【無料記事】猪瀬都政「陰の腹心」が解説する「前川燿男証人喚問」 | イエロージャーナル

 弊誌は16年7月28日、

『猪瀬直樹氏の「元腹心」が解説する「猪瀬VS内田茂〝ドン〟都議」バトルの真相──「紀尾井町ヒルズ計画」を知らぬ〝田舎の猪〟と〝ゼネコンに担がれた神輿〟の近親憎悪』

の記事を掲載した。
(http://www.yellow-journal.jp/politics/yj-00000287/)

 ここでインタビューに応じて頂いた「腹心氏」に今回、目前に迫った前川燿男・練馬区町、元知事局長の百条委員会における証人喚問について、話を伺った。

 3月3日に石原慎太郎氏は会見で、「用地買収の交渉役」と前川氏を名指ししたが、後に「誤りだった」と撤回するという騒動を引き起こした。そんな前川氏が百条委員会に出るとあって、当日の騒ぎは必至だろう。

 腹心氏は都政における前川氏の役割を解説することから始め、最終的には石原都政の本質論に迫っていく。では、一問一答をお届けしよう。

■―――――――――――――――――――― 【写真】前川燿男・練馬区町公式サイトより

(http://maekawa-akio.net/)

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──まずは、3月3日に行われた石原慎太郎・元都知事の会見について印象を教えて下さい。

腹心氏 石原氏と同じように、質問者の顔ぶれまで旧態依然としていたのには、苦笑を禁じえなかったですね。

 元朝日新聞編集委員、毎日新聞元政治部長……などなど、完全に退職したのか、嘱託扱いなのかは知りませんが、要するにOB記者が勢揃いし、丁寧な口調ではありましたが、糾弾ありきの質問を繰り広げていました。

 これがフリーランスのジャーナリストとなると、石原氏を会場で粛清せんと気合を入れていたのか、単に幼稚な精神構造の持ち主だったのか、とにもかくにも、ひたすら雄叫びを上げるだけでした。

 率直に言って、日本ジャーナリズムの質問力など、あの程度です。残りはテレビ局がお決まりの質問をこなし、石原氏が「とぼけ」たり「逃げ」たりする画を撮影しただけでしたね。

 少なくとも日本の記者会見では、メディア側が「とっておきのネタ」を隠し持っている場合、会見で質問することはありません。自分たちのスクープネタを、みすみす他社にくれてやることになってしまうからです。

 会見では沈黙するか、そ知らぬ顔で平凡な質問に留めておきます。その後、本人に直接、1対1の「サシ」で取材を行う。その一問一答を記事化の際に掲載する、これが基本的な流れになります。

 では石原氏の会見で、そうしたネタを隠し持っていた社はあったでしょうか? 私はリアルタイムで試聴していた時から、そういう印象は皆無でした。

 今となっては、どの社も何もネタを持っていなかったのだと断言できます。なぜなら、3月4日以降、石原氏に関するスクープは全く報じられていないからです。

 会見に集まった報道陣は手持ち無沙汰。石原氏を詰問する姿さえアピールできればいいという、いつもの体たらくを、たっぷり堪能させてもらいました。 

 別にスクープを準備できなくてもいいんです。会見では建前の回答を引き出しておいて、小さなネタでもいいから、何とかしてサシの取材に持ち込む。そして、石原氏の会見は徹頭徹尾、隠蔽を企図していたことをあぶり出す──こんな手腕を持った記者は、今や皆無だと分かりましたね。

──この会見で、前川燿男氏の名前や、知事本局という部署名が飛び出したわけです。後で訂正する騒ぎになったのは記憶に新しいですが、4月4日には再び焦点が当たると考えられます。どう捉えておられますか?

腹心氏 知事本局は石原都政時代に肝いりでつくられた総合調整部局で、いわば大臣官房のような位置づけです。もちろん、他部局の決定を覆す権限など与えられていませんが、総合調整部局としての裁量の網は、都政最大を誇ります。ありとあらゆるところに及ぶと表現しても過言ではないでしょう。

 知事と直結し、知事の意向を下方に伝える。同時に、各部局の水平方向の伝達も担当します。そのため権限などなくとも、知事との距離感という点だけでも、他部局は知事本局の意向を常に伺うようになっていきます。いわば心理面で拘束されるわけです。

──石原氏は「誰かが判子を押した」と、あくまでもボトムアップでの認可を行っただけと逃げの姿勢を強くしていますが、このあたりはいかがでしょうか。

 そもそも週に1回、金曜日の昼前後に現れるだけの石原さんが都政の詳細を把握するのは無理です。

 正午から午後3時までの数時間のうち、都庁の各部局は知事会見に向けて、絞りに絞り込んだ内容だけをレクチャーします。必然的に、決定事項の伝達と背景解説を手際よく行わなければなりません。そこに至るまでのプロセスを報告する余裕はなく、石原知事も全く把握しない、というわけです。

 石原さん本人がおっしゃったように、都トップとしての形式的な責任はあります。しかし、政策決定プロセスに対する実質的な責任まで押し付けられるのは敵わない、というのは本音ですね。虚言とか、弁解というのとは違うと思います。

 確かに、あれだけ広大な土地の売買で、瑕疵担保責任を問われない契約というのは、売り手側にとっては大変なものです。また、あの当時、東京ガスの跡地は相当に汚染されているという情報は、国政サイドに至るまで、実は広範囲に知られていたんです。

──え、そうなんですか!?

腹心氏 私自身、とある代議士筋から、さるタニマチ業者を土壌浄化事業に参入させてほしいという陳情めいた話を受けたことがあります。

 少なくとも当時、土地浄化の先端事例は、何と言ってもアメリカでした。広大な軍事基地の土壌浄化を何度も実施しているため、ノウハウや技術が民間企業の間にも広く浸透しているんです。

 結局、豊洲の浄化事業を国内ゼネコンが請け負うのは当然として、事例の乏しい国産技術だけでやるか、アメリカの特許技術を導入するかという大問題が存在したんです。

 つまり盛り土という方法を選択しようとしたのは、アメリカほどの特許を取得できていないことが大きな背景だったんです。対処療法的にやろうとしたとも言えます。

 専門家が提言したように、盛り土でも科学的に充分な効果があるなら、それでいいのかもしれません。とはいえ、土地浄化の方法をアメリカ特許にするか、日本技術にするのかというせめぎあいだけでなく、どこの会社が請け負うのか、参入できるのかというバトルも凄まじいものがありました。そんな水面下の騒動が、代議士サイドの陳情にまで発展していたわけです。

 そうした蠢きの1つ1つを、知事に報告するようなことを、現場がするはずがありません。仮に、石原さんが毎日登庁していて、豊洲移転を最重要課題として位置付けていたのなら話は別です。

 ですが当時、石原都政は新銀行東京の処理を筆頭に、政治の重要案件が目白押しでした。石原さんの中で、市場問題は既に豊洲移転で決まりだという認識は、噓偽りのない事実だと思います。

──当時の知事本局長だった前川燿男・練馬区長の関与が取りざたされています。

腹心氏 石原さんの発言は、誰が責任を負うのかという観点から見れば、事実ではないでしょう。ただし、実態としては当たらずとも遠からずというところがあります。

 つまり、不作為の連鎖なんです。前川さんが知事本局長だった時期でも、前川さんが全ての決裁権限を持っているわけではないのは、先に見た通りです。

 各部局が決裁を積み重ねていき、最後の最後に前川氏が目を通すわけです。となると、例えば瑕疵担保責任の問題は、どの段階で決定されたのか、前川氏が決定したのかというのは組織図のレベルでは何とも言いようがありません。それこそ百条委員会が解明を迫られているわけです。

 当時は副知事だった、浜渦武生氏が決着をつけるべく、東京ガスと大まかに合意。細部の詰めを〝事務レベル折衝〟として部局員と東京ガスの社員が積み上げていく。そうした中で、組織としての意志も責任者も存在しないまま、「上は決着させようとしているのだから」と「顧慮」という不作為の連続で──現在の流行語なら「忖度」ですか──知事本局まで辿り着いた可能性も否定できません。

 今回の騒動を、前川さんは「とばっちり」だと怒っているようですが、彼のキャラクターを考えれば理解できなくもないんです。

 前川さんは神輿に載せられて、祭り上げられるのは大好きです。ですが、細かな作業は決して得意ではありません。前川さんは東大法出身ですが、同期には他にも何人か東大卒がいました。彼らの誰もがキャリア官僚になれなかったコンプレックスを持ち、都庁内での出世欲は著しく強く、それ故に職員から慕われることはなかったんです。

 前川さんの同期は反石原派も多かった。ですから、同期の中で前川さんはうまく泳いでいた方ですよ。本人としてはいよいよ副知事を狙うか、というところで外に出ることになったので大変に不本意だったようですがね。

──つまり、前川氏には責任はないということでしょうか。

腹心氏 責任者は誰かという問いに対しては、やはり「稟議書に判子を押した人間、もしくは稟議書を上げた部署全体」が答えになるはずです。石原さんだって、会見では、そういうニュアンスのことを言おうとしていたように見えました。

 石原会見の最後に、毎日新聞の元政治部長が、なぜ浜渦武生氏に問い質さないのか、それが石原さんの責務だ、というようなことを言って、迫っていましたね。しかし、石原都政の内実は極めて複雑で、決して一枚岩ではなかったんですよ。

 何しろ、お殿様は週に1度しか出勤しません。となれば、家老たちが実務を処理するために蠢かざるをえないわけですが、どれほどリーダーシップに富んだ大名であったとしても、家老の思惑とは複数存在するものでしょう。表面的には「親分が白を黒と言えば、黒と同意する」ように見える部下でも、実は面従腹背だというのは、決して珍しいことではありません。

 当時の石原知事が、「ここは浜渦に確認が必要だ」と考え、実際に会って問い質す場面もあったでしょう。しかしながら、石原さんとしては腹の底で熟知しているわけですよ。「訊くのは簡単だ。だが果して浜渦は、何もかも全て正直に、自分へ報告するだろうか」と。

 石原陣営というのは、側近の1人1人が、有力代議士クラスの権力と差配力を有していましたからね。 そんな部下を、石原さんがトップダウン式に何もかも指示していたかといえば、そんなことはないですし、そんなことをする必要もありません。

 石原都政の原動力は、実は石原大名と家老側近たちとの、ある種の拮抗関係に存在したんです。側近が石原さんを利用している部分も多かったですよ。大名は大名を続けたいし、家老も同じです。「お家存続」のため、互いをWin-Winの関係に持っていく。阿吽の呼吸の中で、「問い質さない」「報告しない」「誰にも言わない」といった様々なことを抱えて、現在に至っているんです。

 難しいことを言わなくとも、政治家と秘書の関係を思い出してくれれば分かってもらえると思います。そうした綾を石原さんは熟知していますし、浜渦さんも同じです。つかず離れず。互いに絶妙な距離感で動いているんです。

 同じ関係は、知事本局と他部局の間にも存在します。そこには「顧慮」「忖度」という不作為が生じ、その積み重ねが「瑕疵担保責任」の問題を担当していた職員は誰だっけ……? という話になってしまう。

 前川さんが東京ガスに天下ったというのは、いかにもな構図なので、疑惑の目が向きやすいのは言うまでもありません。しかしながら、役人とは臆病なものです。特に前川氏のように神輿に乗せられるのが好きなタイプほど、疑心暗鬼もまた強烈です。パターン通りの贈収賄的関係には応じないはずなんですよ。

 しかしながら、前川さんが例外ではないという保証も、同じようにありません。確かに、あの人は権力欲と名誉欲が強烈で、それは公務員の世界では例外的な感覚です。

 以上、私の解説や推測が、正鵠を射ているのかは分かりません。しかしながら、今回の百条委員会を見る際、前知識としてなら少しは役に立つのではないでしょうか。

(無料記事・了)