2ちゃんねる | イエロージャーナル

2017年8月10日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第10回

編集部(以下、編) 他に、住んでみたい候補地というのはありますか?

西村博之氏(以下、西村) 取りあえずフランスは永住権を申請できるぐらいまではいようと思っています。

花田庚彦氏(以下、花田) あと何年?

西村 あと4年です。そうすると永住権が申請できます。

編 グリーンカードのようなものが取得できるという理解でよろしいのですか?

西村 そんな感じですね。

本堂まさや氏(以下、本堂) フランスの場合、傭兵部隊に入っても、同じものを申請できますよね?

西村 そうです、同じものをもらえます。

花田 激裏情報だ(笑)

西村 日本人でも、フランスの傭兵部隊に入った人がいますからね。

花田 ひろゆきには、赤羽台団地のイメージしかないんだけどなあ(笑)

西村 出身ですから(笑)

編 西村さんをお待ちしている間、花田さんと本堂さんが「赤羽からパリはサクセスストーリーだよな」と話しておられるのが印象的でした。

西村 でも、アニメが好きでフランスから日本へ来る人もいるでしょう。それはサクセスではなく、単なる移動だと思います。

編 でも「赤羽からパリへ」という言葉は、単なる移動を超えたイメージの広がりがあるのは事実ではないでしょうか。

西村 フランスを選んだ理由の1つに、みんなフランスに価値があると思い込んでいる、というのはありました。

花田 確かに、日本だけじゃなくて世界的に、フランスは格好いいというイメージはあるね。

西村 僕はそこまで思ってはいないんですが、勝手に誤解をされて得をすることはないかなと考えていたんです。すると、本当に2日前なんですが、初めてフランスに住んで得をしたことがありました。

 2日前、あの美輪明宏さんとテレビ番組でご一緒したんです。その時、「こちらは2ちゃんねるを作られたひろゆきさんです」と紹介されると、美輪さんが「ああ、あの残念な方ね」というようなことをおっしゃったんですよ(笑)

編 いきなりですか(笑)

西村 美輪さんは2ちゃんねるが嫌いですから、僕のことも嫌いなんです。

 ところが、美輪さんはフランスが大好きでしょう。だから僕がフランスに住んでいるということが分かった途端、親しげに話をしてくれました(笑) 

 フランスに住んで得をした、人生で得をすることがあるのだと思いましたね。

本堂 パリ同時多発テロ事件の時、テレビに出演しましたよね?

花田 出てたっけ?

本堂 見た記憶があるんですよ。

編 コメントをされたんですか?

本堂 いや、津田大介さんの電話取材を受けていませんでした?

西村 テレビではなく、ニコニコチャンネルではないでしょうか?

本堂 そういえば、そうだったかもしれません。改めて、あの時は、どんな感じだったんですか?

西村 それが、気がつかなかったんです(笑)

編 現場から離れていたんですか?

西村 東京23区で言うと、テロの現場が銀座だとすれば、そのころに僕が住んでいたのは世田谷、というぐらいの距離ですね。「何かあったらしいぞ」という情報ぐらいしかなかったのですが、戒厳令は敷かれました。自宅近くは普段なら車も人も交通量の多い場所なんですが、全く後方もなく消えてしまって、それが面白かったですね。あちこちうろうろと散歩してしまいました。

編 パリ同時多発テロ事件は15年11月に起きましたが、そもそも同じ年の1月、諷刺週刊誌『シャルリー・エブド』本社が襲撃されましたよね。その後、パリでは自動小銃を手にした警官の姿がクローズアップされましたが、そんなパリに暮らされて、どんな感想を持たれましたか?

西村 住民の実感としては、厳しい警備のおかげで、非常に治安がいいんです。夜中に歩いても、何の危険も感じません。

花田 それだと逆に面白くないんじゃないの?

西村 いいえ、別に強盗にあいたいわけじゃないですから(笑)

 夜中に歩いても、全然危険な感じがしないので、本当に楽です。それだけ、犯罪者は射殺を恐れているようですね。日本人で外人部隊に所属している人がTwitterで報告してくれましたが、彼はパリ所属ではないのですが、応援で呼ばれたそうなんです。

 パリの警備に当たる際、射撃訓練を受けたそうなんですが、不審人物を発見した場合は「ムッシュ、止まって下さい」と3回警告する。しかも3回目は引き金を引きながら呼びかけろという訓練だったと言います。日本の場合は、撃つ訓練まではできないじゃないですか。

花田 できないよね。

西村 呼びかけながら撃てという訓練をしていると知って、さすがだなと思いました。普通の犯罪者なら、悪いことはできないですよ。

編 東京でも、サミットの時なんかに特別警戒を行うと結構、泥棒の逮捕者が増えたり、手配の容疑者が見つかったりすると聞いたことがあります。

花田 でも東京でもパリでも、そこまでの警戒になると、反対に地方が手薄になるから、そっちの泥棒なんかは増えるだろうね。

西村 そうですね。

編 今後の目標とか、何かお持ちですか?

西村 フランス語は、きちんと喋れるようになりたいと思っています。今は日本の中学生が卒業したときの英語ぐらいです。基本的な文法構造と単語は分かるけれども、アメリカ人が何を言っているかは全然分からないというようなレベルなのです。ですから、もうちょっとしゃべれるようにはなりたいですね。

花田 ひろゆきは、今の日本の政治について、どう思っているの?

本堂 すごいところを斬り込んできますね(笑)

花田 もう、まとめに入ってるから(笑)

西村 何だかんだ言っても、日本は自力がありますから、何とかなっているなという感じで見ています。

花田 そういう今の態勢は、ずっと続いていく?

西村 長期的なスパン、例えば30年後だと続いていないかもしれないと思います。でも10年ぐらいだったら大丈夫じゃないでしょうか。

花田 その長期的なスパンの問題が、それこそひろゆきが日本にいたら先はないと海外に出た理由の1つだよね?

西村 この国は危ないという感じはあります。ただ、今はヨーロッパの方が難民問題などで問題だらけですけど(笑)ヨーロッパの将来が本当に危険になれば、日本に戻ればいいだけの話です。ただ、日本だけが常に安全かと言うと、そんな気はしません。

編 外国にいると、日本のことがよく見えると聞きますが、どうですか?

西村 いや、よく見られるのは日本国内にいる時です。フランスにいると、日本とフランスを比較することができるので、そういう意味で「見える」ことはあります。

 例えば、ヨーロッパは若者の失業率が非常に高いです。そして日本も多分、同じようになるだろうと見ているわけです。実際、若者の非正規雇用は増え続けていて、ヨーロッパでも日本でも若者の鬱憤がたまっています。

 フランスで若者のデモは日常的ですが、日本でも例えばSEALDsのデモが話題になりました。どちらも解決を求めているのではなく、若い人たちが暇をぶつける対象が必要でやっているんです。本質的には一緒ですね。

 ヨーロッパでは過激なグループが出現し、車を燃やしたり、警察署を焼き討ちしたりしました。日本では見られない現象ですが、僕は時間の問題だと考えています。

編 昔は日本でも、若い人たちが燃やしていました。

花田 全共闘世代とかね。でも、あの時は反対することが格好いいという風潮があったでしょう。

本堂 一種のファッションですよね。

西村 日本で、またファッションで始まったら、また広がっていきます。

本堂 ひろゆきが、その先陣に立つわけですね(笑)

花田 だね(笑)

西村 僕がやる必要ないじゃないですか(笑)

花田 充分に資格があるよ。「やるぞ」と言えば、みんなついてくる。

西村 まさか(笑)

編 冗談はさておき、日本でも再び若者が暴れますか?

西村 あまり報道されませんでしたが、東日本大震災で甚大な被害を受けた福島に若者が車で入って、色んなものを盗んで帰ったんですよね。それと同種の動きが出る可能性はあるんじゃないでしょうか。例えばデモを銀座でやるんだけど、その中の1人でも宝石を盗むことに成功した奴が出ると、次のデモからは泥棒目的の参加者が増えていく、というイメージですよね。今は「さいしょのきっかけは誰だ」ということであって、起きるのは時間の問題ではないでしょうか。

(第11回につづく)

2017年8月3日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第9回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第9回は、Twitterの「大問題」と、〝利子生活者〟たる西村氏の「生活哲学」を浮き彫りにする。

◇第8回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000518/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】Instagram公式サイトより

(https://www.instagram.com/)

■――――――――――――――――――――

編集部(以下、編) 自分が運営している掲示板で、様々な人が蠢いている。その中には違法な書き込みも含まれているが、それを含めて〝特等席〟で見ている、というわけですね?

西村博之氏(以下、西村) Twitterで何かやらかした人が出ると、それを見て面白いと思うのと、本質的には変わらないと思います。

編 私が以前、勤務していた雑誌が廃刊になり、その話題が2ちゃんねるのスレッドになったんです。半分はデタラメな書き込みなんですけど、残りの半分は恐ろしく正確でした。完全に内部情報でしたね。特等席という表現は、分かるような気がします。

花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの書き込みは、当事者に近い人たちが書いているものは少なくないだろうね。

西村 へえ。

花田 相変わらず、他人事だね(笑)

西村 基本的には他人事ですから(笑)

編 2ちゃんねるの終わり、ということを想像されることはありますか?

西村 2ちゃんねるでなくとも、TwitterやFacebookでも同じことが行われているわけですから、終わらないのではないでしょうか。

編 掲示板という形式の強さがあると思うのですが?

西村 使い勝手とユーザーインターフェースの問題で、今は文字で意思疎通を行うのが基本ではあります。ですが、Instagramのように画像でコミュニケーションを行ったり、YouTubeでも動画で会話をしたりする人もいます。

 そういうことを考えると、文字をツールとして使う場が減少していく可能性はあると思いますね。ただ、消滅する可能性は低いと考えています。新聞や雑誌も、文字のまま残り続けていますしね。

花田 Facebookは廃れてきているイメージだけど、実際にはどうなの?

編 若い女性が、Facebookも高齢者が使うようになって落胆したので、インスタには来ないで下さい、といったことをネット上に書いて話題になりましたよね。

西村 InstagramもイコールFacebookですから、Facebookの閉じた中でFacebookユーザーがインスタに移動するというのはあるでしょう。だからFacebook自体は、ブームは過ぎたけれども、衰退というほどでもない気はします。

 衰退はむしろTwitterです。これは日本ではなくて世界の話ですが、Twitterのほうが今はまずいのではないでしょうか。世界中の会社が、ディズニー、Facebook、Googleも「Twitterは要らない」と言っています。

編 背景はどのようなところにあるのですか。

西村 コストが高過ぎる割に、広告の出しようがなかなかないのです。Twitterが出た当時にTwitter的なものを作ろうとしたことがあるのですけれども、これは投資を受けた金でやれるからやれるのであって自分でシステムを作ったら無理だなと思いました。

 メールで喩えてみるとTwitterの仕組みというのは、例えばフォロワーが100万人いた場合は1つ書き込むたびに、100万人にメールを送っているのと同じ仕組みなのです。

 僕がログインした瞬間に自分がフォローしている人のデータを集める仕組みだったら、ログインするまでは一切データを動かさなくていいからまだ楽なのですけれども、Twitterというのはログインした瞬間にバッと出るでしょう。

 ログインしないような人というのは100万人の中で多分、半分ぐらいはログインしないと思うのですけれども、見もしないデータをずっと送らなければいけないのです。これはコストが悪すぎますね。

 早晩つぶれるか、めちゃくちゃに金を払い続けるかどちらかだろうと思ったら金を払い続けるというモデルで何とかここまで来ました。ですが、やはり利益は出ないモデルですから誰も引き受けません。

編 2倍以上のフル生産をずっとしている工場のような感じなのですか?

西村 工場の比喩なら、Twitterという製造ラインは造っては捨て、造っては捨てを繰り返しているわけです。これは無駄すぎますよね。

西村氏「楽隠居願望」の原点

編 「利子生活者」という言葉なのか「楽隠居」という言い方なのか、いろいろな言い方はできると思うのですけれども、一生遊んで、しかも月3万円の範囲内で金に困らないぐらいの貯金があればいい、と思われたのは、どれぐらいの時期に遡ることができるんですか?

西村 高校ぐらいでしょうか。

編 これから一生、死ぬまで「楽隠居」できそうですか?

西村 よほどのインフレや戦争などがなければ可能かもしれませんが、僕は不可能となる可能性の方が高いと考えています。

編 とはいえ、月3万円ですからね……。

西村 だらだらと暮らせるかどうかというぐらいでしょうか。

編 利子生活が可能になると、明日、明後日、来年、5年後、10年後の行動やビジョンというものは変わりますか?

西村 変わらないと思います。ただ、日本が危なくなったら、ヨーロッパへ行こうというような、逃げ道を作っておくのが好きなんですね。

 別にヨーロッパに行かなくてもいいはずなんです。日本で月3万円で暮らす方法もあるはずなんですが、あえてそういうことをしてしまう。そういうことを考えると、貯金があるかないかというのは、あまり僕に影響を与えないのかもしれません。

 貯金の話なら、例えば銀行が閉鎖されたり、金融社会が完全に消滅したりする可能性もゼロではないですよね。僕は、そういう極端な未来予測も、心のどこかである程度は意識しています。

 そうすると日本だけに拠点を置くのは危険ですよね。日本を切り捨てて、英語とフランス語で暮らす準備もしておこうと考えるタイプなんです。

編 究極のリスクヘッジ、という理解でよろしいでしょうか?

西村 はい、そうですね。 

編 となると、お持ちの資産も、ドル・ユーロ・円というように、外貨も含めて分散させているんですか?

西村 貯金は日本円とユーロですね。

編 それはゲーム的な感覚で遊んでいるんですか? それともリアルに、日本崩壊や、ご自身が命を狙われるような危険性を予測しておられるんですか?

西村 僕の生命に危険が及んでいるわけではありませんし、実際のところ、僕の今の備えも万全というわけではないと思っています。ただ、問題を見つけたら、対処はしなければならないですよね。ゲームというより、パズル的なイメージでしょうか。

編 日本とパリにしっかりと生活の場を確保できている人が、「万全ではない」と考えているというのは、ちょっと珍しい気がします。

西村 確かに、ある程度の危険性は除去できてきているとも思います。日本だけに住み、日本円の資産しか持っていない人に比べれば、僕の方がリスクを減少させているのは確かでしょう。とはいえ、僕が想像するリスクヘッジというのは最終的に「宇宙人が地球に攻めてきたら、どう対処するか」というレベルに達しますので。

一同 (笑)

本堂 そんなことまで想定しているんですか!?(笑)

西村 だから単なるパズルとも言えるんです。本当に、そんな危険性が及ぶとは考えていないですからね。でも、核戦争の危険性を考えるなら、シェルターは用意した方がいいよな、という思考はありますね。

花田 そこまで考えるんだ、なるほどね。

西村 基本的に暇ですから(笑)

編 それって、ある種の勤勉さに通じるのではないですか?

西村 いいえ、単なる暇つぶしですね。

編 やっぱり、暇つぶしという言葉が出てくるんですね。

西村 例えば、完全犯罪をやるにはどうすればいいかというのを想像することって、誰でもあると思うんですよ。実際にする気はないですし、する必然性もない。でも考えて、「あ、1個方法を見つけた」というようなものに近いのではないでしょうか。

編 実際、それだけの資産を持っておられるわけですしね。

西村 余裕のあるうちにやっておいた方がいいのは間違いありません。

編 結局、パリに住むのも、ラトビアに行くのも、暇つぶしなんですか?

西村 うーん、何でしょうね……。日本に生まれて、日本に育ったことは、僕が選んだことではないですよね。ひょっとしたら僕は別の場所の方が合うのかもしれないという、ちょっとした期待感は持っているかもしれません。

 沖縄が大好きだと思っていた人が、北海道に行ってみたらそっちの方がよかったということはありますよね。それと同じことで、色々なところに暮らした方が、住みやすい街を見つけられます。その際、大勢の人が「ここはいいよ」と褒める場所は、とりあえず住んでみたいですね。

(第10回につづく)

2017年7月28日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第8回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第8回は、懐かしい『電車男』の思い出と、アメリカ「ピザゲート」事件と西村氏の〝奇縁〟という話題だ。

◇第7回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000516/

■―――――――――――――――――――― 【写真】新潮社『電車男』特設ページより

(http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/471501/)

■――――――――――――――――――――

本堂まさや氏(以下、本堂) でも、そう考えると、自分の権限を他人に委譲して回していくという方針は、2ちゃんのときからきれいにそうなっていますよね。有志のボランティアなど、割と2ちゃんのポリシーに共感して対価として労働力を提供してくれている人たちというのは結構いたでしょう。

西村博之氏(以下、西村) そうですね。「この会社に入りたい」「やりたいことがあります」という人がいて、僕が「ではやってください」とお願いするのと、基本的には同じ状況でした。

編集部(以下、編) ほれぼれするような書き込みを読むたび、「才能の無駄遣い」という有名な言葉を実感しますが、そういう人たちが集まってくる場を作ったというのは、改めて凄いことだと思うのですが?

西村 今も昔も、優秀で面白い人は世の中に大勢いますよ。それがピックアップされやすくなっただけだと思います。

花田庚彦氏(以下、花田) ところで以前、2ちゃんねるの書き込みを書籍化することがブームになったけど、あの印税はどうなってたの?

西村 例えば『電車男』(新潮文庫)は、本人と僕と、まとめサイトを作った人で3分割です。

花田 本人にもいってるんだ。結構、売れたよね。

西村 売れました。100万部を超えましたから。

本堂 『電車男』いない説とかありましたよね(笑) 懐かしい。

編 当時のインタビューで、「『電車男』で成功されてよかったですね、とよく言われるが、それは違う」と喋っておられます。

西村 そうでしたか、へえ……。

花田 「へえ」じゃないよ(笑)

西村 全然、覚えていません(笑)

編 「『電車男』の前から成功していた」と仰っておられます。

西村 そうなのですか、へえ(笑)。

本堂 映画化もされて、一気にメジャーになったということでしょうかね。

花田 映画になったっけ?

本堂 なりました。

西村 映画とテレビドラマです。

編 『電車男』以降、2ちゃんねるの社会的反響が巨大化し、一部メディアの批判も強まったのは事実だと思います。例えば、あるスレッドが物議を醸し、実際に世間が騒いだとして、その時西村さんは、その騒動をどう見ておられるのですか? 意外に、世間と同じ視点を持っておられるのですか?

西村 「同じ視点」というのが、ちょっと分かりません。

編 例えば2000年、西鉄バスジャック事件が発生しました。当時17歳の犯人は、2ちゃんねるに犯行予告を書き込んでいたなど、様々なことが発覚しましたが、その時に私たちは単純に「わ、大変だ!」と驚いたわけですけど、西村さんも同じように「大変だ!」と思われるのでしょうか?

西村 何をもって大変だとするかだと思うのです。

編 どちらかといえば、大変だとは思わない?

西村 思わないですね。

編 では、どう見えているの説明をお願いするのは、難しいでしょうか?

西村 割と他人事ですね。最近の話ですと、僕は4chanというサイトの管理人をやっているのですけれど、
(http://www.4chan.org/japanese)
4chanのユーザーがショットガンを持ってピザ屋に乱入したのです。

 アメリカ大統領選でヒラリー候補のメールが流出しましたが、それに関連して、あるフェイクニュースがネット上で広まったことがあったんです。内容は「ワシントンDCにあるピザ屋が、子供を誘拐して販売している。それにヒラリーが関与している」ことが流出メールから判明したというんですね。「pizza」が隠語で子供を表しているとか、ものすごい陰謀論なんですよ。

 それが4chanでネタとして盛り上がっていたんですが、本当に真に受ける人がいたんですね。子供を助けようとショットガンを持って向かってしまった。少なくとも店内で1発発砲して警察に投降したんですが、大問題となってFBIなどから捜査の依頼が来るわけです。

 召喚状のようなものが来たら対応するという、いつもの手続きを行うだけなんですが、やっぱり僕にとっては他人事ですね。僕が悪いことをしたわけではないですし。

 ただ、起きた出来事に対して、僕が対応する必要のある作業が発生するわけですが、そのために特等席で事件を見られることがありますね。

 2016年の秋頃だったと思いますが、カルフォルニアの高校で殺人事件があったのです。それの殺人予告が4chanに載っているという話があったんですね。

 結論から言うと、予告を書いた人間は犯人ではありませんでした。僕も書き込みのIPアドレスがフロリダだったので、犯行時間から逆算してみると、フロリダからカルフォルニアに移動するのは不可能だと分かっていました。

 ですがFBIの捜査上、提出した情報について口外してはならないという決まりがあるので、僕は「あの予告は犯人が書いたものではない」と言えなかったんです。ところがアメリカのニュースでは「4chanに予告を書いて殺人を行った犯人がいる」と報道しているわけです。それを僕は特等席で見ていた。そういう感じの面白さは感じます。

本堂 マスコミは踊らされているなと思いますね。

西村 僕が殺人予告をしたわけではないので、別に良心の呵責を感じるわけでもありませんね。

(第9回につづく)

2017年7月20日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第7回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第7回は、西村氏の「部下に権限を委譲する極意」と、バーニングマンという興味深い世界的イベントの話となった。

◇第6回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000515/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】バーニングマン公式サイトより

(https://burningman.org/)

■――――――――――――――――――――

編集部(以下、編) 服装だけでなく、感性や思考も含めて、この20年間、全身が変わらなかったということですか?

西村博之氏(以下、西村) いえ、さすがに変わっているのではないでしょうか。昔はどのように考えていたのかは覚えていませんから、本当のところは分かりません。ですが、以前よりも長期的に考えるようにはなりました。

編 長期的、ですか?

西村 20代の頃は1年が非常に長いですが、30代になって1年が早いことに気づきました。ですから「3年後は、こうなっているだろう」と考えて、様々な種を植えるようにしたんです。

編 それを「大人になったね」と評されると、嫌ですか?

西村 別に嫌ではありません。ただ補足させてもらうと、自分1人で仕事をするより、チームで動くことが増えました。自分でやれば早い。他の人に任せると時間がかかります。でも長期的に見ると、自分ではなく他の人に任せた方が、結果的にはうまくいったことが多かったですね。

編 そのお話ですが、人を使う大変さとメリットが集約されている気がします。

西村 自分なら1時間で終わる仕事を、他の人に3日間かけてやってもらうわけです。それを積み重ねていくんですね。

編 それでも他の人に頼むのは、どうしてですか?

西村 怠け者だからではないでしょうか(笑) 僕が担当するとして、週に1回、1時間が必要な仕事を、誰かが担当できるようにして回した方が楽でしょう。新しい担当者を作る方が、僕は楽ができます。いかに楽をするかということに腐心しているんですよ(笑)

編 もっと楽をするために、長期的に、3年間の視野で考えるということですか?

西村 そうです。

編 となると「ひろゆきの人生哲学は、楽をすることにある」と強引にまとめたくなってしまうんですが、それは間違っていますか?

西村 どうぞどうぞ(笑)

編 大丈夫なんですか?(笑)

西村 別に大丈夫ですよ。

編 当たらずといえども遠からずということですか?

西村 人生哲学というのは間違っていますけどね。人間は楽をしたいから楽をするというだけのことです。

 旅行で、わざと辛い思いをするのは楽しいです。知的好奇心を満たす体験で、大変な目にあうのは大好きなんです。『バーニングマン』というイベントはご存じですか? ネバダ州の砂漠で開催されるんです。1週間の期間で、6万人ぐらいが集まります。

※編集部註 
 8月第4週の月曜日から9月第1週の月曜日まで開催され、貨幣や商行為が厳禁とされていることが最大の特徴。電気、上下水道、電話、ガス、ガソリンスタンドといった社会インフラが全く整備されていない砂漠で、参加者は見返りを求めない「ギフト経済」で生き延びることを求められる。

花田庚彦氏(以下、花田)・本堂まさや氏(以下、本堂) 行ってましたね。

西村 何回も行ってるんですけど、ネットどころか、電気もありませんというところで、人が集まって暮らすわけです。夜は寒く、日中は暑いので、相当にハードです。水も食物も持参しただけ、というハードな状況で生活するのは割に好きなんです。

 ですが仕事となると、いかに楽なルーティンを作って成果を出すかというのが、本来の目的だと思うんです。僕が何かしなければならないというのは、僕がボトルネックになることを意味します。ならば、なるべく僕を外す形を作ると、うまく回るんです。

編 ボトルネック=支障という部分を、もう少し詳しく教えて下さいますか?

西村 例えば、僕に決定を下す役割があったとします。チームがあって、僕がリーダーというイメージですね。「これは、どうすればいいですか?」と訊かれて、僕が決めないと進まないで止まってしまうわけです。

 そうなら、「もうあなたたちで決めて下さい、決定の規準は以下の通りです、最初は間違っても構いません」とお願いするわけです。確かに最初は間違った決定をしてしまうかもしれません。でも、人は何回か間違うと、ちゃんと学習します。そうすると、いつしか僕の手を離れて、きちんと回っていくようになるんです。

編 そういうシステムを作るということは、20代の頃から意識的に考えておられたんですか? それとも次第に学習していくような感じだったのですか?

西村 実は、僕は朝、起きないことがあって、連絡が付きにくい人間だったんです(笑)

本堂 成長しましたよね。今日は15分の遅刻で済みました(笑)

花田 凄いよ、15分の遅刻で来たんだから(笑)

西村 ありがとうございます(笑)

編 実は私を含めて3人でお待ちしていたところ、お二人が「1時間は遅刻するよ」と仰って(笑)

本堂 1時間は、たばこをゆっくり吸えると思ってました(笑)

花田 ひろゆき時間って有名だからね。昔から平気で人を待たせる(笑)

西村 いやはや、すみません。すみません(笑)

本堂 大人になりましたね。

花田 15分になった(笑)

西村 僕がいなくて、僕がいない状態で回すようになってしまったのに、「あ、これでいいじゃない」というのはよくありました(笑)

編 その成功体験を(笑)意識的に中心に据えたんですか?

西村 遅刻は意識的なものではないですが(笑)そうした方が僕も楽ですし、チーム自体も楽になります。

(第8回につづく)

2017年7月13日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第6回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第6回は、西村氏の昔と変わらぬ〝若さ〟に話題が弾む。

◇第5回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000514/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】グーグルショッピングで「ゴムサンダル」を検索した結果

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本堂まさや氏(以下、本堂) でも世界でというと、フランスではなくスペインの選択肢もあったのではないですか?

西村博之氏(以下、西村) 英語圏の統計があって何語を覚えると給料が上がるかというのでフランス語・ドイツ語は上がるのですけれども、スペイン語は上がらないのです。

本堂 なるほど。

花田庚彦氏(以下、花田) そうなんだ。

西村 要するに、メキシコ人がスペイン語と英語の両方をしゃべるでしょう。そうすると、スペイン語が必要でしたらメキシコ人を雇えばいいのです。

 だから例えば、中国語を覚えるというのは、僕は無意味だと思っているのです。それでしたら、中国人で日本語をしゃべれる者を探したほうが早い。

 平均年収の高い国の言語でしたらドイツ、フランスになるのです。ラテン語系の流れで、フランス語を覚えておくとスペイン語もある程度分かるのです。昔、留学したときのフランス人の友達が「スペイン語は何となく分かるよ」と言っていたので、では同じような感じなら得をするほうのフランスにしましょうと。

編集部(以下、編) ひょっとするとポルトガル語も付いてくるかもしれないですね。

西村 でも、ポルトガル語は何か若干違うのです。

編 違うのですか?

西村 スペイン語はこういう感じだろうというのがあるのですけれども、何かポルトガル語は若干違うのです。

花田 ポルトガル語は、南米はブラジルだけだよね。

西村 そうです。ですから、ポルトガル語はあまり役に立たないです。

花田 役に立たないね。

本堂 それにしても、全然、年を取らないですね。

西村 いいえ。多分、取っていますよ。

本堂 そうでしょうか。

花田 ひろゆきは全然変わらない。

本堂 変わらないです。

西村 でも、白髪は増えました。

本堂 私も染めないと、もう真っ白ですよ。

西村 本当ですか?

本堂 真っ白です。ですから、ひげなどは本当にまずいです。

編 花田さんと初めて会われたのはいつごろなのですか?

花田 ひろゆきとは15年ぐらい前ですね。

西村 そうです。まだ髪が黒かったですから(笑)

花田 そうだね(笑)

本堂 花田さん、もっと太っていましたからね。今は激やせしてしまいましたけど。

西村 確かに、もうちょっと太っていたイメージはありますね。

本堂 いい薬を見つけたのですね。

一同 (笑)

花田 訳の分からないことを言うな(笑)

編 皆さんが面識を持たれたきっかけは、何だったんですか?

花田 きっかけは、もともと自分もアングラサイトをやっていたので、それで遊んでいたのです。それで本堂と知り合って、ネットの悪い者たちはみんな、そこからの流れです。

編 悪い者たちですか(笑)

西村 本堂さんのつながりです(笑)

花田 そうです。みんな彼が元凶ですから。

西村 本堂さんが悪い人たちを……。

花田 悪い人を引き寄せるオーラがあるのです(笑)

本堂 止めて下さい(笑) 弊社のコンプラ問題です(笑)

編 当時、西村さんの肩書というのは……?

花田 当時は、2ちゃんねる管理人だったよね。

西村 そうです。普通にホームページ制作屋さんもやりつつ、でしたね。

本堂 最初に会ったときには中央大に通っていましたね。

花田 通ってたっけ?

西村 大学生のときでしたか?

本堂 そうですよ。まだ20代の大学生で、21歳とか、22歳だったはずです。

西村 まだ卒業前ぐらいだったかもしれませんね。

花田 ロフトプラスワンでイベントをやったのは、あれは何年ぐらい? 2015年?

本堂 あれは多分2000年。

花田 2000年か……。宮台真司も来ましたね。

本堂 来ました。

西村 卒業したか、する前か、という頃ですね。

本堂 そのくらいですよね。

編 ということは、お二人から見ると、西村さんは大学生の頃から全く変わっていないんですか?

花田 服装すら変わってない(笑)

西村 服が変わっていないからでしょう。

本堂 いや、想像以上に年を取っていないですよ。久しぶりに会って、びっくりしましたから。

西村 そんなことはないです。第一、太りましたし。

本堂 美容系で、優秀な店に通っているんですか?(笑) もしそうだとしたら、教えて下さい(笑)

西村 ないですよ(笑) 服装のセンスは変わっていないのは事実で、それが大きいんでしょう。

花田 昔はゴムサン履いていたもんね。

西村 今も変わりません(笑) ちょっと高価にはなりましたけど、今の大学生が着ている服と、そんなに変わらないものを身にまとっています。

(第7回につづく)

2017年7月6日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第5回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第5回は、西村氏の「ドケチ」とは全く異なる「金の必要ない生き方」について語る。

◇第4回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000513/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】アマゾンフランスのトップページ

(https://www.amazon.fr/)

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編集部(以下、編) 知人にフランスかぶれがいるのですが、「パリほど安い値段で1日楽しめる街はない」と力説するんです。西村さんがパリに住んでいることと、西村さんが大切にしておられる「ヒマつぶし」が繋がったような気がしたんですが?

西村博之氏(以下、西村) でも、ずっと家にいるだけですから、住んでいると東京でもフランスでもあまり変わらないです(笑)

編 それでフランス語を覚えられるものですか?

西村 まあ、何とかなりますよ。覚える気になるのです。

編 覚える気になる、とは?

西村 スーパーで買い物をしたときにも一応話をしますから、覚えざるを得ないでしょう。そういうモチベーションが東京にいると一切ないですから。

編 たとえパリの自宅で1日中ネットやテレビを見ていたとしても、いつか買い物をしに外出しなければいけない、ということですか?

西村 自宅でネット通販を使おうと思っても、フランス語のサイトを見るようになるでしょう? Amazon.frを閲覧するうちに、「加湿器」という単語を覚えたりするわけです。

編 自宅に和仏辞典は必携ですね。

西村 ネットで調べますよ。紙の辞書は不便ですからね。

編 面白いですね。

花田庚彦氏(以下、花田) ひろゆきは、最後はどこに辿り着きたいの?

西村 多分、部屋で普通に映画を見て、ゲームをして、漫画を読んで終わりではないでしょうか。

花田 そうした人生を望んでいるの? というより、そういう人生に辿り着くことができるのかな?

西村 引退して、そうなりたいな、と若い頃に思っていたことが、今、実現できてますからね。

花田 今、幾つですか?

西村 40歳になりました。

花田 40歳で、引退後の夢を実現させたんだね。

西村 と言っても、30代ぐらいから実現できていましたけど(笑)

花田 確かに、そうかもしれないね。

西村 別に、そんなにお金かからないですから。

編 のんびり暮らせるな、と実感されたのは、いつ頃ですか?

西村 20代から、そう思ってました。

編 本当ですか!? 当時は今と比べ物にならない、なんて言うと失礼ですが、収入の額は全く違ったと思うんですが……。

西村 今も昔も、生活費の金額は変わっていませんから。

編 幾らぐらいなんですか?

西村 家賃を除けば、月に3万も使わないと思います。電話もしないから、電話代も常に最低額ですし。

編 家賃を除けば、年に36万円の収入で生きていけるわけですね。

西村 足ります。服も買いませんから。

編 月に3万円しか必要がない人が、それなりに多額の収入を得るということに対して、ご自身はどのように感じておられますか? 

西村 例えば2ちゃんねるは最初、趣味で始めました。広告もありません。でもサーバー代を払うために広告を付ける必要が出てきた。始めれば、資金が多目に回る方がいいし、実際に回すことができた。ああ、回った、回った、という感じです。

 逆に赤黒トントン、収益ゼロ、赤字ゼロを最初から狙うというのは、かえって難しいです。経営者の本堂さんなら分かると思いますけど……。

本堂 いえいえ、うちはトントンです(笑) いつもぎりぎりで何とかやってます、というレベルですから。

花田 絶対に嘘(笑) 闇のネット長者、裏のIT長者だもの。

本堂 いいえ。例えば貯金額なら、ひろゆきは私の20倍ぐらい持っていると思いますよ。

本堂 ひろゆきは持ってるよね。

西村 いいえ。

本堂 僕は使ってしまいます。全部、使ってしまうんです。

花田 確かに本堂君は使うね。

本堂 残りませんね。

西村 本堂さんは家を買ったりするし。

本堂 いえいえ、まさか家なんて、そんな……。

花田 15年間は静岡の片田舎に住んでたしね。

本堂 本当にそうですけど、あの、これって僕へのインタビューではないですよね(笑)

(第6回につづく)

2017年6月29日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第4回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第4回は、西村氏が「飛行機の旅を愛する理由」について語る。

◇第3回記事(リンク)

■―――――――――――――――――――― 【写真】ユナイテッド航空公式サイトより

(https://hub.united.com/)

■――――――――――――――――――――

本堂まさや氏(以下、本堂) ビジネスか、ファーストクラス?

西村博之氏(以下、西村) 僕は常にエコノミーです。

花田庚彦氏(以下、花田) え!? そうなの?

本堂 11時間も平気ですか?

西村 映画も見られるし、ゲームもできます。飯も食べられるし、飲み物も飲み放題で、僕は割と好きです。

編集部(以下、編) 今、タバコを吸っておられますが、機内禁煙は辛くないですか?

西村 僕はタバコがなければ、吸わなくて平気なんです。

花田 私が海外に行く時は機内の時間が面倒で、睡眠薬を飲んで寝ちゃうなあ。

編 その気持ち、分かります。

西村 映画を無料で見られるのに、もったいなくないですか?

花田 いや、9時間とか10時間とか、乗っている時間が嫌です。

西村 僕は多分、24時間でも平気です。長ければ長いほど、「次は、この映画を見よう」と思いながら寝てしまったとしても、起きて続きを見られるじゃないですか。ですから、割と楽しい感じの11時間を過ごしています。

花田 飛行機は楽しめて1時間半。それ以上は嫌だなあ。

西村 となると、映画が好きかどうかによるかもしれないですね。

編 僕も11時間の禁煙が辛くて、日本の航空会社の人に愚痴を言ったら、「もう困ったらトイレで吸うといいですよ。もちろん禁煙だけど、チェックに来るCAも黙認してますから」と教えてくれたんです。それでコンチネンタル航空のニューヨーク便で吸ってみたら、現行犯的に取り抑えられたんです(笑)

花田 そりゃ当然だ(笑)

編 僕の座っている席の真正面に、NASAの警告書を貼られたんです。アメリカ航空宇宙局だから、飛行機もNASAなんでしょうね。次に吸ったら、その時はアメリカの法律に従って処分するから覚悟しろ、みたいなことが書いてありました。

西村 ということは最初の1回目は見逃してくれるんですか?

編 そういうことなんでしょうか。アバウトに英文を読んだだけなので、責任は持てませんけど……。

西村 そうですか。いい話を聞きました。

編 CAは日本人の女性でしたけど、トイレから出たら「あなた、タバコを吸いましたね!?」と詰問されて……。

西村 アラームが鳴ったわけではないんですか?

編 アラームは鳴りませんでした。先に言った日本の航空会社の人が教えてくれたんですけど、乗客がトイレから出てくると、CAはタバコの臭いがしないかチェックしに来るんです。日本の場合は臭いがしても黙認することが多いらしいんですが、コンチネンタル航空は許さなかったわけです。

花田 トイレから出ると、CAが来ることありますよ。

西村 そうなんですか。

花田 確かに最近は、国内線でも「トイレでタバコを吸う方がいらっしゃいますが」云々というアナウンスをしてるね。

西村 そうなんですか。

編 すいません、本題に戻らせて頂きますが、アメリカに留学したから、次はヨーロッパのフランス、と考えられたんですか?

西村 そうではないです。アメリカも滞在許可証というか、10年いられるビザは持っているんです。

編 今でもですか?

西村 そうです。ヨーロッパとアメリカの両方に、自分の居場所を作っておこうということは前から考えていました。あと、なぜかマレーシアの長期滞在ビザも持っていますね(笑) 何かあったら、どこかに行けるようにしておこうという意識があって、フランスを選んだのも、フランス語が喋られるようになれば、アフリカ圏に行けるようになると考えたからです。

編 フランスの植民地だった国が多いですからね。

花田 アフリカには行った?

西村 まだジンバブエと南アフリカしか行ったことがないです。

本堂 でも凄いですよ。

花田 ジンバブエってインフレが物凄かったところだよね?

西村 今は収束しましたし、結局は米ドルを使うので。

花田 確かに、米ドルはどこでも両替できるからね。

編 先の『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)に、こんな箇所があります。

<ヒマなんで、ヒマつぶしはしたいけど、お金を払うのはいやだから、自分で作る>

西村 ほう、そんなことを言ってましたか(笑)

花田 本当に覚えていないね(笑)

(第5回につづく)

2017年6月22日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第3回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第3回は、西村氏の「フランス在住レポート」という内容だ。

◇第2回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000511/

■―――――――――――――――――――― 【写真】パリ市公式サイトより

(http://www.paris.fr/)

■――――――――――――――――――――

編集部(以下、編) 4年が経って、ラトビアの住民許可証の使い勝手といいますか、ヨーロッパの居心地はどうですか?

西村博之氏(以下、西村) 住み始めたのは2015年からです。ラトビアではなくフランスのパリ。フランスでも滞在許可証のようなものを取得しています。

本堂まさや氏(以下、本堂) なぜフランスを選んだんですか? 大学の時に1年間、アメリカに留学しているから、英語圏の方がよかったんじゃないですか?

西村 フランス語が全く喋れないので、フランスを選んだんです。

編 語学留学ということですか?

西村 僕は、ネットの仕事ができれば、住む国はどこでもいいというのがあります。その上で、僕が観察している限り人間は、ある国に住めば、その国の言葉を喋られるようになります。それなら、得をしそうな言語を覚えようと考えたんです。全然言葉を知らないフランスに住んで、フランス語を喋られるようになるか試してみたんですが、ある程度いけるので、便利ですね。

本堂 1年で喋られるというのは凄いですよ。

西村 でも日本でも外国人がコンビニで働いていますけど、別に超優秀な人でなくても、レジで日本語を喋っていますよね。

編 そういえば先ほどメールを送って頂きましたが、「iPhoneから送信」と書いてあるんだろうなというところがフランス語になっていました。

西村 フランス語になっていましたか、すいません……。フランス語を覚えようと思って、iPhoneの設定はフランス語にしているんです。

編 パリの住み心地、日常生活の実際など、どんな感想をお持ちですか?

西村 飯は旨いです。外食をしない限りは食費も安いので、かなり食生活は充実します。例えばエシレというバターがあって、日本では高級品扱いですが、パリならスーパーでも売っています。250グラムが日本円で200円ぐらいです。  

 向こうで高級バターというと、ボルディエというノルマンディーの手作りバターがあって、たまに僕も買うんですけど、これだと250グラムで300円ぐらいかな。ところが日本の楽天で見ると、3000円ぐらいの値段になっています。

本堂 乳製品は輸入関税が凄いですからね。

西村 牛耳っている人がいるわけです。あと、恵比寿にユーゴ・デノワイエという肉屋ができたのですが、ここはフランスにもともとあるんです。星がついているレストランに肉を卸しているんですけれど、僕らも行けば普通に買えます。値段も100グラム200円ぐらいで、そんなに高いわけじゃないんです。

編 日本円で200円ですか?

西村 2ユーロです。だからステーキで200グラム買ったとしても、500円で収まる。だから星付きのレストランで食べる肉と同じものが2人で1000円しなかったりするわけです。これは楽しく暮らせますよ。

編 松坂牛が500円で買えるようなものですか。

西村 あとフランスパンが美味しいです。パリで食べて理解しましたが、とても乾燥していて、美味しいフランスパンは乾燥していないと作れないようなんです。雨の日は膨らみが悪いんですね。乾燥した日に膨らんでいるのが美味しい。だから同じ材料を持ってきて日本で焼いても、やっぱり無理じゃないでしょうか。

編 1日経ったフランスパンを齧ると、破片が凶器のようになって口から血が出たという話を聞いたことがあります。

西村 それぐらい乾燥していますね。

編 フランス語の習得状況は、どうですか?

西村 日常会話は何とかなります。やはり住んでいるからですね。

編 どんなところにお住まいなんですか?

西村 パリの部屋は狭いので、1平米あたりの家賃は東京より高いんです。僕が住んでいるのはワンルーム的な部屋ですね。30㎡ぐらいでしょうか。

本堂 結婚しましたよね?

西村 しています。

本堂 奥さんと一緒にパリで暮らしているんですか?

西村 一緒です。

花田庚彦氏(以下、花田) じゃあ今回、奥さんと一緒に来日したんだ?

西村 そうです。ちょっとずれて、別々に入ったんですけどね。僕だけ用事があったので、先に来ました。まあ、来日なのか帰国なのか分からないですけれども(笑)

花田 そうだ帰国だ、来日ではないよね(笑)

本堂 フランス人になってしまった(笑)

編 日本には年に2、3回は帰られるんですか?

西村 一応は月1です。何だかんだやることがありまして。あと不在時の郵便を保管してくれるのが1か月ということもあります。

本堂 じゃあ、シャルル・ド・ゴール空港から飛んでくるんですね。

西村 そうです。11時間ぐらいです。

本堂 きつくないですか?

西村 僕は飛行機が好きなんです。

(第4回につづく)

2017年6月15日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第2回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第2回は、何と西村氏が現在、ラトビアの住民権を持っているという意外な展開になる。

◇第1回記事
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000510/

■―――――――――――――――――――― 【写真】ラトビア政府観光局公式サイトより

(http://ww3.latvia.travel/ja)

■――――――――――――――――――――

花田庚彦氏(以下、花田) それで、いくらで2ちゃんねるを売ったの?(笑)

西村博之氏(以下、西村) 売ってはいないんです。シンガポールに作った会社に譲渡したという形にしただけです。

花田 となると、今の収入源は?

西村 データを使う権利をホットリンクという会社に契約していて、そこから収入を得ています。

花田 結構な額なの?

西村 まあ、結構というほどでもないですけど、そこそこです。

花田 アクセスが、かなりの数だろうからね。

西村 でも、2ちゃんねるは乗っ取られているので、どれぐらいのアクセスなのか、僕は分からないんですけどね。

※編集部註  2014年4月1日、西村氏は『昨今の2ちゃんねるの現状に関して。』との文書を発表し、2ちゃんねるが「乗っ取り」の被害に遭ったことを明かした。

 その後、15年9月に西村氏が、2ちゃんねるの管理人、ジム・ワトキンス氏に対して訴訟を起こすことを表明するも、16年8月にWIPO(世界知的所有権機関)に対する西村氏の申し立ては却下されたとの報道が行われた。

西村 WIPOの審理は、まだ続いています。商標などの問題です。そもそもWIPOとは例えば、トヨタが「toyota」というドメインだったとして、「toyota.mx」がメキシコで取られましたというときに簡易的な判断をする機関です。

 こちらの申し立てに対し、WIPOは「もともと関係があった相手が『乗っ取り』を行ったという主張で、事実関係も複雑なので、訴訟を起こして裁判所で争うべき」という結論に至ったんです。

本堂まさや氏(以下、本堂) 色々ありましたよね。ところで、昔はサンダルを愛用していたのに、今はクロックスに変わっています。出世しましたね(笑)

西村 はい、おしゃれになりました(笑) 先日、ラトビアに行ったんですが、その時にサンダルが必要になって、購入したんです。僕は今、ラトビアの住民権を持っているんです。

花田 そうなの!? 国籍は日本だよね? 

西村 国籍は日本です。ラトビアで発行してもらっているのは、住民許可証になります。ですから労働もできるんです。

花田 労働する気、ないでしょ?(笑)

西村 ラトビアはEU加盟国なので、住民権を持っていると、EU域内なら、どこにいてもいいんです。だから非常に便利ですね。

花田 難民みたいだね(笑)

西村 難民は住民許可証を持っていませんよ(笑)

編集部(以下、編) いつ頃、取得されたんですか?

西村 4年前ぐらいです。

編 きっかけは何かあったんですか?

西村 ネットで探して、面白そうだと思ったんです。

 例えばスペインにも同じようなシステムがあるんですが、基本的には滞在のための許可証ですから、半年など一定期間いなければならない、というルールがあります。ところがキプロスとラトビアは滞在しなくてもいいという珍しいものなんです。

 両国とも取得の条件は定期預金の口座作成なんですが、キプロスは銀行封鎖の危険性があったので、怖いと思ってラトビアにしました。

編 いくらぐらいを定期預金にしなければならないんですか?

西村 僕がやった時は20万ユーロでした。

本堂 20万ユーロは結構高いですよね。

花田 1ユーロって、円でいくらだっけ?

本堂 今なら110円から120円ぐらいですから、2000万円は越えますね。

西村 でも僕が定期預金を作った時の利息は4%でしたからね。

編 4%ですか!?

本堂 凄いですね。不動産投資よりリターンが大きい。

西村 ですから、とりあえず預けましたが、それだけで何か物凄く得をしているという、謎な状態になっています。

花田 遊んで暮らせる(笑)

西村 いいえ、ただの庶民ですよ(笑)

編 EUを自由に移動できて、なおかつ働くことも可能なんですね。

西村 働けるのはラトビアだけです。とはいえ、ラトビア住民として働くので、仮に他国で仕事をしたとしても、そんなに問題は発生しない、というのがEUの仕組みなんですね。

(第3回につづく)

2017年6月8日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第1回

 日本における「インターネット元年」は1995年との定義がある。だとすれば、わが国のネットは21歳。既に成人しているわけだ。

 当時は18歳だった関係者も、今は38歳と「不惑」が目前。いや、世界レベルの「ネット元年」は82年だともいう。するとネット自体が30歳を過ぎている。立派な中年ではないか。

 かつて、インターネットどころか、パソコン通信が「ニューメディア」と呼ばれた時代があった。それが今、ネットに「ニュー」の要素は乏しい。電気や水道、ガスと同じように「公共インフラ」と見なされている。

 存在して当り前というわけだが、それは同時にネットの「オールドメディア化」が進んでいることも意味するだろう。

 意外にもネットは高齢化している。ならば改めて、この20年を振り返ってみると、何が見えてくるのだろうか。

 それも、ありきたりの関係者ではなく、どちらかと言えば、少し〝ブラック〟な才人たちに回顧してもらえば、現状の理解、未来の予測が深まるに違いない──。

 こんな企画趣旨で、我々は『不惑のインターネット』の連載を開始してみる。第1回のゲストは、2ちゃんねるの開設者、西村博之氏だ。

 西村氏にインタビューを行って頂いたのが、暴力団や薬物などの取材で知られる、フリーライターの花田庚彦(歳彦)氏と、老舗サイト『激裏情報』の代表・本堂まさや氏だ。

 このお三方、実は昔に座談会に出席されたという縁もあり、久し振りの再会となった。では、前置きはこの程度にして、さっそく鼎談を開始しよう。

■―――――――――――――――――――― 【写真】対談中の西村博之氏

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花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの創設は何年だっけ?

西村博之氏(以下、西村) 1999年です。でも、そう答えているのを覚えているだけで、いつから始めたかというのは、実感のレベルでは全く記憶に残っていないですね。

花田 以前、ムック『ザ・ブラックマーケット (2)』(ワニマガジン社)で、座談会のようなものを開いたじゃない。新宿のロフトプラスワンで激裏とか色んなトークライブもやったけど、ムックの座談会では『2ちゃんねるは要するにアングラサイトの入口だ』という指摘が出て、ひろゆきは思い切り否定したよね。あの気持ちは、いまだに変わってない?

西村 変わっていないのではないでしょうか、もう、その時に何を言ったのか覚えていないですけれど(笑)

花田 とりあえず、編集部から聞きたいことを進めてもらえますか。

編集部(以下、編)いきなりで申し訳ないんですが、今でも覚えている、最も幼かった時の記憶は、何になられますか?

西村 多分、3歳ぐらいの時の記憶だと思います。玄関のドアを開けたところに棚があって、そこに洗面器などが置かれていたような気がするんですが、それが本当にそうなのかも覚えていませんね。

編 今されている仕事の原点を辿っていくと、何歳ぐらいの頃に行き着きますか? 例えばインタビュー集『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)で西村さんは、

<小学生のときに、MSXでBASICプログラミングをやったりしてたんですけど、そのあと古いPC−98をゲームソフトといっしょにもらって、ちょっとやって>

と答えておられますが、この時期にまで遡られるのでしょうか?

西村 基本的に行き当りばったりですから、「これをやったから、これを生かそう」という考えで生きてきた実感は持っていません。

 また、「自分が持っているスキルはこうだから、これをしよう」という思考も、今のところはあまり持っていませんね。

編 この『就職しない生き方〜』のインタビューを拝読して……

西村 何を喋ったのか、覚えていないんですけれども(笑)

花田 そのスタイル、本当に変わってないなあ(笑)

西村 変わる必要がなかったせいだと思います。例えば戦争に直面すれば、考え方は変わるはずですが、特にそういうこともなく、だらだらと楽しく生きてしまいましたから。よくないと思うこともあるんですが……。

花田 メディア側からすると、ひろゆきは色んな意味で映えるだよね。だから大手でも取り上げやすいわけだけど、例えば堀江貴文さんと一緒にテレビに出たりしたじゃない。ああいうのは自分が求めていたことなの?

西村 求めていたということはないですね。単に頼まれたから出演しているだけです。

花田 求めているのは視聴者と制作会社ということ?

西村 いえいえ、視聴者は関係ありません。制作会社などの発注側です。

編 すいません、先の『就職しない生き方〜』を、また引用させて頂きたいんですが、

<高校から大学までぱったりパソコンにさわらなくなって、遊んでばかりいました(略)同じ学校の友だちの中に、親が帰ってこない家があった。鍵をかけてなくて、そこに行くといつも友だちがいたんですね。そこでいつも集まって……ゲームしてました(笑)>

という箇所がありますけど、当時のゲーム機はスーパーファミコンですか?

西村 スーファミです。『ファイナルファンタジーⅥ』をやったりしていましたね。

編 いまだに強烈な印象に残っているゲームソフト、というものはありますか?

西村 いいえ、全然記憶にないです。

花田 ひろゆきは、そこは適当だよね(笑)

西村 僕は基本的に記憶力が悪いんです。言われて出てくるものはあるんですけど、引出しの中から探すということができない。

編 大学時代については、

<HTMLを覚えてホームページが作れるようになったんで、バイトがわりに仲間とホームページ制作の会社をやってみようと。注文が来たらやろうか、と言っていたら、ほんとに注文が来た>

ということですが、この時に設立されたのが、合資会社東京アクセスですね?

西村 そうです。東京アクセスはまだ、一応は存続していますね。

(第2回につづく)