【無料記事】年末年始「自殺」増加で不動産業者「事故物件・防止裏技」の実態

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 不動産関係者は「年の瀬には自殺が増加する」と口を揃える。実は厚労省などのデータでは、5〜8月に自殺のピークを迎えることが多い。だが都市部における賃貸物件の居住者となると、少し傾向が違うようだ。

 意外なことに、最近では年金で、それなりに安定した収入を得ているはずの高齢者も、未来を悲嘆して命を絶つ例が少なくないという。そのために賃貸住宅での「事故物件」が増加していく。

 事故物件といえば殺人事件の現場となった例が注目されるが、数からいえば自殺が多いに決まっている。一部には格安家賃を気に入り、事故物件を好んで借りる物好きもいるというが、大半の人は違うだろう。殺人や自殺と聞けば、それこそ部屋に怨念が漂っているようで、気が重くなるのが普通だ。ちなみに病死は事故物件には該当しない。

 大家にとっても、事故物件が発生してしまうと、大きな経済的痛手となる。絶対に避けたいとはいえ、いくら入居要件を厳格化しても、セキュリティを厳重にしても、入居者の自殺だけは防ぎようがない。

 ところが、自殺を原因とする事故物件化に関しては、ある不動産業者によれば「裏技」によって防ぐことができるのだという。
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【写真】彩図社公式サイトより『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(菅野久美子著)
https://www.saiz.co.jp/saizhtml/bookisbn.php?i=4-8013-0140-5
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 何しろ、この裏技で賃貸物件はおろか、一軒家まで売ってしまうという。都内の腕利き不動産業者は、最近も1軒、この技で物件を売り捌いたそうだ。

「40歳近い息子さんが引きこもりで、何度もリストカットした挙句、最期は風呂場で自殺してしまったんですよ。救急車を呼んだときは、もう事切れていたそうですけど、最終的な死亡確認は病院ということになりましてね。だから事故物件ではないということになって、無事に売買が成立しました」

 本来、不動産取引にあたっては、死亡事故を含めた情報は「重要事項」として、購入希望者に伝えなければならない。だからこそ前入居者が室内で自殺した場合は事故物件となるわけだが、こちらの裏技は「死んだのは部屋ではなく病院なのだから、重要事項にはあたらない」というトリックを使うわけだ。

 とはいえ、借りる側、買う側からすれば、自殺の現場だったことには変わりない。把握すれば絶対に寝覚めの悪い思いをするだろう。

 全国に多くの仲介物件を持つ、大手不動産チェーンの営業担当者もいう。

「自殺は極めて多いんですよ。その大半を事故物件にしていたら、とてもじゃないけど商売にはなりません。だから部屋の中で遺体となって発見されても、とにかく警察より先に救急車を呼びます。明らかに亡くなっていても、絶対に救急車を呼ばせます」

 だが駆けつけた救急隊員が「もう、駄目です」と病院への搬送を断るケースもあるのだという。そんな時、この営業担当者は隊員を怒鳴りつけるのだという。

「『万が一、蘇生できたらどうするんだっ、責任とれんのかっ、おまえらが殺したことになるんだぞっ!』って怒鳴るんです。傍目にも死後硬直が明確な遺体でも、蘇生の可能性を諦めるな、と力説します。とにかく、どやしてでも運ばせちゃえば、こっちのものです。死んだ場所は無事、病院ということになりますからね。こうやって事故物件を限りなく正常物件に見せるのも、腕の見せ所なんです。とにかく、多いんですから、自殺は。若者から年寄りまで、毎日、何件かはありますよ」

 こうした「隠れ事故物件」が、実は限りなく多いのだという。

「まあ、知らぬが花、です。ばれてしまうケースもありますよ。隣近所の噂が、入居者の耳に届いちゃうとかですね。でも死んだのは、あくまでも病院なんですから大丈夫です。機械だって一緒ですよ。途中の加工場が中国でも、最終組立が日本ならメイドインジャパンじゃないですか。死体もそうです。最終の場所が病院なら、ウソはついていません」

 営業担当者によると、遺体に包丁が刺さっていた、などの明らかな事件性がない遺体であれば、「遺体の運び出し」は成功することが多いという。

「やっぱり救急隊員も、自分たちの判断で死んだんだなんて言われたくありませんからね。病院に運びますよ。隠れ事故物件だと言われれば、そうかもしれません。でも、それを言ったら、中古自動車だって似た話はいくらでもあります。走行距離のメーターは色々騒がれましたが、未だにいじっている中古屋も仲介屋も、いくらでもいますよ。馬鹿正直にやっていたら、商売にはならないのが実態です。私たち不動産屋だって、頭を使わないとやっていけません」

 不動産業界では、以前なら若者の自殺が目立っていたが、今は年金を受給している夫婦の〝心中〟も増えているのだという。

「年金受給者は、ある意味ではとりっぱぐれのない堅い客です。うちなんかでも空室にしておくぐらいなら、入れてしまいます。でも最後は何か、未来を悲観して自殺しちゃうんですよね。高齢者の誰もが、最期を看取ってくれる老人ホームに入居するなんて不可能でしょう。そうすると、ウチが持っているような小綺麗な軽量鉄骨のアパートが選ばれるわけですが、やっぱり寂しくなっちゃうんですかね。危なそうな入居者は、プロパンガスの業者さんなんかに見回りも兼ねてもらって、おかしいなと思えばマークしておくんです」

 そして悪い予感が的中してしまえば、「即119番」だという。110番に電話してしまうと、現場保全となり、司法解剖が行われる。確実に事故物件となってしまう。

 結局のところ不動産業界は──ほんの一部だと信じたいが、真実は逆だろう──事故物件を防ぐため、救急車を霊柩車代わりに使っていることになる。救急隊員からすると、たまったものではないだろう。死者の霊が空中から騒動を見たら、同じ感想を持つかもしれない。

 いずれにせよ、こうして世間には隠れ事故物件が静かに、しかし確実に、増加していっているそうだ。特に年末年始は自殺の増える要注意時期にあたる。

 では、防止策はないのだろうか。

「私たち不動産業者からすると、『トラブルがあった物件だと入居後に発覚したら、引っ越し費用も含めて被害額を請求しますよ』と、あらかじめ念を押す客は、正直言って嫌ですね。そういう用心深い客には、隠れ事故物件を勧めることはありません。何しろ裁判沙汰ともなれば、8割から9割の確率で敗訴ですからね。隣近所に聞き込みでもされれば、救急車が来ていたと覚えているものです。『死んだらしいよ』という噂は特に広がりやすいですね。要するに聞き込みも辞さないという客は、アパートのなかでも限りなく新築に近い物件を中心に、きちんとご案内します」

 ニーチェは「人間は誇りをもって生きることができない時は、誇らしげに死ぬべきだ」と説いた。しかし、少なくとも自室で死を選んだ場合、不動産業者によって「死者の誇り」が壊されてしまうことは確かなようだ。

(無料記事・了)