【完全無料記事】「新型インフルエンザ」厚労省の「無策」で死者100万人説

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 新型インフルエンザ──その恐ろしさは、日本人の誰一人抗体を持たず、既存の治療薬が全く効かないところにある。そのため、ひとたび「パンデミック=感染症の世界的流行」が起これば、政府や自治体は最低でも60万人以上の死者が発生すると想定している。

 ところが、ある担当者は「いやいや、そんな数字では済まないでしょう」と囁く。新型インフルエンザが猛威を振るえば、学校や職場どころか、飲食店や風俗産業がひしめく繁華街さえ、全封鎖で壊滅状態になりかねない。

 東京都の防災担当者が打ち明ける。

「国は死者60万人と広報していますが、数字に根拠は存在しません。我々は100万人を越える想定も行っています」
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【写真】厚生労働省のインフルエンザ啓発ポスターより
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/dl/poster25a.pdf
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 日本最大の都市である東京都は人口1200万人強。都は新型インフルエンザのパンデミックが起きると、全都民の約30%が感染すると予測している。つまり患者数は370万人を越えてしまうのだ。

「新型だろうが何だろうが、インフルエンザって結局、ただの風邪でしょ?」──こんな疑問を抱く方もおられるだろうか。しかし、侮る勿れ。新型インフルエンザとは、特効薬のない未知のウイルスと定義すべきものなのだ。

 都の担当者は緊張を隠さない。『新型インフルエンザ対策行動計画』なる文書を引っ張り出し、「ここを読んで下さい」と声を強めて指差す。

新型インフルエンザが出現した場合、人類は免疫のない状態で新しいウイルスと直面することになる。都市化の進行、人口密度の増加、国際的な輸送・交通網の発達などにより、過去の流行と比較すると、より急速に世界中に広がり、より多くの患者・重症患者が発生することが予想される

ある学会で発表された報告が、新型インフルエンザ担当の役人を震え上がらせたことがあるという。

 これまでインフルエンザの有力な治療薬とみられていたスイス・ロッシュ社製の「タミフル」に耐性を持つウイルスが横浜市、鳥取県、栃木県、岐阜県などで検出されたのである。

 既存の薬が効かない。つまり「新型インフルエンザ」ではなく「無敵インフルエンザ」と考えるべきものだ。大学病院に勤務する医師が説明する。

「タミフルが効かないウイルス、いわゆる耐性株がなぜ現れたのかについては、まだ原因が分かっていません。ただ、おそらく原因は特定できないでしょう。耐性株の遺伝子を調べ、世界的な疫学データを照らし合わせる必要があります。特定できたとしても、数年はかかります。現場での最大の問題は、とにかく日本で耐性株が確認されたということです。新型の蔓延だけでも恐ろしいのに、耐性株の大流行にも怯えなくてはなりません」

 我々が頼るべき対策の最前線に立つ担当者も、不安を隠さない。

「耐性株が出現するという可能性は、もちろんこれまでにも指摘されてきました。しかし、現実のものになるとは……。対策として、これまで備蓄を進めてきたタミフルに加え、リレンザの確保も進めてきました。とはいえ、新型に効果があるのかは、全く分かりません」(東京都感染症対策課)

 国の備蓄計画では、タミフルとリレンザを合わせて数千万人分、さらに、医療機関等で数百万人分をそれぞれ確保している。東京都は最低でも数百万人分を確保して、パンデミック発生に備えている。だが、これも未知の新型に対するものではなく、あくまでも既存のインフルエンザウイルスに対抗するための対策だ。

 冬を迎えるたび、タミフルは自治体によって特効薬さながらにばらまかれている。信じられないことに全世界における生産量の70%以上は日本国内で使用されているのだ。

 だが、こうした対策こそが、パンデミックを後押ししかねないと、前出の医師は警告する。

「結局、ウイルスとワクチンというのは人類にとっては切っても切れない永遠のいたちごっこなんです。薬が開発されれば、必ずそれに耐性を持った、生き残るウイルスが出現します。だから薬の乱用は怖いんです。もちろん耐性株の出現は日本だけでなく、欧米でも報告されています。しかし日本はとにかく、世界で最も抗インフルエンザ薬の使用量が多い。ウイルスが変化を遂げる確率は高くなり、変化を遂げるスピードも早くなる可能性は否定できません」

 日本を代表する感染症の研究機関である国立感染症研究所も、耐性株の出現について次のように警告する。

「国内耐性株の22株中2株はオセルタミビル(註:タミフルのこと)服用5日後に検体採取されているため、薬剤による選択圧によって出現した可能性も否定できない(中略)耐性ウイルスは、新たに南アフリカやガーナ、チリなどからも報告があり、ここにきて急速な広がりを見せている。オランダからは死亡例も報告されており、専門家からは『耐性ウイルスの監視強化』を求める声が上がっている」

 いよいよ、インフルエンザウイルスが活発化する冬季を迎える。不気味さは増すばかりだが、日本は周囲を海に囲まれた島国という〝防御壁〟が存在した。地続きの国境を持つ欧米とは危機感が比べ物にならない。よくも悪くも、パンデミックの発生に無防備でいられたわけだ。

 しかし、ジェット機が輸送・交通手段として一般化するにつれ、地球のあらゆる場所は24時間以内で到着できるようになった。となれば、日本の海という最大の防衛システムも無力化しつつあると考えるべきだろう。

 国立感染症研究所の調べによれば、これまでに確認されているインフルエンザのパンデミックは、古くは1800年代に遡ることができるという。20世紀に入ってからも、第2次大戦前に1回、大戦後に2回が記録に残る。

 とりわけ凄まじい被害をもたらしたのが、1918年に発生したスペインインフルエンザのパンデミック。WHO(世界保健機関)の推定では、患者数は世界人口の25〜30%におよび、死亡者数は実に4000万人を超えたとみられている。

 日本の内務省(当時)の統計によれば、国内でも約2300万人が感染し、死者数は40万人近くにのぼった。この時、一部の国では「公共の場所で咳やくしゃみをすると罰金刑や投獄を科した。学校など公共施設は閉鎖され、集会も禁止」(国立感染症研究所)などの対応策を講じたのだという。現代の常識からすると「刑事罰」は信じられない措置だが、感染が死に直結する時代だっただけに、やむを得なかったのだろう。

 では東京でパンデミックが発生した場合、都はどのように対応するのだろうか。新型インフルエンザ対応マニュアルを見てみよう。

① 感染症対策課が発生情報を入手
② 健康安全課長が「室内関係者」に参集命令を出す
③ 都庁第一本庁舎21階C会議室に「健康危機管理室」を設置
④ 関係課長らで構成する「福祉保健局新型インフルエンザ対策本部」を設置

 更に「全庁体制の構築が必要と判断した場合」は──

⑤ 危機管理監に「危機管理対策会議」の開催を要請

のだという。

 しかしながら、「室」だとか「本部」だとか、組織整備ばかりに腐心している間にも、感染患者は爆発的に拡大。パンデミックが発生し、最終的には都知事が「流行警戒宣言」を出す。この段階で公共交通機関の運行が制限され、企業活動などにも自粛が要請されるが、時すでに遅し。冒頭で担当者氏が危惧を示したように、100万人の都民が死亡していてもおかしくないのだ。

 さて、耐性や新型ウイルスが日本国内に侵入するのを防ぐためには、当然ながら水際で食い止める必要がある。成田空港の検疫担当者が明かす。

「2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)時には、人体の体温を計るサーモグラフィを導入しました。しかし発症前で平熱なら発見は無理です。それに本来は個別に体温を計らないと、実は意味がないんです。感染症が発生している地域は把握していますから、そこから到着した飛行機を集中的に調べることは可能です。ですが、飛行機を降りて歩く間に他の乗客と混じってしまいます。正直、今の態勢で感染症やウイルスの流入を防げるのかと問われれば、残念ながら答えはノー」

 過去には防疫現場のずさんさを裏付ける事態も発生している。2003年3月、世界一周旅行クルーズに出ていた神戸市在住の男性がSARSの発生地である中国の港を出港後、船内で発熱してしまう。

 寄港したスリランカの港湾都市コロンボでは、日本人男性客にSARSの疑いがあるとして地元新聞が大々的に報道して大騒ぎになった。ところが、この男性は飛行機で関西国際空港に到着すると、検疫さえ受けずにノーチェックで入国していたことが明らかになったのだ。

 ザルのような日本の防疫態勢では、水際ストップは期待薄。これでは南アフリカで発見された未知のウイルスさえ、国内流入も時間の問題だろう。

 一方、厚生労働省の新型インフルエンザ対策室も東京都感染症対策課も「必要な情報はインターネットで閲覧できます」と胸を張る。だが、東京・港区の慈恵医科大学付属病院に勤務するある内科医師は、「ネット」を見ながら天を仰ぐ。

「ネットに発信している情報って、これだけ? これだけなら、現場では全く対処できません。厚労省の方々に逆に伺いたいのですが、新型インフルエンザと、タミフル耐性インフルエンザの違いを、どのように定義しているんでしょうか。うちの病院ではタミフル耐性の症例も経験していません。新型となると、どう対処すべきか分かりません。タミフル耐性のインフルエンザとは別のものなのかどうかさえ、こちらでは判断できないんです」

 いの一番に感染情報を収集すべき、国内防衛の中枢は「ネットを見よ」と、〝磐石の態勢〟を誇り、最前線の医療機関における認識は、あまりにも危機感が欠如している。こんな受身の公衆衛生行政では手遅れになってしまうと、身内である霞が関の中からも不安視する声が漏れる。

「厚労省は医師の技官が多いけれど、慎重姿勢という悪癖がある。昔から後手後手の対策が多いが、死者が出てからでは遅いんだ。『お上から情報を与えます』という姿勢が、どれほど時代遅れになっているのか気づいていない。公衆衛生行政とは、いかに迅速に情報を集め、医療現場に素早く指示を出すかが勝負だ。消費者行政と似たところがあるが、いずれにせよネットへの情報掲載など最低限の措置であって、『ネットを見ろ』なんて時代錯誤もいいところだ」(経済産業省の製造産業局幹部)

 1996年、24時間風呂でレジオネラ属菌が繁殖、死者が発生した時、陣頭指揮を執ったのは「レジオネラ症防止指針」を公表していた厚労省ではなく、経産省だった。新型インフルエンザでも対応マニュアルや情報をサイトに掲載すれば仕事は済んだとする発想は、厚労省の〝伝統〟に根差していることが分かる。

 パンデミック発生だが、「40年周期」なる説が存在する。世界的規模でのパンデミックが確認されたのは1968年の香港インフルエンザが最後。その時は世界中で100万人を超える死者が出た。

 この説に従えば、次回の発生時期は2008年。当時とは人間の移動量とスピードは比べ物にならないほど増加しているにもかかわらず、9年間、不気味な「沈黙」が続いていることになる。