2017年6月22日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第3回

2017-06-22 11.42.13

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第3回は、西村氏の「フランス在住レポート」という内容だ。

◇第2回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000511/

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【写真】パリ市公式サイトより
http://www.paris.fr/
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編集部(以下、編) 4年が経って、ラトビアの住民許可証の使い勝手といいますか、ヨーロッパの居心地はどうですか?

西村博之氏(以下、西村) 住み始めたのは2015年からです。ラトビアではなくフランスのパリ。フランスでも滞在許可証のようなものを取得しています。

本堂まさや氏(以下、本堂) なぜフランスを選んだんですか? 大学の時に1年間、アメリカに留学しているから、英語圏の方がよかったんじゃないですか?

西村 フランス語が全く喋れないので、フランスを選んだんです。

編 語学留学ということですか?

西村 僕は、ネットの仕事ができれば、住む国はどこでもいいというのがあります。その上で、僕が観察している限り人間は、ある国に住めば、その国の言葉を喋られるようになります。それなら、得をしそうな言語を覚えようと考えたんです。全然言葉を知らないフランスに住んで、フランス語を喋られるようになるか試してみたんですが、ある程度いけるので、便利ですね。

本堂 1年で喋られるというのは凄いですよ。

西村 でも日本でも外国人がコンビニで働いていますけど、別に超優秀な人でなくても、レジで日本語を喋っていますよね。

編 そういえば先ほどメールを送って頂きましたが、「iPhoneから送信」と書いてあるんだろうなというところがフランス語になっていました。

西村 フランス語になっていましたか、すいません……。フランス語を覚えようと思って、iPhoneの設定はフランス語にしているんです。

編 パリの住み心地、日常生活の実際など、どんな感想をお持ちですか?

西村 飯は旨いです。外食をしない限りは食費も安いので、かなり食生活は充実します。例えばエシレというバターがあって、日本では高級品扱いですが、パリならスーパーでも売っています。250グラムが日本円で200円ぐらいです。
 
 向こうで高級バターというと、ボルディエというノルマンディーの手作りバターがあって、たまに僕も買うんですけど、これだと250グラムで300円ぐらいかな。ところが日本の楽天で見ると、3000円ぐらいの値段になっています。

本堂 乳製品は輸入関税が凄いですからね。

西村 牛耳っている人がいるわけです。あと、恵比寿にユーゴ・デノワイエという肉屋ができたのですが、ここはフランスにもともとあるんです。星がついているレストランに肉を卸しているんですけれど、僕らも行けば普通に買えます。値段も100グラム200円ぐらいで、そんなに高いわけじゃないんです。

編 日本円で200円ですか?

西村 2ユーロです。だからステーキで200グラム買ったとしても、500円で収まる。だから星付きのレストランで食べる肉と同じものが2人で1000円しなかったりするわけです。これは楽しく暮らせますよ。

編 松坂牛が500円で買えるようなものですか。

西村 あとフランスパンが美味しいです。パリで食べて理解しましたが、とても乾燥していて、美味しいフランスパンは乾燥していないと作れないようなんです。雨の日は膨らみが悪いんですね。乾燥した日に膨らんでいるのが美味しい。だから同じ材料を持ってきて日本で焼いても、やっぱり無理じゃないでしょうか。

編 1日経ったフランスパンを齧ると、破片が凶器のようになって口から血が出たという話を聞いたことがあります。

西村 それぐらい乾燥していますね。

編 フランス語の習得状況は、どうですか?

西村 日常会話は何とかなります。やはり住んでいるからですね。

編 どんなところにお住まいなんですか?

西村 パリの部屋は狭いので、1平米あたりの家賃は東京より高いんです。僕が住んでいるのはワンルーム的な部屋ですね。30㎡ぐらいでしょうか。

本堂 結婚しましたよね?

西村 しています。

本堂 奥さんと一緒にパリで暮らしているんですか?

西村 一緒です。

花田庚彦氏(以下、花田) じゃあ今回、奥さんと一緒に来日したんだ?

西村 そうです。ちょっとずれて、別々に入ったんですけどね。僕だけ用事があったので、先に来ました。まあ、来日なのか帰国なのか分からないですけれども(笑)

花田 そうだ帰国だ、来日ではないよね(笑)

本堂 フランス人になってしまった(笑)

編 日本には年に2、3回は帰られるんですか?

西村 一応は月1です。何だかんだやることがありまして。あと不在時の郵便を保管してくれるのが1か月ということもあります。

本堂 じゃあ、シャルル・ド・ゴール空港から飛んでくるんですね。

西村 そうです。11時間ぐらいです。

本堂 きつくないですか?

西村 僕は飛行機が好きなんです。

(第4回につづく)

2017年6月15日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第2回

2017-06-15 12.57.18

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第2回は、何と西村氏が現在、ラトビアの住民権を持っているという意外な展開になる。

◇第1回記事
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000510/

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【写真】ラトビア政府観光局公式サイトより
http://ww3.latvia.travel/ja
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花田庚彦氏(以下、花田) それで、いくらで2ちゃんねるを売ったの?(笑)

西村博之氏(以下、西村) 売ってはいないんです。シンガポールに作った会社に譲渡したという形にしただけです。

花田 となると、今の収入源は?

西村 データを使う権利をホットリンクという会社に契約していて、そこから収入を得ています。

花田 結構な額なの?

西村 まあ、結構というほどでもないですけど、そこそこです。

花田 アクセスが、かなりの数だろうからね。

西村 でも、2ちゃんねるは乗っ取られているので、どれぐらいのアクセスなのか、僕は分からないんですけどね。

※編集部註
 2014年4月1日、西村氏は『昨今の2ちゃんねるの現状に関して。』との文書を発表し、2ちゃんねるが「乗っ取り」の被害に遭ったことを明かした。
 その後、15年9月に西村氏が、2ちゃんねるの管理人、ジム・ワトキンス氏に対して訴訟を起こすことを表明するも、16年8月にWIPO(世界知的所有権機関)に対する西村氏の申し立ては却下されたとの報道が行われた。

西村 WIPOの審理は、まだ続いています。商標などの問題です。そもそもWIPOとは例えば、トヨタが「toyota」というドメインだったとして、「toyota.mx」がメキシコで取られましたというときに簡易的な判断をする機関です。

 こちらの申し立てに対し、WIPOは「もともと関係があった相手が『乗っ取り』を行ったという主張で、事実関係も複雑なので、訴訟を起こして裁判所で争うべき」という結論に至ったんです。

本堂まさや氏(以下、本堂) 色々ありましたよね。ところで、昔はサンダルを愛用していたのに、今はクロックスに変わっています。出世しましたね(笑)

西村 はい、おしゃれになりました(笑) 先日、ラトビアに行ったんですが、その時にサンダルが必要になって、購入したんです。僕は今、ラトビアの住民権を持っているんです。

花田 そうなの!? 国籍は日本だよね? 

西村 国籍は日本です。ラトビアで発行してもらっているのは、住民許可証になります。ですから労働もできるんです。

花田 労働する気、ないでしょ?(笑)

西村 ラトビアはEU加盟国なので、住民権を持っていると、EU域内なら、どこにいてもいいんです。だから非常に便利ですね。

花田 難民みたいだね(笑)

西村 難民は住民許可証を持っていませんよ(笑)

編集部(以下、編) いつ頃、取得されたんですか?

西村 4年前ぐらいです。

編 きっかけは何かあったんですか?

西村 ネットで探して、面白そうだと思ったんです。

 例えばスペインにも同じようなシステムがあるんですが、基本的には滞在のための許可証ですから、半年など一定期間いなければならない、というルールがあります。ところがキプロスとラトビアは滞在しなくてもいいという珍しいものなんです。

 両国とも取得の条件は定期預金の口座作成なんですが、キプロスは銀行封鎖の危険性があったので、怖いと思ってラトビアにしました。

編 いくらぐらいを定期預金にしなければならないんですか?

西村 僕がやった時は20万ユーロでした。

本堂 20万ユーロは結構高いですよね。

花田 1ユーロって、円でいくらだっけ?

本堂 今なら110円から120円ぐらいですから、2000万円は越えますね。

西村 でも僕が定期預金を作った時の利息は4%でしたからね。

編 4%ですか!?

本堂 凄いですね。不動産投資よりリターンが大きい。

西村 ですから、とりあえず預けましたが、それだけで何か物凄く得をしているという、謎な状態になっています。

花田 遊んで暮らせる(笑)

西村 いいえ、ただの庶民ですよ(笑)

編 EUを自由に移動できて、なおかつ働くことも可能なんですね。

西村 働けるのはラトビアだけです。とはいえ、ラトビア住民として働くので、仮に他国で仕事をしたとしても、そんなに問題は発生しない、というのがEUの仕組みなんですね。

(第3回につづく)

2017年6月8日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第1回

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 日本における「インターネット元年」は1995年との定義がある。だとすれば、わが国のネットは21歳。既に成人しているわけだ。

 当時は18歳だった関係者も、今は38歳と「不惑」が目前。いや、世界レベルの「ネット元年」は82年だともいう。するとネット自体が30歳を過ぎている。立派な中年ではないか。

 かつて、インターネットどころか、パソコン通信が「ニューメディア」と呼ばれた時代があった。それが今、ネットに「ニュー」の要素は乏しい。電気や水道、ガスと同じように「公共インフラ」と見なされている。

 存在して当り前というわけだが、それは同時にネットの「オールドメディア化」が進んでいることも意味するだろう。

 意外にもネットは高齢化している。ならば改めて、この20年を振り返ってみると、何が見えてくるのだろうか。

 それも、ありきたりの関係者ではなく、どちらかと言えば、少し〝ブラック〟な才人たちに回顧してもらえば、現状の理解、未来の予測が深まるに違いない──。

 こんな企画趣旨で、我々は『不惑のインターネット』の連載を開始してみる。第1回のゲストは、2ちゃんねるの開設者、西村博之氏だ。

 西村氏にインタビューを行って頂いたのが、暴力団や薬物などの取材で知られる、フリーライターの花田庚彦(歳彦)氏と、老舗サイト『激裏情報』の代表・本堂まさや氏だ。

 このお三方、実は昔に座談会に出席されたという縁もあり、久し振りの再会となった。では、前置きはこの程度にして、さっそく鼎談を開始しよう。

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【写真】対談中の西村博之氏
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花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの創設は何年だっけ?

西村博之氏(以下、西村) 1999年です。でも、そう答えているのを覚えているだけで、いつから始めたかというのは、実感のレベルでは全く記憶に残っていないですね。

花田 以前、ムック『ザ・ブラックマーケット (2)』(ワニマガジン社)で、座談会のようなものを開いたじゃない。新宿のロフトプラスワンで激裏とか色んなトークライブもやったけど、ムックの座談会では『2ちゃんねるは要するにアングラサイトの入口だ』という指摘が出て、ひろゆきは思い切り否定したよね。あの気持ちは、いまだに変わってない?

西村 変わっていないのではないでしょうか、もう、その時に何を言ったのか覚えていないですけれど(笑)

花田 とりあえず、編集部から聞きたいことを進めてもらえますか。

編集部(以下、編)いきなりで申し訳ないんですが、今でも覚えている、最も幼かった時の記憶は、何になられますか?

西村 多分、3歳ぐらいの時の記憶だと思います。玄関のドアを開けたところに棚があって、そこに洗面器などが置かれていたような気がするんですが、それが本当にそうなのかも覚えていませんね。

編 今されている仕事の原点を辿っていくと、何歳ぐらいの頃に行き着きますか? 例えばインタビュー集『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)で西村さんは、

<小学生のときに、MSXでBASICプログラミングをやったりしてたんですけど、そのあと古いPC−98をゲームソフトといっしょにもらって、ちょっとやって>

と答えておられますが、この時期にまで遡られるのでしょうか?

西村 基本的に行き当りばったりですから、「これをやったから、これを生かそう」という考えで生きてきた実感は持っていません。

 また、「自分が持っているスキルはこうだから、これをしよう」という思考も、今のところはあまり持っていませんね。

編 この『就職しない生き方〜』のインタビューを拝読して……

西村 何を喋ったのか、覚えていないんですけれども(笑)

花田 そのスタイル、本当に変わってないなあ(笑)

西村 変わる必要がなかったせいだと思います。例えば戦争に直面すれば、考え方は変わるはずですが、特にそういうこともなく、だらだらと楽しく生きてしまいましたから。よくないと思うこともあるんですが……。

花田 メディア側からすると、ひろゆきは色んな意味で映えるだよね。だから大手でも取り上げやすいわけだけど、例えば堀江貴文さんと一緒にテレビに出たりしたじゃない。ああいうのは自分が求めていたことなの?

西村 求めていたということはないですね。単に頼まれたから出演しているだけです。

花田 求めているのは視聴者と制作会社ということ?

西村 いえいえ、視聴者は関係ありません。制作会社などの発注側です。

編 すいません、先の『就職しない生き方〜』を、また引用させて頂きたいんですが、

<高校から大学までぱったりパソコンにさわらなくなって、遊んでばかりいました(略)同じ学校の友だちの中に、親が帰ってこない家があった。鍵をかけてなくて、そこに行くといつも友だちがいたんですね。そこでいつも集まって……ゲームしてました(笑)>

という箇所がありますけど、当時のゲーム機はスーパーファミコンですか?

西村 スーファミです。『ファイナルファンタジーⅥ』をやったりしていましたね。

編 いまだに強烈な印象に残っているゲームソフト、というものはありますか?

西村 いいえ、全然記憶にないです。

花田 ひろゆきは、そこは適当だよね(笑)

西村 僕は基本的に記憶力が悪いんです。言われて出てくるものはあるんですけど、引出しの中から探すということができない。

編 大学時代については、

<HTMLを覚えてホームページが作れるようになったんで、バイトがわりに仲間とホームページ制作の会社をやってみようと。注文が来たらやろうか、と言っていたら、ほんとに注文が来た>

ということですが、この時に設立されたのが、合資会社東京アクセスですね?

西村 そうです。東京アクセスはまだ、一応は存続していますね。

(第2回につづく)

2017年5月16日

【無料記事】「共謀罪」でも防げぬ「複数パスポート所持」の大問題

2017-05-14 12.58.20

 日本が工作員天国と言われて久しい。この背景の1つとして、先に民進党・蓮舫代表の「二重国籍」があるのをご存じだろうか。

 世界には、国内出生者には自動的に国籍を付与する「出生地主義」を採る国が存在する。具体的にはアメリカ、カナダ、ブラジ、アルゼンチン、などといった国々だ。

 例えばアメリカでは、たとえ両親が日本人国籍であり、2人の親類縁者にさえアメリカ国籍を有した人間が存在しなくとも、妻がニューヨークで出産すれば、子供にはアメリカ国籍が与えられる。

 これを利用すれば、パスポートを2つ有することが可能になるのだ。

「そんなはずはない」と誰しも思うだろう。テロや不法移民の対策で、入管の規制はかつてないほど厳しくなっている。複数のパスポートを手に入れた瞬間、捜査機関に目を付けられないほうがおかしい──。

 だが先頃、池袋のパスポートセンターにこんな珍妙な問い合わせが寄せられた。

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【写真】法務省公式サイト「国籍の選択について」より
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06.html
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「友人に子供が生まれたのだが困っている。池袋のパスポートセンターで申請した子供のパスポートを取りにいきたいのだが、子供が海外にいて取りにいけない。子供が窓口に行かずになんとか受け取れる方法はないか?」

 パスポートは本人確認での手渡しが原則だ。乳幼児だろうと例外は認められない。やむなく本人が入院中であるなどの理由がある場合は、担当者がそこまで赴き、手渡しすることになっている。

 ところが、この子供はパスポートを所持していないにもかかわらず、海外にいるというのだ。どうやって日本を出国したのだろうか。海外で生まれた子供なら、領事館など現地の日本在外公館で申請し、受領するという方法がある。だが、この子供は池袋で申請したというのだ──。

 調査の結果、ミステリーの謎が解けた。この「友人」は、かつて中国籍を持ち、日本に帰化していたのだ。

 そして親は中国と日本のパスポートを2通所持。子供は中国のパスポートだけを持っていた。親の帰化に伴い、子供にも日本のパスポートを与えようと池袋で申請したのだが、事情があって中国に帰る必要が生じた。そのために親は日本のパスポート、子供は中国のパスポートで出国した。

 国籍法に詳しい関係者は、「2国のパスポートを持つことを合法とは言えませんが、違法というわけでもないのです」と説明する。

「日本人を例にとりましょう。アメリカで生まれた日本人は、アメリカと日本の二重国籍になります。22歳までに国籍を選択する必要がありますので、日本国籍を選んだとします。ではアメリカのパスポートを返納しなければ、日本のパスポートを取り上げられるかというと、そんなことはありません」

 蓮舫代表のケースでも垣間見えたが、そもそも二重国籍の人間が、国籍を1つに選ぶのはまだしも、もう1つを「離脱」する手続きを行うかは任意というのが実態だ。

 ちなみに検索すれば、二重国籍だった日本人が、外国籍を離脱した経験を綴ったブログを見つけることができる。相当に大変な作業のようだ。これで怖気付く人がいても、全くおかしくない。

 話を元に戻せば、少なくとも日本において、2つのパスポートを保有していることの法的罰則は存在しない。国籍法で「日本国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣言」を行えと定めているだけだ。日本とアメリカで連絡を取り合い、「2つのパスポートを所持していないか」などとチェックするシステムも存在しない。

 よって、二重国籍の人間なら、2つのパスポートを取得することは比較的、容易なのだ。それにしても、これだけテロ対策で世界的に入国管理が厳しくなっているご時世に、ずいぶんと世界はザルな制度を運用しているものだ。パスポートというシステムが制度疲労を起こしていると見ることは可能だろう。

 それにしても、ある時は中国人、ある時は日本人、と成り済ますことが可能なのだから、スパイにとっては──民間ベースの産業スパイであっても──極めて優先順位の高い関心事となる。

 更に深刻なのは偽造パスポートの問題だ。偽造において最重要なのは、パスポートの素材だ。複数のパスポートが容易に発行しうる状況では、完全な本物という、またとない素材が闇市場に流出するリスクを増加させてしまう。

 実例もある。1987年に発生した大韓航空機爆破事件で、金賢姫ら北朝鮮籍の実行犯らが日本の偽装パスポートを所持していたことは記憶に新しい。彼らがどのようにして偽装パスポートを作成したかといえば、本物を無断借用したりしている。

 スパイという極端なケースでなくとも、特に日本との二重国籍は〝権益〟に喩えられるほど旨みがあるという。フィリピンやタイなど、東南アジアに詳しい関係者が指摘する。

「日本国籍が憧れの対象となっているのは、日本の医療制度が充実していることも大きい。最先端の医療が、これだけ安い値段で受けられる国は、世界のどこを探しても他にはない。つまり日本人であることは、世界一幸せだということを意味する」

 日本人と結婚し、帰化を目指そうとする動きが生じるのも納得だ。おまけに国籍法が禁じているとはいえ、母国の国籍を喪失しなくても済む可能性さえ残されている。チャレンジする価値は充分にあるだろう。
 
 更に驚愕の事実もある。さるブラジルの邦字新聞の社長は次のようにして現地記者を確保しているという

「ブラジルで就労ビザはなかなかおりない。だから、うちの記者は日本から来て、現地の女の子と結婚して子供をつくっちゃうんだ。子供はブラジル国籍が取れるから。そうすると、親もブラジル国籍が取れる。就労ビザよりもそれが一番早い」

 これも日本国籍を喪失しないという安心感があってのことなのは間違いない。

 再び〝スパイ〟の話に戻れば、先頃、暗殺された金正男氏も、ずいぶんと偽造パスポートで日本に入国していた。日本における不法入国の「水際対策」に疑問を抱かれても不思議はない。共謀罪やらテロ対策を声高に謳う前に、まずは足下のガードから守ってはどうだろうか。

(無料記事・了)

2017年5月15日

【無料記事】PTA役員「人材難」で「入学式軟禁事件」多発中

pta2017-05-11 15.32.54

 大阪出身のAさんは、在京の一部上場企業で広報部に在籍している。子供が通う、ある中学校のPTA会長まで務めている。

「ほとんどPTAの会議には出られませんね。最初は母親たちから半ば押し付けられる格好だったんですが、長男の内申点にもそれなりの影響があることがわかり、次男が卒業するまでは引き受けるつもりです」

 相当に邪な動機で会長職を続けるAさんだが、何があっても出席する必要がある行事は入学式だという。

「会社には『入学式だけは、どうか……』とお願いして、時間を確保しています。ただ、どうにも気が重いのは、会社で半休を取ることではないんです」

 入学式の時期といえば、働く人間にとっても年度初めだ。半休といえども取得には気を使いそうだが、それよりも大変なことなどあるのだろうか?

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【写真】『平成28年度優良PTA文部科学大臣表彰被表彰団体一覧』より
http://manabi-mirai.mext.go.jp/assets/files/H26PTAjirei/syouchuu.pdf
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「うちの中学校では入学式が終わったその場で各クラスのPTAの役員決めをするんですが、終わるまで逃げられないように体育館の扉を閉めてしまい、役員が決まったクラスから入学式の記念撮影をするんですよ。いわば、子供も親も軟禁状態にするんです。こんなやり方、あまりにも稚拙で、ほとほと嫌気が差すんですが、お母さん役員からは『こうでもしなければ役員は決まらない』『先に入学式の写真を撮ってしまったら、仕事を理由に親たちは逃げてしまう』などなど理由をならべ、一向に改善されないんです」

 Aさんの子供が通う中学校は、世田谷区に隣接する郊外に建つ。しかしながら、これはAさん周辺の話ではなく、全国の〝スタンダード〟となりつつあるという話だそうだから、驚きだ。

 どんなに多忙な親でも、子供の入学式だけは調整してやって来る。その時とばかりに体育館に軟禁し、役員が決まるまでは入学式の写真を撮らせないという作戦。賢いと言えるのかもしれないが、今や戦後70年。国際化教育の必要性が叫ばれる日本社会で行われている〝儀式〟と考えれば、親でなくとも泣けてくる。

「でも、その作戦が成功すればいいですけど、失敗することも少なくないんですよ。結局は何十分も全員が押し黙ったままということも珍しくありません。その時は『じゃあ、くじ引きで選びましょう』と提案するんです。だったら最初からくじ引きでやればいいだけの話じゃないですか」

 そもそも論で言うのなら、PTAの参加は任意だ。それが体育館に軟禁するという乱暴さはPTAの精神からはあまりにもかけ離れている。

 PTA会長たるA氏も、それで憤りを感じている。ならば、PTA会長らしく、この悪慣行を是正すればいい。いや、是正するべきだ──そう問うと、A氏はこう答えた。

「子供の内申点に響きますから、それは無理ですね。私はお飾りでいいんです。子供も生徒会長ですしね。公立校への進学には、とにかく内申点確保が最優先ですから。そつなく、波風を立てず、流していけばいいんです。そもそも母親役員に担ぎ上げられているだけで、会長をやりたくてやっているわけでもないですしね。全ては子供の進学のためです」

 かつてのPTA会長といえば大学教授だったり、地元の名士だったりと、それなりの人物が就くことも珍しくなかった。だが、こんな世界にも「人材難」の波は押し寄せ、今では上場企業に勤務する普通のサラリーマンでもありがたがられる時代だという。

 そして、なぜ人材難が発生したのかという根本理由について、A氏は声を潜めながら解説する。

「そもそもですね、社会的に立派な人のお子さんは、私立の中学に通っています。公立には少ないですよ。近所の小学校なんかじゃ、不動産屋など自営業の父親とか、時間を融通しやすい人ばかりがPTA会長に祭り上げられていますからね」

 昨今、PTAが必要か、不必要かという議論も盛んなようだが、もう結論が出ているような気がするのは弊誌だけだろうか。

(無料記事・了)

2017年5月12日

【最終回】プロ野球B級ニュース2016㉕何でそうなるの?

17年5月12日 baseball 2017-05-11 13.05.39

 この『プロ野球B級ニュース事件簿2016』は、決してスポーツ新聞の1面を飾ることはないが、愛好家には極めて興味深い記録やエピソードで16年シーズンを振り返ってきた。

 好評を博した連載も、残念ながら今回で最終回。掉尾を飾るのは、やはり「B」の精神に満ちた「何でそうなるの?」篇。

 ど真ん中の珍プレーでもなく、かといって好プレーというわけでもない。しかしながら、技術の未熟な高校球児には絶対不可能な、プロならではのプレー。

 いやはや、そもそもの観点が「何でそうなるの?」なのだから、これを説明するのは極めて難しい。さっそく、以下に記した4選手のプレー要約をご覧になって頂きたい。

①2回もファウルがベースコーチを直撃
 角中勝也(ロッテ)
②メジャーも驚愕の「歴史的大暴投」
 澤村拓一(巨人)
③〝鈍足〟が生んだホームイン
 村田修一(巨人)
④トリプルスリーの〝鬼ごっこ〟
 山田哲人(ヤクルト)

 それでは、もし機会があれば、2017年篇で、またお会いしましょう。ご愛読、本当にありがとうございました。

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【著者】久保田龍雄
【購読記事の文字数】字
【写真】澤村拓一公式Twitterより
https://twitter.com/sawamura_h?lang=ja
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2017年5月11日

【無料記事】セレモアホールディングスのオーナーは「演歌歌手」

HONEST2017-05-11 11.04.27

 セレモアホールディングス(東京都立川市柏町)といえば、関東地方では業界首位に躍り出ようかという、葬祭業などで急成長を遂げているガリバーの1つだ。

 業界の活況を示すエピソードに、昨今は骨壺の高級化が進んでいるという。高価格帯の陶器製が飛ぶように売れているのだとか。関係者が苦笑する。
 
「アベノミクスで景気がいいのは不動産業より、葬祭業界ですよ。セレモアさんなんかは、ほら、あんまりいいから、オーナーさんはまるで演歌歌手ですよ。あの店、見ました?」
 
 あの店とは、アメ横の高架下にある『リズム』である。店内には演歌歌手という『HONEST・辻』なる中年男性のポスターが、店内の至るところに貼られている。リズムはレコード店なのだが、HONEST・辻氏の個人商店のように思えてくるほどの〝占有率〟だ。辻氏の他に目立つものといえば、なぜか展示されている巨大なピーポくんぐらいだろうか。

 関係者の証言通り、このHONEST・辻氏こそ、葬祭業界のガリバーたる、セレモアホールディングスを一代で築きあげたその人なのだ。高卒の叩き上げ。まさに立志伝中の人だ。

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【写真】アマゾンで販売されているHONEST・辻ベストアルバム『心の唄 ゴールデン ベスト アルバム』のジャケット写真
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 以前は辻堂司なる名前で講談社から詩集を自費出版──ある局長を抱き込んで、自費出版に見えないように画策はした──したこともある。詩人に演歌歌手と道楽もここに極まれりの感があるが、数年前に国税が入ったときはこうしたリズムに注ぎ込んだ経費処理については背筋が寒くなったことであろう。

 セレモアホールディングス傘下の葬儀社で身内を送り、その内容に感謝した向きは、一度はアメ横の名店・リズムを訪れてみてはどうだろうか。

 ちなみに、このリズム、「店主が認めた演歌だけ」を扱うと謳っている店である。最後に、元社員の恨み節をご紹介し、本稿を閉じよう。

「芸名通り、道楽も会社にツケを押しつけずに、HONESTにやってほしいですね」

(無料記事・了)

2017年5月10日

【無料記事】「明治の墓」も「個人情報保護法」の対象にした「谷中霊園」

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 東京・谷中霊園は、都内有数の桜の名所として知られる。上野公園からも至近という霊園は、今春も並木道ではソメイヨシノが満開となり、往来の目を楽しませた。

 霊園としての知名度や〝格〟は雑司ヶ谷や青山と並ぶ。いずれも東京都が管理しているが、実際の業務は都の外郭団体である公園協会に任せられている。各霊園で働いている現場職員は、東京都公園協会の職員、というわけだ。

 例えばゴールデンウィークの陽気に誘われて、谷中霊園の付近まで散策したとする。その時、「そういえば、ここに恩師の墓があったんだ」「遠い親戚だけど、墓は谷中霊園じゃなかったっけ?」と思い出したとしよう。

 中に足を伸ばしてみると、霊園は広大だ。どこに目指す墓があるのか、皆目検討もつかない。とすると、多くの人々が管理事務所に向かうのではないだろうか。

 だが訊ねてみても、職員の回答は決まっている。「お教えできない決まりになっております」なのだ。理由は「個人情報保護の観点」だという。作り話ではない。筆者自身が実際に経験したことだ。

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【筆者】下赤坂三郎
【写真】都立霊園公式サイトより「谷中霊園・園内マップ」
https://www.tokyo-park.or.jp/reien/park/map073.html
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「故人」の墓が「個人」情報の保護とは……ダジャレはこれぐらいにして、個人情報保護とは対応を面倒に思った窓口が口実に使ったのかと思いきや、所長でも回答は同じだった。

「私どもはあくまでも東京都から管理を委託されていますので、東京都の指示があればお墓の有無はお教えできます。東京都と交渉していただけませんか」

 筆者が「なぜ教えられないのですか?」と質問しても、結局のところ公園協会が明白な回答を用意しているはずもない。精一杯苦悩し、最後は東京都に下駄を預けてしまった。

 都庁の幹部に問い合わせると、次のような回答だった。

「情報開示請求を行って頂けませんか。開示の決定が出れば、対応せざるを得ません」

 結果は、案の定。存否応答拒否──。東京都では国が定めた個人情報保護法に準拠した運用準則によって、故人の墓が霊園にあるかどうかさえ、ないかどうかさえ、答えない、というわけだ。

 筆者にとって墓参は仕事というと大げさだが、取材の一環として訪ねたいと思っていたのだ。都の対応が、あまりにも興味深いので情報開示請求を行ってしまったが、改めて墓参を希望する理由を説明してみた。

「私が情報開示を求めたのは、谷中霊園ができた直後、明治時代に建てられたお墓ですよ。すでに亡くなって100年以上が経っている方の墓があるかないかが個人情報保護とはどういう了見でしょうか?」

 意味ある回答を都が行うはずもないので、先に進もう。では都立霊園をはじめとする公営霊園は、墓の有無や所在地を教えるケースはあるのだろうか。答えは1基の墓につき1人の問合せだけには応じる。それは墓の管理者だ。

 墓の管理者とは要するに、管理費を納入する者のことだ。具体的には故人の子供か孫といったところだろう。この管理者以外は、たとえ故人の妻だろうが、きょうだいだろうが、全ての問合せに対して「存否応答拒否」と決まっている。

 公営霊園では現在、管理者と連絡の取れなくなった墓の整理が喫緊の課題となっている。団塊の世代など第1次ベビーブーマーが急速に高齢化し、墓地の供給が追い付かないのだ。

 その一方で、たとえ管理者も死亡して連絡が取れなくなったとしても、せめてきょうだいや親類縁者からの問合せに開示するようにすれば、無縁仏・無縁墓の増加に歯止めがかけられるはずだ。

 だが現実は、血の繋がったきょうだいでも、親類でも、問い合わせても答えない。なのだから、管理者と連絡が取れなくなったら、親戚を探そうなどと考えてもいないのだ。これでは本来、無縁ではない墓でさえ、無縁墓と化していくのは当然の流れだろう。

 皮肉なことに、都立霊園の管理事務所は「存否応答拒否」を貫く一方で、霊園に眠る著名人の墓所一覧は用意している。私は厭味の質問を、都庁の課長にぶつけてみた。

「この著名人名簿は、個人情報保護法が成立する前から用意しておられましたよね。故人の生前に、掲載の許諾は得られたんですか?」

 課長は「ご遺族からはもらっているはず、ですが……」と答える。私は質問を重ねる。

「そうでしたら、承諾書の有無だけを情報開示請求してみましょうか。あると仰ったのですから、当然ながら存在するという回答になると思いますが」

 課長は黙して答えない。私は続ける。

「谷中霊園の著名人一覧には、ここに、ある殺人事件の犯人の墓も紹介されていますね。当時は世相を賑わしたということですが、となると殺人事件の犯人遺族からも承諾書を取った、ということになりますね?」

 やはり課長は黙して答えない。

(無料記事・了)

2017年5月9日

【無料記事】日中「貧富逆転」で「中国人妻」離婚急増

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 群馬県のある農家で起きた悲劇である。今年、70歳になる野菜農家の主は、突如、妻からこんな罵声を浴びせられた。

「わたしのほうが貧乏になっちゃったじゃない」

 農家としての経営は悪くはない。農閑期には旅行にも行き、結婚してから25年、女房孝行はそれなりにしてきたつもりだった。国際結婚。女房は中国の農村から出てきた。それなりに幸せな家庭を築いてきたつもりだった。

 当初は日本語が不自由だった女房も、子供が産まれて保育園に預けるようになった頃から、子供と同じペースで日本語も上達し始めて、細かな意思のやりとりもできるようになっていった。

 やはり周辺に嫁いできた中国人花嫁やフィリピン人の花嫁ら外国人女房たちとも適度に交流し、すっかり日本での生活も板についたはずだった。

 変化が訪れたのは数年前──。

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【写真】中華人民共和国の国旗
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 中国にいた女房の家族らが時折、東京や福岡に「爆買い」ツアーに来るようになった。結婚当初はずいぶんと仕送りもして、電化製品なども折に触れて送っていたが、いまや中国の経済成長は著しく、ついに日本人消費者をしのぐ経済力を蓄えるに至ったのだ。

 かつては十人単位で遊びにきたことがあった女房の親兄弟たちも、今となっては来日しても群馬まで立ち寄ることはなくなった。ツアー旅行のゆえに自由行動ができないためだと思っていたが、女房の叫びを聞けば、事情は違っていた。

「うちが貧しいからよっ。こんな貧しい農家に嫁いだってバカにされてるのっ」

 そこで初めて、中国の農家であった女房の親兄弟は、農村開発によって土地成金となり、いまや都会並みの豊かな暮らしをしていることを知ったのだった。

 あるとき以来、女房はことあるごとにこう言い出す。

「あたしばっかり貧しくなっちゃったじゃない。あたしばっかり貧しいじゃない。こんなに貧乏になっちゃったじゃない」

 もちろん、農家ゆえの労働の辛さがあるとはいえ、決して貧しくはない。トヨタホームで建てた二重サッシの我が家に、家内専用のクラウン アスリートもある。農家としては豊かなほうだと思ったが、中国からの成金ぶりを知らせる便りに、女房はすっかり、日本の農家での生活を「都落ちした貧しいもの」と見るようになってしまったのだった。

 今年に入り、突きつけられたのが「離婚」だった。

 女房はまだ50代だが、夫はすでに70歳。再婚などは、もはやかなうまいと考え寂しくなったが、子供はすでに独立して東京で暮らしている。いずれは農家も自分の代で終わりにしようと考えていたので、なじられ続けるのにも疲れ、同意した。

 日本での生活がすっかり板についていた女房が最後に口にしたのは「ザイサンブンヨ」なる言葉だった。

 結婚してから25年間、働いた分として貯金の半分を寄越せといわれ、しぶしぶ、3000万円を渡すと、女房は去って行った。

 東京にいる子供からの連絡で、その後「元」女房は中国に帰り、株への投資などで大もうけしていると知った。

 その後、あるときのことだった長野の総合病院に行った折、かつてやはり中国人花嫁をもらった農家の主人と偶然にもロビーで顔を合せた。

 聞かれる前にと思い「実は離婚して」と切り出すと「こちらも」という話になった。聞けば、当時、中国に出向いて見合いしたうえで嫁いできたもらった中国人花嫁たちが、今、大挙して故郷・中国へ戻っていっているのだという、そんな話を聞かされた。

 彼女たちのなかでは、ついに「豊かな中国、貧しい日本」になり、かつて日本に来たときのように、富める場所へと移動していったのだろうと納得した。

 中国人花嫁も今は昔。日本を捨てて去って行く。残されるのは、ひとり、年上の日本男子ばかりなり。

(無料記事・了)

2017年5月8日

【無料記事】スマホ証券「One Tap BUY」に〝マネロン疑惑〟

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 2017年2月のある日、金融関係者が集まった席である人間が「みずほ証券やドコモは分かっているのか、あの会社を……。危機管理はどうなっているのだ?」と眉間に皺を寄せた。

 彼が憂慮したのは、2月14日にスマホ証券「One Tap BUY」にみずほ証券やNTTドコモなどが15億円出資したことを指す。みずほ証券だけでも6億円といわれている。同証券は昨年7月にもソフトバンクから10億円の出資を受けており、合計25億円をスタート時にかき集めたことになる。

 しかし関係者が先行きを危ぶむ理由は2つある。1つは事業が成り立つのかだ。

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【写真】One Tap BUY公式サイトより
https://www.onetapbuy.co.jp/
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 インターネット証券は株式売買手数料が自由化した1990年末に相次ぎ設立された。熾烈な手数料引き下げ競争の結果、現在はSBI証券や楽天証券など大手6社で個人売買代金の9割近くを占める。

 手数料は「限界まできている」(ネット証券)こともあり、これ以上引き下げても顧客を既存証券から奪うことは厳しく、そのうえ「手数料だけでは黒字は不可能」ともいわれる。株式取引をする新規顧客が爆発的に増えない限り参入しても成立しないビジネスなのだ。

 もう1つの懸念材料は同社に「マネロン水先案内人」と噂される人物がいることだ。

 マネーロンダリング―――資金洗浄ともいわれる。薬物や人身売買など違法行為で稼いだ資金を租税回避地(タックス・ヘイブン)や匿名口座を持つプライベートバンク(PB)を利用して「きれいなお金」に洗うことをいう。

 この水先案内人で有名なのは、元読売新聞の記者・清武英利氏の著書『プライベートバンカー カネ守りと新富裕層』(講談社)に登場する桜井剛氏である。

 氏は、バンク・オブ・シンガポールというPBに所属し、タックス・ヘイブンへの資金移転で税金を逃れる「資産逃避ビジネス」を行っている。そのなかにはマネロンに抵触するような「危ないカネもある」と見られている。

 シンガポールへの水先案内人が桜井氏なら、香港への水先案内人がOne Tap BUYにいる。

 仮にA氏としよう。1960年代半ばに生まれ、準大手証券の香港法人などで香港人脈を構築。香港のPBを紹介するビジネスを行っていた。

 その筋では「知る人が知る」存在だった彼が最も有名になったのは「ライブドア事件」である。ライブドア事件では偽計取引において香港のファンドを使った買収・合併案件が多数存在した。そして香港のみならずスイスやリヒテンシュタインのPBまで登場した。その橋渡しをしたのが彼といわれている。

 次に彼の関与が囁かれたのは「AIJ事件」である。主犯のAIJ投資顧問の淺川和彦社長の隠し口座が香港にあったのだが、それを仲介したのが彼だったそうだ。

 いずれも犯罪資金であり、マネロンしようと作為的に口座を開設したものだ。とはいえ、「彼が紹介した時点では犯罪と認定されていたわけではない。その点は割り引く必要がある」と、彼の元部下は語る。

 ただ、「その筋」といわれるブラック人脈では彼の名は知れ渡っており、これから何が出るかわからない。そのような法令順守に懸念のある会社に出資したみずほ証券とNTTドコモ。今後どうなるのか。金融業界は相当に注目しており、捜査機関の本格注視も時間の問題かもしれない。

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