく毒を盛るのです。
その対象がとうとう息子の家斉と、心を病んだ御台所へと向いてしまいました。
二人の前に、毒入りの菓子が並び、それを食べることを促されました。

万事休すと思われたその時、治済が崩れ落ちました。
側室のお志賀は、身を挺して治済に毒を盛っていたのです。

お志賀と御台所は二人して、我が子の仇を撃つこと、そして家斉を守るために、機を狙っていたのです。

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感想

とうとう治済は瀕死となり、しかし意識不明のままその後16年を生きたというのです。
お志賀の方は御台所にその後を託して亡くなりましたが、残念なことに家斉と御台所茂姫の間はもとには戻りませんでした。

あんな猛毒の母親でも、やはり『母親』だったのです。
そして、お志賀の方とともに周囲を欺いていた御台所のことを許せなかったのでしょう。
家斉はその後、赤面疱瘡の撲滅のために苛烈な政策を行っていきます。
全ての男子に種痘の接種を行い、多くの側室を抱えて子供を作り続けたのです。

多くの犠牲を払い、黒木と家斉はその一生を終えました。
ひとつの時代が終わり、世は幕末へと進んでいきます。
黒木と共に働いた高橋は後にシーボルト事件で投獄され獄死、黒木の跡を継いだ清史郎が医師となった頃、浦賀にはペリーが来航したのです。

このころになると男女が逆転していた大奥の時代よりもカオスな雰囲気になり、キャラクターは男女混合ともいうべき状態になってきます。
高橋が女性で描かれ、母親として遼太の死に突き動かされるように働く日々を描き、しかし、その裏側である意味男性よりも貪欲な学問欲を持つ人物であったというそのバランス感覚、よしながさんの構成力のすばらしさを感じます。

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