2017年2月8日

【連載】加藤ジャンプの「こんなところで呑んでみた」第3回「大田市場」

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 築地じゃなければ、どこでもいい。

「市場で飲みましょう」と提案されたとき、最初にそう思ったのである。日本一の市場は今、もめている。そういうことを考えずに、素直に飲みたかったのである。

 大田市場まで朝酒を呑みに出かけたのである。築地じゃない、東京の巨大市場といえば、やはり大田市場である。フェラーリとランボルギーニみたいなものである。

 まだ夜も明けきらない朝6時過ぎ、JR京浜東北線の改札で編集者の初山さん(仮名)と待ち合わせた。

 始発に乗ったのである。当然、早起きをしなくてはならない。

 早起きは苦手ではない。案外毎日、朝刊が届くより先に目がさめていたりする。ただ、いつもの早起きに、これといって目的はない。勢いにまかせて、目を開けている状態を維持しているだけである。

 なにか次にやらなくてはいけない行動はない。始発に乗らないといけない、という緊張を強いられると途端に遠足前夜の子供のように興奮状態になり、寝付きも悪くなり勢い早起きは地獄になる。

 初山さんも、おそらく同じ事態に陥ったのであろう。改札のむこうにいた彼の両の目は、長い軟禁生活から開放された政治犯のようにしょぼしょぼで、ほとんど反射だけで横浜から大森までやってきたこちらを安心させた。

 これで大金持ちのファンドマネージャーと朝食を食べながらインタビューというような内容だったら、ひたすら遠い目をするのみだが、待ち受けているのは朝酒である。市場行きのバスの列に並んでいるうちに、すでに心は高揚している。

「長靴、はいてる人いませんね」

 市場を通るバスだから、プレートの付いたキャップを被った人や、ゴム長靴やゴムの前掛けをしている人が乗車しているかと思っていたら全然いなかった。当たり前にスマホをいじり、黙って市場へむかう。

 それで、思い出したことがある。先日、北陸地方の朝市に行った。ほっかむりした老婆が一杯、と期待していたら、ユニクロのダウンの人が大勢いて、ほっかむりの人はほとんど見られなかった。働く人のファッションはとうにグローバル化しているのである。

 大田市場はどこの駅から行っても案外遠い。どの駅からもすぐ着く築地とはそこが大きく違う。そして、建造物はどれも巨大である。ほど近い羽田空港からひっきりなしに離着陸する飛行機が間近を飛び、誰もが納得する近未来がそこにある。

 コンクリートの巨大な塊がいくつも立ち並び、それぞれの屋根の上に、場違いなほどファンシーな葡萄や筍のオブジェが看板代わりに掲げられている。まったく関係ないが、ジオングにドムの足を無理矢理くっつけたガンプラを思い出した。母さん、あの『ホビージャパン』誌、どこに行ったんでしょうね……。

 大田市場ができたのは平成元年のことである。面積は日本最大で約40万平方メートル。東京ドームがおよそ8個分の大きさである。秋葉原の神田市場、いわゆる『やっちゃば』、品川の荏原市場、蒲田分場、大森市場と築地の一部が合体してできた。市場の人に聞いたら、

「築地もみんな来るって話しもあったんだけど、すごく反対してね。あのときこっちに来てたら、今みたいなことにはならなかったのに。ここなら地下に水たまりなんかないですしね」

 と笑っていた。おっしゃるとおり。ちなみに、大田市場は野菜や花は日本最大の取扱高である。これで築地がここに合流していたら、ファイブプラトンで無敵だったはずだ。橋本真也と小川直也の「刈龍怒」をふと思い出す。市場はどういうわけか少年から青年期の記憶が甦りやすい。

 大田市場には築地のような「場外」はない。食堂の類いもぜんぶ市場の敷地内にあって、そこを一般人も利用する。事務棟と呼ばれる建物のなかに、たくさんの食堂が集まっていて、

「まあ、ここが築地で言うところの場外ですなあ」

と事務棟ですれ違った市場の方が教えてくれたが、たしかに、いろんな店がそろっている。

 もちろん早朝からやっていて、酒も飲める。喫茶(ビールはある!)、中華、定食屋、居酒屋兼小料理、洋食、そして寿司。

 楽園である。楽園ではしご酒。最高である。
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【著者】加藤ジャンプ
【記事の文字数】5300字
【写真】山桜食堂の肉団子
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2016年11月25日

【完全無料記事】プロ野球B級ニュース2016③うっかりミス編

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(※この記事は完全無料です。会員登録は必要なく、末尾の「了」で記事は終わります)
 素人には想像もできないほど高い精度のプレーを繰り広げるプロ野球選手。だが、彼らも同じ人間だ。時には信じられない凡ミスをやらかし、テレビなどで珍プレーとして爆笑を誘うことになる。

 だが野球の厳しさは、笑って一件落着となることを許さない。珍プレーから敗北に追い詰められていく光景を我々は何度も目撃してきた。「プロ野球B級ニュース事件簿2016」の第3回は「うっかりミス編」とし、

①コリジョン初適用の名誉(?)選手
高橋光成(西武)

②痛恨のサヨナラ負けを招いた
サファテ&工藤公康(ソフトバンク)

③新・日系助っ人「NAKANO」登場!?
ビシエド(中日)

④「帽子」で「防止」に失敗
山田哲人(ヤクルト)

の4選手、1監督のエピソードをご紹介したい。

 

■これは〝盲点〟! コリジョン初適用は本塁ベースカバー投手!!

 高橋光成(西武)
 5月6日 日ハムVS.西武(西武プリンスドーム)

 

 今季から導入されたコリジョンルールが初適用となり、判定が覆った試合として記録に残るのは確実だ。しかしながら我々が追及する「B級史」の場合は誰に適用されたのかが焦点となる。捕手でも走者でもなく、何と投手の高橋光成だったのだ。

 問題のシーンは6回。高橋光は大野奨太に押し出し死球を与え、3対3の同点になった直後、なおも1死満塁で9番・西川遥輝に投じたフォークが暴投になった。三塁走者・レアードが勝ち越しのホームを踏み、「捕手の処理が遅れていた」と見て取った二塁走者・浅間大基も三塁を回って本塁へ突入した。

「2人目はかえしたくない場面。必死だった」という高橋光は、本能的に浅間と相対する形で捕球体勢に入ったが、両者はベース上で交錯。いったんはアウトと判定されたが、審判団がビデオ映像を確認したところ、広げた左足がわずかにホームベースにかかっており、コリジョンルールが適用された。
「走路上にいたから、高橋投手に警告です」(杉永政信責任審判)

 この結果、浅間はセーフとなり、日本ハムは無安打で2点を勝ち越した。浅間の本塁突入は、白井一幸内野守備走塁コーチが「あれは暴走。際どい走塁というより、アウト」とバッサリ切り捨てるほどだったが、結果的にコリジョン判定に救われた。

 西武はその後、気落ちした高橋光が連続四球を与え、エラーも絡んで、この回一挙5点。痛恨の“コリジョン逆転負け”となった。高橋光は「ルールはもちろん知ってましたが、頭がいかなかった。冷静に対応できなかった自分のミス。悔しいです」とガックリ。

 西武ではルール導入以来、捕手陣はキャンプから対応策を重ねてきたが、投手陣の練習メニューには組み込まれておらず、盲点だった。「挟殺プレーで、投手がホームカバーに入るケースもある。改めて確認を徹底しないといけない」(潮崎哲也ヘッド兼投手コーチ)と早急な対応を迫られることになった。

 高卒1年目の昨季は8月に1軍デビューすると、いきなり5連勝して史上最年少の月間MVPに輝いた高橋光成も、今季はコリジョン騒動で精神面の脆さを露呈し、その後、8連敗を喫するなど、2年目のジンクスに泣いた。

「近未来のエース」と期待される逸材だけに、制球の課題を克服して3年目の飛躍を目指してほしいものだ。

 

■投手と野手を同時に交代させていれば……うっかりミスのツケは重かった

サファテ&工藤公康(ソフトバンク)
 6月5日 ソフトバンクVS.広島(マツダスタジアム)

 

 まさに交流戦ならでは、のうっかりミスだった。

 1対1で迎えた延長11回裏、ソフトバンクは2死三塁とサヨナラのピンチ。ここで岩崎翔に代わり、守護神・サファテがマウンドに立った。2死からのリリーフということは、この回を抑えたら、当然12回も続投することを意味する。

 じつはサファテ、1死二塁で会沢翼の打席中に「2死になったら、行ってもいい」と回またぎを承知のうえで、自ら登板を志願していたのだ。工藤公康監督も「明日は試合がないので」と日程を考えてゴーサインを出したというしだい。気合十分のサファテは、野間峻祥を空振り三振に仕留め、見事にピンチを切り抜けた。ここまでは良かった。

 だが、工藤監督は交代時に致命的なミスを犯していた。12回表の攻撃は8番・鶴岡慎也から始まるので、打順が最も遠い7番・城所龍磨に代えてサファテを入れ、9番は新たな外野手を入れるべきだった。

「急きょ(サファテに)行ってもらったので、外野に(選手を)入れる準備ができてなかった。すみません……」(工藤監督)。

 ふだんのDH制とは勝手の違う交流戦の緊迫した場面で、つい目先のことに心を奪われ、次の回の打順まで考える余裕がなかったようだ。この結果、12回1死から9番・サファテに打順が回ってきたのに、代打を送ることができなくなってしまった。

 サファテが打席に立つのは、広島時代の12年8月以来通算2度目とあって、結果は空振り三振。直後、1番・今宮健太が左前安打で出塁するという皮肉な巡り合わせに、工藤監督は「9番に牧原(大成)を入れるとかすればよかった」とぼやいたが、後の祭りだった。

 こんなときは得てして流れが悪くなるもの。その裏、サファテは先頭の田中広輔に中前安打を許した後、菊池涼介の投前バントの打球を一塁悪送球。無死一、二塁から丸佳浩に159キロ直球を中前に打ち返され、痛恨のサヨナラ負けとなった。

 だが、「ホークスが3連覇するまで髭を剃らない」と願掛けするほどチーム愛の強いナイスガイは「(自分が)ホームランを打っておけば……」と不満ひとつ口にすることはなかった。今季ホークスがV3を逃した結果、サファテの髭がどうなったか、ファンとしては気になるところ?

 

■4番打者の助っ人は、背番号「103」のナカノ!?

 ビシエド(中日)
 7月5日 広島VS.中日(富山)

 

 この試合で中日に、背番号「103」の新助っ人が4番ファーストでデビューした。背中には「NAKANO」の文字が輝く。ひょっとして、日系選手なのか……!?

 じつはビシエドが背番号「66」のユニホームを忘れてしまったのだ。とはいえ185センチ、108キロの体格。これに合うのは中野栄一ブルペン捕手のユニホームしかなかったというのがことの真相。ちなみに中野捕手は188センチ、95キロだという。

 この日から始まった富山、金沢の北陸シリーズ2連戦は、中日の主催試合とあって、うっかりホーム用のユニホームを忘れてしまったのだとか。確かに北陸シリーズの後は、移動日を挟んで神宮で対ヤクルト3連戦、横浜で対DeNA3連戦とロードが続くので、北陸も含めてビジターと勘違いしてしまうのも無理はない。日本人選手でもうっかりミスを誘発しかねないのだから、外国人ならなおさらのこと。

「ユニホームを忘れるなんて初めてだ」と苦笑いするビシエドだったが、そんなアクシデントにもめげず、2回に先制点の口火となる左越え二塁打を放ち、無死一、三塁から福田永将の二ゴロ併殺打の間に先制のホームを踏んだ。さらに9回にも遊撃内野安打とマルチを記録。借り物のユニホームながら、「感覚は良かったよ」と笑顔を見せた。

 この日は外野手の藤井淳志もビシエド同様、ホーム用のユニホームを忘れたため、三輪敬司ブルペン捕手の「111」のユニホームを借りることになったが、幸か不幸か出番なし。

 ちなみに三輪ブルペン捕手は、05年9月27日の横浜戦(横浜)で井端弘和、09年5月31日のソフトバンク戦(福岡ヤフードーム)でブランコ、10年3月7日のオープン戦、オリックス戦(京セラドーム大阪)で高橋聡文がユニホームを忘れたときにも自身のユニホームを提供しており、ある意味、本業以外でもチームになくてはならない貴重な存在と言える。

中日といえば、かつての主砲・宇野勝も81年4月24日の大洋戦(横浜)でユニホームを忘れ、背番号「77」の借り物ユニホームで豪快なホームランをかっ飛ばしたエピソードで知られる。それにしても、この手の話が次から次へと出てくるのは、やっぱり宇野以来のチームの伝統……?

 

■油断大敵! 落ちた帽子に気を取られて二塁走者の生還を〝防止〟できず……

 山田哲人(ヤクルト)
 7月5日 ヤクルトVS.DeNA(横浜)

 

 野球における珍プレーの〝王道〟たる隠し球は、適時打で得点した直後など、相手が喜んでいるときに成功率が高くなるという。走者とベースコーチが歓喜のハイタッチで目を離した一瞬の隙にボールを隠し持てば、気づかれにくいからだ。

 試合中はどんなときでも油断は禁物という良い教訓だが、7月5日のヤクルトvs DeNA(横浜)で、トリプルスリー男・山田哲人が「油断大敵」とも言うべきボーンヘッドを犯してしまった。

 2対0とリードしたDeNAは、8回にも桑原将志の左越え二塁打に犠打と四球、盗塁を絡め、1死二、三塁のチャンス。これ以上失点を許すと苦しくなるヤクルト・真中満監督は左打者の関根大気に対し、左腕のペレスを4番手に投入。悪い流れを断ち切ろうとしたが、関根はカウント3-1からの5球目を投前に絶妙のスクイズ。

 三塁から桑原将志が3点目のホームイン。打者走者の関根は〝ハマのスピードスター〟を自称する50メートル5秒9の俊足とあって、一塁もクロスプレーとなった。セカンドから山田が一塁ベースカバーに入り、ペレスからの送球をキャッチ。直後、ファースト・田中浩康と交錯した際にボールがポロリとこぼれ、ヒヤリとさせられたものの、素早く拾い直して何とかアウトにした。

 だが、2死を取り、ホッとして魔が差したのか、山田はインプレーにもかかわらず、グラウンドに落ちた自分の帽子を拾おうと、三塁方向に背を向け、かがみ込んだ。これが命取りとなる。

 二塁走者・石川雄洋は、三塁に進んでいったんは自重していたが、まんまとこの隙を突いて、一気にホームイン。結果的に2ランスクイズとなった。3点目は仕方がないとしても、ヤクルトの攻撃は9回1イニングしか残っていないことを考えると、防止(帽子)できるはずの4失点目は痛かった。

 結局、山口俊の攻略の糸口をつかめず、今季最少の3安打完封負けで連勝ストップ。この日は7回に2者連続で併殺をとり損ねるなど、内野陣の呼吸がまったく合わなかったこともあって、真中監督も「注意しないと。いただけないプレー」と反省を促していた。

 今季も打率3割4厘、38本塁打、30盗塁でプロ野球史上初の2年連続トリプルスリーを達成した山田だが、来季は守備でも〝帽子の教訓〟を生かしてもらいたい。

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【著者】久保田龍雄
【写真】7月5日、DeNA・関根大気と交錯して帽子を落としてしまったヤクルト・山田哲人(右=撮影・産経新聞社)
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2016年11月23日

完全無料記事【北九州ブラック部活】〝隠蔽〟体罰アンケ③

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(※この記事は完全無料です。会員登録は必要なく、末尾の「了」で記事は終わります)

 北九州市教育委員会が〝隠蔽〟したと疑われても仕方のない体罰アンケート調査を連載で紹介している。最終回となる第3回では、いよいよ「部活動指導の振り返りから分かったこと」を見て頂こう。調査からは、部活動に当事者として関わる教師の事実認識が浮かび上がり、教育委員会のコメントからは問題意識が透けてくる、はずだ。

 ちなみに太字がアンケート調査の原文であり、普通の文字が弊誌の文章となる。念のため、申し添えておく。では、調査の引用に進もう。

          ④部活動指導の振り返りから分かったこと
 調査結果から考えられる主な傾向を以下に示しています。
 各学校では、こうした傾向を踏まえながら、部活動指導のあり方を再度考えてみてください。
※文部科学省の「運動部活動の在り方に関する調査研究報告書」の内容を必ず一読すること

◎体罰を指導の手段として正当化するような認識が未だ残っていること
<上達のためには、軽く叩くことが必要な場合もあると思っている。【Q5 3.8%】>

[主な傾向など]
▼学校種別:中学校(3.9%)、高校(0%)
▼経験年数別 年齢別:こうした認識が一定割合で残っている。
▼男女別:男性にその傾向が見られる。
▼①教育活動の振り返り:「Q6 軽く叩くぐらいのことは許されると思っている。」部活指導:有(6.8%) 部活指導無(3%)の2倍以上。“軽く叩くぐらい”という意識が、部活指導における“上達のために”という意識につながっている可能性がある。意図して体罰を指導の手段として使うことは、体罰を容認する意識が根強く残っていると推測される。

◎指導力の水準が、生徒の達成感や主体的な力の育成に影響を与える要因の一つと考えられること
<どの部員にも喜びや意欲を与えるような指導ができていなかった【Q8 26.1%】>
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校教員の4人に1人、高校教員の5人に1人が感じている。
▼経験年数別、年齢別、男女別:教育経験年数、年代、性別での差は見られない。

<生徒が主体的に取り組む力の育成が進んでいない 【Q14 20.9%】>
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校教員に、この傾向が強く見られる。
▼経験年数別:31年以上がやや低いが、他の層はほぼ同じ割合である。
▼年齢別:50歳以上がやや低いが、他の層はほぼ同じ割合である。
▼男女別:男性教員の方が感じている割合が高い

<自分自身のこれまでの実践、経験に頼る指導になっていた 【Q10 28.2%】>
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校教員、高校教員のいずれも4人に1人が感じている。
▼経験年数別:11〜20年が3人に1人、他の層も4人に1人が感じている。
▼年齢別:差が見られない。
▼男女別:男性の方が感じている割合が高い(女性の1.5倍)

〈生徒の発達の段階や成長に応じた指導方法について研究を行っていなかった 【Q11 19.6%】〉
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校教員に、この傾向が強く見られる。
▼経験年数別:5年以下が4人に1人と高く、他の層はほぼ同じ割合である。
▼年齢別:20代(4人に1人)→30代→50代以上→40代の順
▼男女別:差が見られない。

◎指導の手段の一つとして、意図的に罵声、暴言を使う傾向が中学校教員に見られること
<罵声・暴言を浴びせたり、物に当たったりしたことがある。【Q3 12%】>
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校(12.3%)、高校(2.2%)
▼経験年数別:5年以下の教員よりも、経験のある6〜20年の教員の割合が高い。
▼年齢別:20代の教員(13.6%) 30代教員(19.9%) →約1.5倍
▼男女別:男性の方が高い(女性の3.8倍)

〈指導の場面で、自分自身の感情をコントロールできなかったことがある【Q1 7.8%】〉
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校(8%)、高校(2.2%)
▼経験年数別:差が見られない。
▼年齢別:若い教員ほど、その傾向が見られる。
▼男女別:男性の方が高い(女性の2倍)

〈調査結果の比較〉
▼①教育活動の振り返り(部活動指導者):Q1 感情的33.3%>Q5 暴言20%
▼④部活動指導の振り返り:Q1 感情的7.8%<Q3 暴言12%
教育活動と比べ、部活動指導では、感情をコントロールできないと感じた割合よりも、暴言等をした割合の方が高い。
指導の一環として、罵声・暴言等を意図的に使っている部活指導者が少なからずいる可能性がある。

◎男性教員の部活動に対する考え方自体が、体罰等につながる懸念があること
▼Q5:上達のために軽く叩くことが必要な場合もあると思っている。
男性(5.8%) 女性(1%) 約5.8倍
▼Q4:勝ち負けに固執した指導をしてしまったことがある。
男性(10.7%) 女性(2%) 約5.4倍
▼Q2:特定の生徒(キャプテン等)に対して、見せしめ的な厳しい指導をしてしまったことがある。
男性(7.8%) 女性(4.5%) 約4.6倍
▼Q3:罵声・暴言を浴びせたり、物に当たったりしたことがある。
男性(17.3%) 女性(4.5%) 約3.8倍
▼Q9:面倒を見てやっているという態度で接していたことがある。
男性(19.3%) 女性(7.7%) 約2.5倍

◎中学校教員、20〜30代教員、男性教員は、感情に左右されやすい傾向にある。
〈指導の場面で、自分自身の感情をコントロールできなかったことがある【Q1 7.8%】〉
[主な傾向など]
▼学校種別:中学校の方が、高校の約4倍
▼年齢別:20代、30代の方が、40代、50代の約1.5倍
▼男女別:男性の方が、女性の約2倍

〈感情により指導内容や方法が左右されたり、ぶれたりしたことがある【Q6 8.5%】〉
▼学校種別:中学校の方が、高校の約4倍
▼年齢別:20代、30代の方が、40代、50代の約1.5倍
▼男女別:男性の方が、女性の約3倍

 これでアンケートの「調査結果」は終りだ。
 改めて振り返れば、「軽く叩くことが必要」だとする教員は全体の3.8%、「暴言を意図的に指導手段として使っている」は12%に達した。この結果に驚かれた方は少なくないだろう。

 生徒に対して肉体的、もしくは精神的な暴力を振るう教員が、最低でも全体の1割を占めたことになる。おまけに中学校で、部活動を受け持つ男性教諭だった場合は、更に高率となることも明らかになったわけだ。

 このように極めて興味深い調査であるにもかかわらず、北九州市教委は「一握りの身内」以外は誰も閲覧できないという、内覧にとどめてしまった。記者クラブに広報しないどころか、市民に広報誌やホームページを使って紹介することさえ行わなかった。ために市民の多くは現在に至るまで、アンケート調査について知る手掛りすら存在しない。
 弊誌が市教委に取材を申し込むと、文書で回答が送られてきた。以下に紹介しよう。
「本調査については、平成25年度に体罰等による懲戒処分事案が多数発生したことを受け、体罰等にかかる教員の率直な意識や傾向を把握し、今後の研修等に活用していくために実施したものであり、公表を前提として行った調査ではないため、対外的に公表することはしていません」
 好意的に読み解けば「研修用の内部資料ですので、外部には発表しません」という説明になるのだろうが、ではなぜ「研修用の内部資料」にしたのかという疑問は残る。教育行政に詳しい関係者が批判する。
「今回の調査は市教委にとって『まずい』数字が並んでいるため、最初から一般に広報することを考えなかった可能性も考えられます。また研修で本当に利用したのかという疑問も検証することができません。これまでの市教委のやり方や対応を考えれば、全てその場しのぎの弁明で糊塗しているに過ぎない、と言わざるを得ないでしょう。調査を発表し、問題点を明らかにしないという市教委の体質こそが、部活動から体罰や暴言を困絶できない原因の1つだということです」
 関係者が重視するのは、校長や教頭という要職=管理職の意識を調査した『②学校全体の振り返り』での設問『Q2 この位なら問題がない等、体罰を容認するような意識を持ったことがある』だという。「持ったことがある」の回答は特別支援学校が0%、小学校は0.7%だったのに対し、中学校では2.4%に達している。
 更に教員全体に訊いた『程度が軽ければ体罰を容認する雰囲気がある』で「はい」と認めた回答は中学校で3.2%、特別支援学校で5.0%、高校では8.2%との結果になった。関係者は「これだけでも市教委は公表をためらったでしょう。それほど酷い数値です」と指摘する。
 更に『上達のためには、軽く叩くことが必要な場合もあると思っている』では男女別の回答が興味深いという。「はい」としたのは女性教員が1%だったのに対し、男性教員は5.8%の「異常値」(同・関係者)を示した。
 また『Q2 特定の生徒(キャプテン等)に対して、見せしめ的な厳しい指導をしてしまったことがある』も女性1.7%、男性7.8%と乖離が著しい結果となっている。
 この連載①でも紹介したが、市教委は分析結果として「部活動指導者は感情的な理由から体罰をするというよりも、体罰も指導の手段の一つだと認識している可能性が高い」と一応は正直に書いている。
(http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000353/)

 こうした「意識」を裏付けている設問と数値は他にもあるという。学校全体の状況に対して調査した『①教育活動の振り返り(一般教員の意識)』での設問『Q5 児童生徒に対して、暴言(不適切な言葉)を使ってしまったことがある』は中学校で18.9%を示し、女性教員11.1%に男性教員は20.6%、部活指導「無」が12.5%で「有」は20%となったことが印されている。
「報告書では『学校別』、『男性と女性』、『部活指導の有無』という3カテゴリーで分析していますが、『中学校の男性教諭で、部活指導有り』という項目はありません。もしデータを抽出したら『暴言を使ったことがある』は30%を越えた可能性も否定できません。ここで疑問が生じるのは単に分析項目に加えなかっただけなのか、それともデータを見て書けないと判断したかです」
 北九州市の保護者にとっては不安を掻き立てられる数字は、まだ他にもある。『Q4 自分本位の指導や、一方的な教え込み型の指導になったことがある』は学校全体で21.5%。『Q8 厳しく指導するタイプの同僚に指導を任せてしまったことがある』も10.1%に上った。いわば「自分は自分、他人は他人」という職場環境で、1人の教師が部活動で異常な猛練習を実施していた場合、管理職や同僚は注意したりして、是正することは可能なのだろうかとの疑問が浮かんでしまう。
 弊誌は2015年12月に『【無料記事】北九州市の中学剣道部が示す「ブラック部活」の実態』との記事を掲載した。
(http://www.yellow-journal.jp/society/yj-00000040/)

 アンケート調査を〝隠蔽〟しただけあり、記事で焦点を合わせた永犬丸中学校(福岡県北九州市八幡西区永犬丸)でも状況は全く変わっていないという。保護者が言う。
「部活で体罰を3回も繰り返した男性教員だけでなく、前校長の管理責任も問題となって2人はそろって異動となりました。しかしながら、新しい校長が着任しても土日の休みを潰す〝ブラック部活〟は継続しています。何も改善されなかったどころか、朝練習に代表される〝過剰練習〟の記録を残さないために職員会議録の作成を止めてしまったんです。校長に誰も反旗を翻せないのでしょうが、記録を残すことなしに改善が実現するはずもありません。永犬丸中学校の教員はプロとしての矜持を捨ててしまったわけです。おまけに前校長は異動先の中学校で〝猛練習〟に明け暮れる異常な部活動を推進し、男性教員も異動先で部活顧問となり、クラス担任も持っています。このことから分かるのは、北九州市教委は公的な発言とは裏腹に、異常な部活動を是正する気がまるでないということですし、前校長や体罰を繰り返した男性教諭は開き直って『自分たちは間違っていない』とアピールしているわけです。これを市教委が放置しているわけで、どうかしているとしか言いようがありません」
 基本に立ち戻れば、アンケート調査は結果を市民にあらいざらい提供し、広範な議論を引き起こすことこそが求められている。それが税金の使い道としては真っ当なのだ。だが市教委は真逆の選択を行った。よほど隠蔽しておきたい内部事情があるということなのだろうか。いずれにしても、ガラス張りの教育は「絶対に嫌」というのが彼らの本音なのだろう。
 最後に学校教育法第11条を引用して、この稿を終わる。
「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない」
 北九州市の教員は、一部だけとはいえ「学校教育法なんて守る必要はない。法律の方が間違っているんだ」と考えている者がいるということになるわけだ(了)
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【写真】北九州市教委が2015年12月に発表した懲戒処分の広報資料
(https://www.city.kitakyushu.lg.jp/files/000718591.pdf)
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2016年11月10日

【検証・小池劇場③】カジノ賛成派知事の後ろ盾「二階幹事長」

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 小池百合子・都知事の誕生で、IR(統合型リゾート)=カジノ推進派が勢いづいていることは意外に知られていない。舛添要一・前都知事はカジノに反対していたが、小池知事は前向きな態度を示しているのだ。関係者が最新状況を明かす。
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【購読記事の文字数】1300字
【写真】セガサミーホールディングス公式サイト「株主の皆さまへ」より、里見治会長
http://www.segasammy.co.jp/japanese/ir/management/message.html
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2016年9月2日

【連載『三橋経済塾』実況中継③】/〝国の借金〟を最も返したのは安倍晋三!?

keizai2016-09-02 12.37.34

「国民経済とマクロ経済について理解を深める」ため、経済評論家の三橋貴明氏が開いた私塾『三橋経済塾』。第3回は三橋氏の講義のうち、

1 マイナス金利で金を借りることが可能な日本政府
2 リニア新幹線の大阪開通は前倒しを行うべき
3 安倍晋三総理は、日本で1番政府の借金を返した男
4 「マイナス金利」政策の問題と、追い詰められている日銀

 を再録させて頂く。

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【購読記事の文字数】4100字
【写真】福島県内の酪農施設を訪問した安倍首相(3月5日撮影、公式Facebookより)
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2016年7月8日

【連載】『十三ベース=しばき隊リンチ事件の真相』(下)

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 今回改選を迎えた有田芳生・参院議員は、カウンター組織と密接な関係を持つ。それだけなら「思想及び良心の自由」の範囲内かもしれない。だが、有田議員の選挙カーが、告示前運動で「個人襲撃事件」を起こしていたとなれば話は別だ。
 この連載は番外編を予定しているが、とりあえずは今回の「下」で最終回となる。この中では①「有田丸・個人襲撃事件」の真実、②「レイシストしばき隊」を中心とする人間・組織相関図、③「カウンター」と「ファシスト」は結局、同じ穴の狢──以上3点を書かせて頂く。

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【購読記事の文字数】5000字
【写真】伊藤大介氏のFacebook
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2016年6月23日

【無料連載】『哀しき総会屋・小池隆一』第3回「警告」─「賄賂を払え」との訴訟

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 伊藤忠と三菱重工は約8億円を払え──火力発電所の建設を巡り、2010年7月、ベトナム人エージェント、グエン・チー・タンは、いわば〝賄賂の支払不履行〟を理由に日本有数の商社2社に訴訟を起こした。

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【筆者】田中広美(ジャーナリスト)
【購読記事の文字数】約9800字
【写真】双日株式会社の公式サイトより
(https://www.sojitz.com/jp/)
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 訴訟提起後、全国紙の社会部宛てに封書が届いた。そこにはベトナムで日本企業による汚職工作が行われている旨と、2つの訴訟番号が記されていた。
 横浜地裁 平成22年(ワ)第3604号
 東京地裁 平成22年(ワ)第23300号
 横浜地裁の裁判は、これまでに見てきた伊藤忠と三菱重工が被告となったものだ。
 もう1つの東京地裁の案件は「べトシン国際株式会社」なるエージェントが、やはり手数料の支払いを求めて、日本商社の双日を訴えたものだ。
 いずれも2011年の夏頃に提訴されているが、基本的に2つの裁判は原告と被告が異なり、内容も関連性が乏しい。共通点があるとすれば、たった1つ、ベトナムのエージェントに対する手数料未払いを原因とする日本商社に対する訴訟という点だけだ。
 にもかかわらず、2つの裁判は同じ時期に提訴され、訴訟番号が1枚の紙に記され、封書で新聞社だけでなく、ODAを所管する国際協力機構(JICA)にも送られた。〝タレコミ〟を受け、JICAの斉藤蘭は横浜と東京の両地裁に足を運び、裁判記録を閲覧している。ODAを巡る贈賄まがいのキナ臭い話はJICAとしても、ひいては外務省としても無視できない。
 一体、何が起きていたのか。ここに、その背景を示唆する1通の内容証明郵便がある。2012年4月3日付けで、小池隆一が三菱商事の三枡素生宛てに送ったものだ。そこには、この一連の工作の〝首謀者〟を伺わせる内容がはっきりと記されている。

<前略、平成二十三年四月の始め頃ではなかったかと記憶いたしておりますが、山田慶一氏の赤坂の事務所に呼ばれて、お訪ねした時、英文の契約書と、それを日本語に翻訳した文書を渡され説明を受けました。
 それによると「大手商社の双日株式会社が子会社の双日システムズ株式会社を使ってマネーロンダリングをやっており、そこで裏金をプールしてベトナム政府の高官に贈賄をしている。その裏金作りを裏付ける書類で、子会社の双日システムズ株式会社がベトナムのエージェントであるヴェト・シン国際株式会社に手数料を支払うとき九十%~九十五%をキックバックさせていることの証拠書類です。英文のものですが、日本語に翻訳しておきましたから読んでみて下さい。」
「これを、どこかの新聞か週刊誌に書かせて貰えませんか」とマスコミ掲載工作を依頼されました。
 その際、私が山田氏にお尋ねしたことは二点でした。
 一つは「誰からの依頼でしょうか」という私の質問に山田氏は「三菱商事の三桝素生と金子清志です」と答えました。
 二つ目は「少しお小遣いを渡してやれば、どこか書くところは有ると思いますが、その費用は誰が出すのでしょうか」という私の質問に対して山田氏は「依頼主の三桝と金子です。これは仕事ですから」と答えましたので「三桝さんと金子さんが資金を出すのであれば、支払いに間違いはないのでしょうから、お引受けしましょう」と応じて別れました。
 それから一日~二日経って、私は国際新聞社発行の「国際新聞」の直近の新しい新聞を持って山田氏を訪れ「こんな新聞でも良いのでしょうか」と尋ねたら、「二日~三日返事を待って欲しい、三桝と金子が了解するか、どうか少し時間を下さい」と言われて帰りました。
 二日~三日経過後、山田氏の方から「この新聞は実に面白い、ズバリと痛いところを遠慮なく指摘する、上手いもんですネ」「この新聞に載せて貰えますか」と言われて、指示をされた事は、金子氏直筆の原告ヴェトシン国際株式会社と被告双日株式会社の平成二十三日五月十日の裁判を東京地方裁判所四〇九号法廷で十時四十五分から傍聴に行って取材をしたという形式を取ることを指示されました
 その後、金子清志氏の方から山田氏経由で「こう書いて欲しい」という簡単ではあるが、それがポイントで、それを抜かさないで書けということなのでしょうか、一枚は金子氏直筆で、もう一枚はパソコンか何かで打ち出したもので、合計二枚の原稿も渡されて、国際新聞の平成二十三年六月三十日号ということで、六月十五日前後に三桝素生氏指示の発送先リストも渡されて、それも含めて広範囲に郵送配布致しました。
 その後、二カ月後の八月のお盆も過ぎてから山田氏の事務所を訪ねた時に、山田氏の方から「既に過日に入札は実施されたものだが、一番が双日で、二番が三菱商事であったものだが、一番札の双日の技術審査を双日の工作で四月から六月に延び、さらに七月二十七日に延びていたものを、今回は三菱商事による国際新聞誌に暴露記事掲載工作が効を奏して、双日は当局による摘発を恐れて七月末を待たずに辞退したもので、その結果三菱商事と丸紅の二社のみで再入札ということになったようです」と言いながら、金子清志氏が〇〇〇〇(※筆者の判断で匿名)宛に発信した平成二十三年八月十日付のメールのコピーを渡されました。そして感謝されました。三桝さんも金子さんもたいへんお喜びだと言われました>

 これもODAが絡んでいるが、これまでに見たオモン火力発電所2号機に関わるものではない。同じベトナムでも、北部にあるタイビン火力発電所の入札工作だった。三菱商事の三枡や山田たちはオモンとタイビンを両睨みして工作を行っていた。いや、他にも同時並行で、いくつものODAで受注工作を展開していたのだ。
 金子は中国側へ、次のようなメールを送っている。

< 2011年8月10日14:00
〇〇様
  御無沙汰しております。
  先々月お会いしてからの状況報告です。
  4月から6月に延び、7月末に再度延期されたベトナム案件は、ようやく入札が実施されました。予想された3社ではなく、2社のみの入札です。
  今後数か月(おそらく3から4カ月)の技術審査期間を経て、入札金額がオープンされ受注企業が決定されるものと思います。
  また、各種状況が変化しましたら、ご報告いたします。>

 山田はメディア工作を依頼した人物に、このメールの送信記録を見せ、それが内容証明で触れられることになった。メールの内容を見れば、両者共に思惑には成功していることが分かる。内容証明などという緊迫したやり取りに登場するはずもない。
 それが、どうして対立関係に発展してしまったのか。当然ながら小池の内容証明には「しかし」の文字が記されている。

<しかし、ここまでは私も三桝さんや金子さん、あるいは山田さんの御希望に添うことができて良かったと思っておりましたが、この国際新聞の方への支払いが現在に至るも滞っており済んではおりません>
 
 小池が山田に請求しても、全く支払われない。金子に電話しても出ない。留守電を残しても、社員に伝言を残しても、折り返しの電話はかかってこない。
 あげくの果てに山田から「金子からカネは出ない」と言われてしまう。あくまでも山田の説明ではあるのだが、金子は「山田に多額のカネが渡っているのだから、山田が支払え」と主張しているのだという。そして山田は、まるで他人事のように「もう金子に電話したり、連絡したりするのは止めてほしい」と小池に頼んだ。
 小池は「三枡や金子は山田に金を出資したが、山田が使い込んでしまったのか」とも考えてみた。それとも山田は金子から借金をしているのだろうか? となれば、金子は「借金を返しもしないくせに、なんで国際新聞にカネを払う必要がある。泥棒に負い銭じゃないか!」と怒っても不思議はない……。
 小池に判断はつかなかった。だが、少なくとも山田は小池に対し、国際新聞への掲載工作は三枡と金子が依頼してきたとし、発生する経費は2人が連帯して支払うと説明していたはずだ。小池は内容証明に、次のような嫌味を書く。

<山田氏とお二人がどのような事情に変ったのか、あるいは変らないのか、私は全く知りませんが、依頼を受けた私はきちんと引き受けた役割を果しておるわけですから、そのトバッチリを受けることははなはだ心外でございます>

 とはいっても、事態は深刻だ。冗談で済ませられる話ではない。そこで小池は次のように通告する。

<三桝氏、金子氏、〇〇氏(※筆者の判断で匿名)の三者でのメールでの遣り取りが上手く行っていたものであり、その都度私の方にも送信したメールのコピーがわざわざ私の方にも送られて来ていたものが、突然、急に、あの国際新聞暴露記事以降、全くそれまでの流れが激変して、私はつんぼ桟敷に置かれているわけですが、これでは中国側への私の信用が著しく傷つく事になりますので、私としても、何とか打開しなくてはならないと考え、いくら電話をしても会話が成り立たない状況であれば、止むを得ずお手紙を出すしか方法がありません。
 ぜひとも今後の事を話し合いたいと存じますので、三桝さん、金子さん、山田さん、皆さん打ち揃って、できれば私の方で弁護士先生に依頼致しますので、弁護士先生同席の上でお話し申し上げたいと存じます。ご連絡をお待ち致しております>

 この内容証明郵便は、同様の文面で三菱商事の三桝のほか、金子、そして当然に山田にも配達証明付きで送付されている。しかし、この郵便を送った小池隆一のもとに、連絡がくることはなかった。 

■ベトナム側弁護士が双日の代表取締役・加瀬豊宛てに送った「警告書」

 では、内容証明に登場した「国際新聞」を見てみよう。確かに2011年6月30日付紙面の1面すべてを使い、この双日の裁判を記事化している。週刊誌も裸足で逃げ出すほど、思い切った見出しだ。

<双日 円借款200億で贈収賄工作資金用裏金作り? ベトナムODAで現代版ロッキードか 奇妙な代理店との契約で裁判沙汰>

 ロッキード級の疑獄、と報じるこの新聞が、山田側から提供された「リスト」に従って送付された。送り先は、それこそ実にぬかりがない。
 リストの先頭が三菱商事の社長・小林健になっているのは失笑を禁じ得ないにしても、以下は三井物産の飯島彰己、丸紅の朝田照男、住友商事の加藤進、伊藤忠商事の岡藤正広、双日の加瀬豊、双日システムズの小幡和徳、三菱重工業の大宮英明、IHIの釜和明、日立製作所の中西宏明、東芝の佐々木則夫……といった当時の各社代表取締役の名前が並ぶ。まさに〝関係各位〟にあまねく伝えているわけだ。それに以下の送付先が加わる。

<外務省国際協力局政策課 東京都千代田区霞ヶ関2―2―1
 JICA総務部総合調整課 不正腐敗情報受付窓口 東京都千代田区二番町5―25 二番町センタービル
 東京国税局調査第一部 東京都千代田区大手町1―3―3 大手町合同庁舎3号館>

 ご覧の通り、JICAは「不正腐敗情報受付窓口」で、東京国税局は「調査第一部」だ。素人では想像さえ不可能な部署名を特定している。このあたりは手慣れた雰囲気と、用意周到な印象が強い。
 賄賂の性質が強い工作資金であり、裏の金であるエージェント手数料を巡るトラブルが、裁判という形で表沙汰になったのが異例であることは論を俟たない。更に原告が「ベトナム在住のベトナム人」でありながら、あえて訴訟費用が莫大な額になる日本国内で提起されるのも異様だった。ベトナム人原告は当然ながら、格段に負担の少ないベトナム国内で訴訟を起こすことができたはずだからだ。
 ちなみに日米企業の法的紛争を見ても、米国企業が本国から離れた日本国内で訴訟提起するケースは少ない。圧倒的に本拠地のある米国で訴訟提起する場合がほとんどだ。
 横浜地裁のケースでは、ベトナム人原告による訴訟印紙額だけでも248万円に上る。ベトナム国内の平均年収が日本円にして約20万円。これに鑑みれば、いかにこのエージェントが〝やり手〟であったとしても、およそ平均年収の10年分超に当たる額の印紙代を払ってまで日本国内で裁判を起こしたのは理解に苦しむ。〝取りっぱぐれ〟たエージェント手数料が8億円超なのだから、それぐらいの費用は当然という考えもあるだろうが、裁判なのだから勝てる保証はない。
 加えて、どちらの係争案件も、発生から5〜6年近くが経過していた。だが、2011年になるとほぼ同時に、日本国内で歩調を合わせたかのように訴訟が提起された。山田や三菱商事側の思惑など考えなくとも、ベトナム人の訴訟費用を負担する第3者が存在するのではないかという推測は、否が応にも現実味を増す。
 そして2裁判での訴訟記録をめくれば、ある弁護士の名前が登場する。第1回で触れた内野経一郎だ。両裁判は、ここでも山田=金子=三菱商事・三枡、と1本の筋でつながっていく。
 東京地裁で双日に対する訴訟が起こされて間もなく、ベトナム側弁護士である内野経一郎は、双日の代表取締役・加瀬豊宛てに1通の「警告書」を内容証明郵便で送付した。
 この「警告文」が言及した内容こそ、山田や三菱商事・三枡の狙いがあったのではないか。そこには、山田がこの間、関係者らに吹聴していた計略が、これほどないまでに直截的な表現で記されていた。

<                 警告書

1. 日本政府によるジャイカを通じての円借款によって行わる(原文ママ)事業である国営ベトナム電力傘下カントー火力発電会社が建設するオモン火力発電所2号機建設プロジェクトの入札が10月5日に行われる予定で貴社がこれに応札される予定と仄聞しております。
2. (1)当社は貴社の依頼により貴社のVTV入札のコンサルタントを引き受けました。貴社職員宇土澤秀徳氏が2004年3月15日当社への代理店手数料の支払を文書を以って約束され、一方貴社は2006年4月3日落札を公表しておられます。
   当社代表者の催促メールに対し貴社はメールを以て約束を実質上認めながらも一向に手数料の支払がなされず、
  (2)当社は貴社に対して平成22年6月22日訴を提起し東京地方裁判所平成22年(ワ)23300号として係属係争中であります>

  この警告書はここから一気に本題に切り込む。

<3.ところで円借款事業の為の調達ガイドラインによる応札資格には過去5年間の訴訟情報の申告が求められているようであります。同じベトナムの事業にかかわる同じ円借款に基づく事業にかかわる係争であります故記入もれないよう願います。
4.記入の有無については関係各機関に問い合わせし、あるいは訴訟記録を送付し円借款事業にかかわる貴社の経営姿勢への注意を喚起することがあり得ますこと警告しておきます。
  平成22年9月24日
  東京都港区赤坂六丁目1番地20号 双日株式会社代表取締役 加瀬豊様 
  東京都千代田区九段北四丁目1番5号市ヶ谷法曹ビル505号 東京第一法律事務所
                     電話03―3230―4041
                     FAX03―3230―4050
                  ヴェト・シン国際株式会社代理人
                        弁護士 内野経一郎>

 内野と山田との付き合いは古い。持ち込まれる企業のトラブルなどを、山田は積極的に内野へ斡旋紹介し、山田に東京地検特捜部の手が及べば、内野に弁護を依頼した。
 だが、ここで内野は、あくまでもヴェト・シン国際株式会社の代理人として登場している。山田の代理人として警告書を発送しているわけではない。それを踏まえた上で、次は横浜地裁で提訴された三菱重工と伊藤忠商事が被告の裁判を見て頂こう。すると、ここにもある名前が浮上する。訴状にはこうある。

<……原告は弁護士を通じて被告らに対する交渉を行うべく、韓国弁護士である金賛鎮弁護士及び本訴原告代理人に委任して交渉することとした>

「金賛鎮」は、韓国国内に事務所を構える弁護士だが、山田を知る関係者にとっては、山田の顧問弁護士の1人だ。つまり、東京地裁と横浜地裁で〝偶然〟に同じ時期に提訴されたエージェント手数料を巡る裁判には、やはり〝偶然〟に山田の知人・顧問格の弁護士が関わったわけだ。
 先に触れた、弁護士の内野が双日宛てに送った警告書を思い出して頂きたい。あの中には、わざわざ「円借款事業の為の調達ガイドラインによる応札資格には過去五年間の訴訟情報の申告が求められている」ので、記入漏れをするな、と記されていた。
 弁護士の内野にとっては、訴訟戦略の一環としての「揺さぶり工作」であったとしても、結果として、山田と三菱商事・三枡たちの「狙い」に寄与することは間違いない。「過去五年間の訴訟情報の申告が求められ」ることを考えれば、日本国内で訴訟を抱えることは一種の〝失点〟になりうることが懸念されるはずだ。
 なお、この内野の警告書に対し、被告である双日側の代理人弁護士は、次のように返答している。

<まず、双日がベトナムのオモン火力発電所2号機建設プロジェクトに入札するかどうかは、貴職が代理人をしておられるヴェト・シン国際株式会社(以下「ヴェト・シン社」といいます。)とは何ら関係のない問題であり、ヴェト・シン社が双日に対して警告書を送る趣旨が全く理解できません。(中略)
 因みに、ヴェト・シン社との係争につきましても、ヴェト・シン社からのご請求が、正当な業務にもとづくものかどうかを確認するために、業務内容のご説明をお願いしたにもかかわらず、これに応じていただけないために、やむなく訴訟に発展したものであることをご理解ください。
 なお、警告書においては、双日の業務につき、関係各機関に問い合わせをし、あるいは訴訟記録を送付するなどの行為をされることを示唆しておられますが、万一、ヴェト・シン社が双日の業務を妨害する行為に出る場合には、双日としてもしかるべき法的措置をとらざるを得ませんので、ご承知おき下さい>

 だが先に見たように、この警告書が送付されるのに先立って、既に大手新聞社の社会部や政府の関係各所などには、横浜地裁と東京地裁の2つの係争番号が記された封書が届き、山田は「どこか新聞か雑誌かに書かせてもらえませんか」と、ある人物に依頼していた。
 やはり2つの裁判は「工作」の一環として提起されたものであり、不可分なセットの関係にあったのだ。その根底に山田と三菱商事・三枡の思惑があったことは、山田自身が次のように語っている。
「横浜での裁判は、内野先生からのアドバイスもあって、日本国内では三菱重工や伊藤忠の大手に対する裁判を引受ける弁護士はいないだろうから、韓国の先生からの依頼というかたちで日本国内で引き受ける弁護士を探したほうがいいだろうということになりました。それに、ヴェト・シンの裁判は和解になりますから、和解になりましたら、お金が入りますよ」
 繰り返しになるが、山田は原告ではない。原告側弁護士は極めて山田と親しいのは事実だが、なぜ山田へカネが渡るのか……?

■〝海坊主〟山田への直接取材から浮かび上がったこと

 罠にかかったケダモノの顔とは、まさにこれをいうのだろうか。山田は右目下の、ほのかに興奮からか紅潮した頬の肉をビクッと上へ引きつらせた。
 2013年2月15日午後3時半すぎ。山田を東京・銀座の大都市政策研究センターに訪ね、三菱商事の受注工作のために関与した事実と、その内容を詳細に問うた。山田は、入居する東京都中小企業会館地階のソファーでじっと目を閉じて、答えにならない答えをくり返した。
「裁判について書くのは、これは構いませんよ。でも、60億円の話と裁判はまったく関係ないのではないでしょうか。何か誤解しているのではないでしょうか」
 しかし、山田の懇意の弁護士の内野が双日の社長宛てに送った「警告書」には、オモン火力発電所2号機の入札が迫っているという、山田と三菱商事側の〝都合〟がきっちりと書き込まれていることを告げると、山田はこう繰り返した。
「本当に私は知りません。それがなぜ裁判と?」
 裁判所の訴訟記録に内野の警告書が綴じられていることを告げると、それには一瞬、驚いた表情を見せ、沈黙した。
 警告書は、法廷でのやりとりではない。担当弁護士の内野は双日の社長宛てに直接送付している。双日側弁護士も反論を書き送っている。だから裁判所の外でのやり取りが証拠書類として裁判所に提出されていることを山田は知らなかったのかもしれない。裁判はODAの60億円の分配とは関係ない、決して足は付かない……そんな確信に満ちていたのだろう。
 だが、次の言葉を投げた瞬間、山田ははっきりと顔をこわばらせた。
「そう。東京地裁と横浜地裁の2つの裁判は、たとえ起こされていたとしても誰にもわかりませんよ。しかし、トラブルが起きてからすでに何年も経っているものが、オモン火力発電所の入札を目前にした時期に、同時に日本で起こされた。そもそも、2つの裁判は日本ではなくてベトナム国内で起こされてもいいはずの裁判です。それがわざわざ日本で起こされた。そして、そこには2人の弁護士が絡んでいる。金さんと内野さんだ。2人は、山田さんが極めて親しくしている弁護士であることは、山田さんを知る者ならば、それこそ誰でも知っている。山田さん、あなたはコンサルタントだから、依頼されれば、それに応えるのが仕事でしょう。たとえその仕事を悪くいうものがあっても、それはそれでしょう。あなたはコンサルタントとしての務めを果しただけかもしれない。しかし、それを恃んだのは三菱商事でしょう。頼む者がいなければ頼まれたほうはやらないんだから。山田さん、あなたは2つの裁判は60億円の分配とは関係ないと言う……」
 山田はすでに、60億円の分配は三菱商事の三桝、元社員の金子、そして山田の3人で分配しようとしていたのではないかという問いかけにこう答えていた。
「……それは、そんな簡単じゃないんじゃないでしょうか……。あれだけの金額ですからね……」
 簡単ではない――だからこそ、彼らはわざわざ中国にまで赴き、日本への送金ルートの構築を画策していたのではなかったか。山東省の電力会社(SEPCOⅢ)に〝抱かせた〟ODAの受注額の上積み分の60億円をSEPCOⅢから自分達に還流させ、さらに還流させたものを日本国内に持ち込む……。山田はこうも言った。
「それに、あれは駄目だったんじゃないでしょうか」
 結論はそうだ。しかし、商法の特別背任には未遂罪が存在する。背任を計画した段階で、罪に問われる可能性があるのだ。
 その三菱商事の受注工作を展開した山田は、三菱商事、金子、そして山田本人の誰がその計画の首謀者なのかと詰め寄るたびに、ソファーでじっと目を閉じて、腕を組み、そして沈黙した。そして、次の問いかけるでもない言葉に、頬骨あたりの筋肉が反応した。
「あなたが60億円の分配計画とは関係がないという2つの訴訟が起きた直後、朝日新聞と読売新聞に匿名の投書が届いた。そこには関係ないはずの2つの訴訟の係属番号が記されて、ベトナムでの賄賂工作云々と取材を促すような文言が短く書かれていた。つまり、関係ないはずの2つの訴訟がリンクすることを知っていた人物が送ったんですよ、これは。それは一体誰なのか、ということですよ」
 微かな表情の変化のあと、山田はまるで涅槃のように目を閉じて身じろぎひとつしなくなった。やましさを孕んだ目がありうるとすれば、まさにこれを言うのだろう。その顔相を前に、意図的な投書の実行犯こそは、やはりこの男ではないのか、と確信めいたものが浮かんだ。
 山田はメディア工作を、三菱商事の三枡や金子から請け負っていた。自身の人脈を以て、確実なリークを実現し、取材が行われることで相手は萎縮する──しかし実際には、山田は新聞社の社会部宛てに投書を行うことで済ませていたのだ。
 国際新聞の件で、小池が山田に問い合わせを行うと、「金子から、山田さんのところにはお金がいっぱい行っているんだから、そこから出せばいいじゃないかと言われました」と答えたのは先に見た通りだ。
 だが、朝日と読売、そして国際協力事業団を含めて撒かれた封書の投函にかかる費用は、1通わずか80円である。しかも、この時期に山田は「朝日の○○を取材に行かせています」などと、知名度の高い大物記者の名前を出し、いかにも自分が動かしているかのように吹聴していたのだが、実際には匿名投書の「80円作戦」だったのだ。
 山田は取材内容の細部を出しての問いかけに、沈黙し、目を閉じ、そして再び目を開いて口を動かした。
「いろいろと誤解があるようです」
 地下の共同応接室から一階に上がるまで、山田は執拗にエレベーターに乗るように促した。しかし、階段を上がれば済むわずかな距離を、同じ箱に乗ることを勧める。関係者は山田を「海坊主」とのあだ名をつけていた。そんな男の不敵な笑みは、相当な恐怖を煽られる。
「山田には暴力装置が付いている。とにかく気をつけてくれ」
 そう告げるメディア関係者は多かった。実際、山田の前半生を振り返れば、それは当っていた。
 山田は別れ際、家族関係についても執拗に訊いてきた。そんな笑顔の〝恫喝〟に、これまでの取材人生で何度か遭遇したことがあった。
 山田と二人だけの空間に入ることは危険だ。山田がエレベーターという一つ箱のなかで逆上し、それこそ鶏の首を絞めるかのごとく首に手をかければ、ひとたまりもないだろう、そんな思いがよぎる。
 執拗なエレベーターへの誘いを断り、一階への階段を上がろうとしたとき、白いコートに身を包んだ、女性が私とすれ違い、急ぎ、階下に降りて行った。
 その女性は、やはり三菱商事に勤めていた。今は独立してコンサルタント会社を経営している。「道路に強い」との評判だった。目の細く化粧の行き届いた、そのうりざね顔の女性は、山田の好みと言われていた。
 足早に階下を駆け降りて行った女性は、おそらくたった今、3階の事務所へと上がって行った山田とすれ違ってしまうことになったであろう。
 女性の足取りにはまだ希望の気配があった。
 聞けば、山田は安倍政権のもと、カンボジアで物流の大動脈となる高速道路建設〝プロジェクト〟を推進しているという。その参加料なのか、その女性もすでに山田に金を貸していると言われていた。この女性もまた、山田という大きな筋が大きな仕事に結び付くその日を夢見て、今を生きているのかもしれない。
 雪になるかもしれないと言われたバレンタインデー翌日の銀座で、人々の足取りは早く、空気は一層冷え込んでいるように感じられた。そんななか、山田を追いかけるかのように向かう女の姿が再び甦った。彼女もまた、小池隆一のように、身ぐるみ剥がされなければいいが……。
 山田に関わった者は、気付いた瞬間には、全てを奪われ、路上にぽつねんと放り出される。山田と知りあったゆえに、後半生で地獄の苦しみを味わうことになった小池。その悲しみは当然ながら、他の者と異なるはずがない。

(第4回につづく)

2016年6月10日

【完全無料記事】第2回きのうのスポ新〈麻央夫人ガン〉6月9日

mao201f6-06-10 0.55.01

きのうのスポーツ新聞の1面、社会面、芸能面のトップニュースを紹介する。

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【写真】小林麻央オフィシャルブログ「まお日記」より
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【1面見出し】
▽日刊スポーツ(約196万部)
「今日にも発表 英企業と5年500億円 倍増契約!! 放映権料 爆買い資金だ 世界のスター獲得促進 援助制度つくって メッシ Cロナ 夢じゃない」
▽スポーツニッポン(約171万部)
「当たってるね〜 大谷 3年ぶりの死球からの17戦連続安打」
▽サンケイスポーツ(約136万部)
「光成撃ち二塁打で巨人歴代3位 神様川上に並んだ 阿部 688長打」
▽スポーツ報知(約135万部)
「33歳極秘入院 海老蔵懸命サポート 麻央夫人 進行性がん 姉・麻耶の体調不良 心労が原因か」
▽デイリースポーツ(約99万部)
「チャンスに出ないあと1本… 惨連敗…今季ワースト借金2 金本監督「これが実力」 「どん底」ゴメス大ブレーキ」
▽東京中日スポーツ(=)
「5階席破壊 ビシ 恐弾 でも1点だけ…竜再び借金 「バキっていう音がしたのにボールが跳ね返ってきませんでした」─目撃者 ド派手復活祭「これがオレだ」」

【社会】
▽日刊スポーツ(約196万部)
「市議会が「意見書」可決 舛添都知事辞職固められた 自公「身を切る決意を」 内田裕也「ロックがない」 猪木氏「後は引き際」」
▽スポーツニッポン(約171万部)
「9月ダー!! 猪木氏 リオ五輪後なら20年東京へ影響少ない 元レスラーがロッカーが都議会が 舛添都知事に「辞任」包囲網」
▽サンケイスポーツ(約136万部)
「都議会〝殴り込み〟傍聴2時間 内田裕也 舛添はロックじゃない 権勢欲と名誉欲の塊 なめてる ふざけんな」
▽スポーツ報知(約135万部)
「「言うだけ言って何もやらない!」舛添氏はロックじゃない フォークだ 内田裕也都議会参上」
▽デイリースポーツ(約99万部)
「91年都知事選候補者の血が騒ぐ!? 裕也都議会傍聴 舛添都知事はロックじゃねえ「フォークソングだ」」
▽東京中日スポーツ(=)
「冨田さん意識回復に安堵の声 しばらく入院し治療」

【芸能】
▽日刊スポーツ(約196万部)
「リオ大会フジのテーマ曲歌う EXILE 2大会ぶり五輪」
▽スポーツニッポン(約171万部)
「不倫発覚後初めて質疑応答 正式決定 あす〝生〟ベッキー」
▽サンケイスポーツ(約136万部)
「杉崎美香フリーアナ 第1子出産「かわいくてたまらない」」
▽スポーツ報知(約135万部)
「井上芳雄 知念里奈 結婚 来月にも」
▽デイリースポーツ(約99万部)
「W不倫騒動…町おこしでも謝罪 ファンキー加藤で想定外の大盛況 「お騒がせして申し訳ありません」」
▽東京中日スポーツ(=)
「ダレノガレ 料理も恋も星三つ 熱愛 文春に「取られたのよお」映画「二ツ星の料理人」イベントに出席 お相手は慶大卒のエリート商社マン」

2016年1月27日

【無料・連載記事】第3回 きのうの1面 1月26日一般紙

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 写真は産経新聞の社会面。なかなかの小ネタだ。

 新聞の1面トップは、まさに各紙の「ショールーム」だ。スクープ性の有無に関係なく、最も読者に読んでほしい記事を〝展示〟している。
 だが、そうした目的に徹しながら、ふとした瞬間に各社の社風や社是、政治的スタンスなどがくっきりと浮かび上がる瞬間がある。
 そこで私たちは、あえて「きのうの1面トップ」を振り返ってみたい。24時間が経過したことで、冷静になって見出しを読むことができる。私たちのニュース感覚がどう変化したのかも分かるはずだ。
 また〝おまけ〟として、1面コラムの1行目と最終行だけを紹介する。全体像を想像して頂いたり、社名との妙などを楽しんで下されば幸甚だ。

 そこで今日は2016年1月26日付(火曜日)の日経を含む一般紙の見出しを見てみよう。

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【購読記事の文字数】約1237字
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