無料連載『不惑のインターネット・関係者インタビュー』①西村博之氏・第11回

2017-08-17 12.25.38

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第11回は、書き込み削除要請に関する、極めて実戦的な法律論が盛り上がった。

◇第10回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000522/

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【写真】政府広報オンライン「インターネットを悪用した人権侵害に注意!」の「法務省:不当な書き込みの防止に向けたポスター」より
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/200808/3.html
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編集部(以下、編) 「日本人の若者はデモをしない」「日本人はデモをしても暴徒化することはない」などという常識を信じていますが、崩れないという保証は全くないというわけですね。

西村博之氏(以下、西村) 経済、景気がよくなれば常識が維持されるかもしれませんが、少なくとも今のところ、経済状態の好転は望めません。そういう意味では、常識の崩壊は時間の問題という気がします。

 デフレから脱却しないですからね。

西村 デフレと不景気を、ごっちゃにしていませんか?

 少なくとも現時点では、イコールではないのですか? バブル崩壊後、日本経済は一貫してデフレであり、だからこそ不景気である、というわけですよね。

西村 僕はデフレのおかげで、そこまでの不景気にはなっていないと考えています。

 物価が安くなることで、購買力が確保されているというわけですか?

西村 モノが買えなくなると、それこそ死ぬしかありません。物価が安くなっているから、何とか買える。それで何とか収まっていると思います。

 デフレ経済下で業績を伸ばした会社には、例えばユニクロやサイゼリヤがあります。

西村 でも値段を上げたユニクロは売れなくなり、更に下げたしまむらは業績を伸ばしています。本当に安いモノしか、誰も買わなくなりました。

花田庚彦氏(以下、花田) (本堂まさや氏を見ながら)普通ではない人は、こうして高価なスーツを着ていますけどね(笑)

西村 (笑)

本堂まさや氏(以下、本堂) 確かに普通ではないかもしれません(笑) そもそも、まだ弁当(註:執行猶予)が2年、残っていますから。

花田 残っていたっけ!?

西村 残ってたんですか!?

※編集部註
 本堂氏は2013年、有料放送を無料で視聴できるよう「B-CASカード」を書き換える不正プログラムをインターネット上で販売するなどしたとして、不正競争防止法違反や不正作出私電磁的記録供用罪などの容疑で逮捕。同年、京都地裁は懲役2年6月、執行猶予5年を言い渡した。

本堂 執行猶予5年ですから。

花田 5年かあ。めちゃくちゃに付いたんだね。

西村 結構、長かったんですね。

本堂 長いですよ。裁判官も最後に「まだやるんだろう」と、「再犯の恐れがある」と言っていましたから(笑)

花田 今もB-CASのことは記事にしてるの?

本堂 たまにはやってますね。

花田 たまにって(笑)

本堂 もう作り方は配信していません(笑) 実のところB-CASの問題は、有料放送を運営する会社が対応版をアップデートするんですが、そうすると違法側も更に対応するんですよ。本当は運営側が放置しておけばいいんです。ところが変に対応してしまうから、逆に儲けさせてしまっているということがあるんですよ。

 皮肉なことに、ビジネスチャンスを作ってしまっているわけですか。

本堂 そうなんです。どうせ対応版が出てしまうんだから、結局は放っておくのが一番なんです。

西村 面白いですね。こういう悪い話を聞いたのは久しぶりです(笑)

花田 最近のひろゆきは、メディアの善人だもんね。

西村 こういう話をする人は、もう周りにいなくなってしまいました(笑)

本堂 様々な会社で役員を歴任しているわけですから、コンプライアンス問題が厳しいから、花田さんなんかとは付き合えないでしょう?(笑)

花田 僕には何の問題もないぞ(笑)

編 コンプライアンス問題は置いておきますが(笑)西村さんにも様々な変化があったにもかかわらず、体形や雰囲気、ファッションセンスは変わらないという鼎談前半の話を思い出しました。

西村 僕はパリだと大体、自転車で移動します。だから、そんなに太らないのかもしれませんね。35ユーロぐらい払うと、パリ中に20万台ぐらいあるというレンタル自転車を45分間、使えるんです。

 マンハッタンは山手線の内側ぐらいの広さ、と言われますが、パリの広さは、どんな感じなんですか?

西村 パリも同じです。山手線の内側ぐらいですね。端から端まで自転車でも30分かからないぐらいですから、便利ですよ。

 それだと自転車が本当に便利ですね。

花田 昔に比べると、カネも名誉も手にした。

西村 根本的には、あまり変わっていないと思うのですけれど。

花田 それは生き方のことを言ってるんだよね?

西村 はい。

花田 ひろゆきのことで強い印象に残っているのが、昔、部落解放同盟が抗議に来たことがあったよね。その時に「何も知りません、分かりません」と言い続けて、相手も諦めてしまったというね。あのスタイルが、すごく印象に残っている。

 いつ頃の話ですか?

花田 2ちゃんねるを立ち上げて、すぐの頃だよね?

西村 最初の頃ですね。毎日、部落解放同盟から葉書が1通、届くんです。それだけなので、全くの謎でした。たまに筆跡も変わるので、1人の行為ではなかったと思います。

 掲示板に何か載ったのですか?

西村 どこの地域が部落だという書き込みがあったんです。削除要請を受けて、「法律に触れるのであれば削除します。根拠を教えて下さい」と質問すると、「法律に触れる問題は特にない」という回答が来ました。「それではどうしようもないですね」と削除要請を拒否すると、ずっと葉書が送られてくるようになったんです。

 その後、では1回話し合いをしましょうということになって、もう場所は覚えていないのですが、岡山の方と僕と、そして法務省の人と話したんです。その時に、花田さんが言ったように「何も知りません」と答えたわけです。

花田 基本、ひろゆきは、そういうスタンスですよね。

西村 知らないものは知らないので。

花田 それでずっと、20年メシを食っている。削除しようと思えば、できるんでしょ?

西村 そうですね。ただ、削除を行うには根拠が必要です。今の2ちゃんねるは、もう僕の手を離れてしまいましたけど。

 表現の自由という言葉が出てこないのも、興味深いです。

西村 表現の自由というのは結局のところ、感情論じゃないかと思うんです。「これは表現の自由で守らなければならない」「これは守らなくてもいい」という価値判断は究極的に正しい、間違っているという判断がつけられないものでしょう。犬と猫のどっちが好きかという問題と変わりません。

 感情論という表現も面白いですね。

西村 そうですか?

編 表現の自由は憲法で保障されている、とハードに論駁することもできるはずですよね。

西村 しかし、部落差別が禁止されているのは、憲法が理由であるのも事実です。ただ、具体的な落し所を探るには、今度は法律が必要になってくる。今の日本に「部落差別を行う書き込みは削除しなさい」と命じる法律は存在しません。必要なら作るしかないわけで、そうした法律ができたら従います。しかし、法整備が行われてないということは、必要のない法律だからとも言えます。そういう意味において、僕は自分のことを遵法主義者だと考えています。

花田 民事訴訟は結構、来てるでしょ?

西村 もうないですね。

花田 もうないんだ。

 未払いの慰謝料が億単位という話もありましたが?

西村 10年で時効ですから、今はゼロですね。

 もう時効を迎えたのが、そんなにあるんですか?

花田 判決が出て、慰謝料が支払われないと、内容証明を送れば時効が延長されるんじゃなかったっけ?

西村 そうです。延びます。

花田 内容証明、来てないの?

西村 基本、みんな送ってきませんよ。

花田 そうなんだ。

 意外に諦めてしまうものなんですね。

西村 延ばしても意味がないんですよ。結局、僕からはお金が取れないし。

 「お金が取れない」というのは半分は事実だと思います。しかし、ありとあらゆる法的な技術を駆使したら、違う結果になるような気がしますが?

西村 可能な場合もあります。ただ、そこまで努力して、それに見合うのかという話ですね。

花田 前に『電車男』を発行した時、版元の新潮社から印税を押さえた人がいたんじゃなかったっけ?

西村 そうですね。そういう方法で、頑張る人はいます。ただ、あれも新潮社が拒絶しようと思えば、法的には可能でした。新潮社は面倒くさいから払ったのだと理解しています。

本堂 DHCが、物凄い金額になりましたよね?

西村 最終的に、いくらになったのか……。400万円で、1日5万円の制裁金が付いていたはず……。いや、1日じゃなかったかな……? とにかく、何年も積み重なったので、物凄い額になったのは事実です。

本堂 ひろゆきが以前、インタビューに答えて「慰謝料を取れる権利を得ただけだ」と言っていて、確かに正論だと思いました。

西村 取るのが大変なんですよ。

本堂 回収の方が大変ですよね。

花田 回収は大変だよ。

(最終回につづく)