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前回までのあらすじと登場人物

慶応三年の年末は薩摩藩の倒幕に向けた動きが加速し、京だけでなく、江戸も混乱がひどくなっていました。

セイ(神谷清三郎)は労咳で倒れた沖田総司と、狙撃され、重傷を負った近藤勇を連れて大阪城に逃れていました。
鳥羽伏見に集結し、対峙していた西軍(薩摩・長州)vs東軍(旧幕府軍)は一触即発の状態で、じりじりとその避けられない『開戦』の下知を待っている、という状態だったのです。
そのなかで土方ら、古参の新撰組隊士と会津藩の武士たちは虎視眈々と作戦を練っていました。

年が明けて、慶応4年の正月三日、まるで事故のように旧幕府軍の大砲が暴発したことから、悲惨な戦が始まったのです。

そんな戦のさなかに、幼いともいえる少年らの姿がありました。
新撰組の井上源三郎の甥っ子、泰介とその朋友・銀之助でした。
泰介は日野の村で新撰組の活躍を聞いて育ち、憧れて加わりたいと願い、はるばる京までやってきたのですが、そのとたんにこの戦端が開かれてしまったのです。

刀を振るって戦ったこともなかった彼らの目の前で始まってしまった戦は、想像を絶するものでした。

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39巻のネタバレ

太平の世であったはずの『江戸時代』が終焉に向かっています
徳川幕府は瓦解し、その最後のよりどころのはずの幕府軍、そして新撰組が滅亡するきっかけになった『鳥羽伏見の戦い』が始まったのです。

衰弱して戦えない沖田総司と、狙撃されて重傷を負っていた近藤勇らを連れて、セイは住み慣れた京を離れ、一路大阪城へと向かっていました。
戦になることは避けられない、そんな状況が刻々と報告されていく中で、身動きもできない自分を悔いる沖田でしたが、セイは彼の体を気遣い、治療に専念させるように諭すのでした。

慶応4年正月、一触即発の伏見で、とうとう戦端が開かれます。
少年隊士・井上泰介はその戦の様子を間近に見ていました。
無邪気に『自分にも何かできる』と思っていたのでしょう。
叔父の井上源三郎や土方らに殴られてこっぴどく叱られてもなお懲りることなく、一人前の武士のつもりになって、言いつけられた仕事を放り出して斥候(偵察)気取りで木に登っていたのです。
しかし、その考えなしの行いで大きな悲劇が起こります。
足手まといになった彼らのために、井上が被弾し、戦死。
泰助は、その時に初めて自分がしでかしたことの重さを知るのでした。

官軍に負われて敗走する中で、その遺体を連れ帰ることを許されず、せめて首級だけは、と泰助は懇願するのですが、それすらもあまりの重さに断念せざるを得ないというつらい経験をしたのです。

そんな泰介と、付き従っていた銀之助を、大阪で迎えた沖田らは『つらかったろう』とねぎらい、その小さな背中を抱きしめました。
沖田は優しく微笑み、まるでそれが、今時分にできる唯一の仕事であるかのように、それまでの衰弱ぶりを押し殺して彼らの前に立っていたのです。

ぞくぞくと淀川から引き揚げてくる幕府軍とその負傷者らの世話で、セイたちは悲しむ暇もなく働き続けていました。
井上の首を切り、泰助に渡してくれた山崎も同様に、医術の心得がある者たちは哀しみや悔しさを振り払うように不眠不休で働いていたのです。




大阪城内に集結した幕府軍は、彦根の井伊をはじめとして譜代の大名らにも見捨てられ、徳川慶喜が途方に暮れるありさまでした。
既に、自分一人で何かを言ったところで、やったところで、情勢が覆るわけではないことがよくわかっていたのです。

徳川将軍は別名『大樹公(たいじゅこう)』と呼ばれる存在でしたが、すでにその樹に力も勢いもなく、今、彼を支えていたのは会津藩主松平容保と新撰組くらいなものだったのです。

慶喜は出陣することを宣言し、崩れかけた幕府軍の士気は盛り返しました。
そんな騒ぎの片隅で、まるで子供のようにそれを喜ぶ近藤と土方の姿を見て苦笑する男がいました
彼は榎本武揚。
旗本の家に生まれ、ヨーロッパで学問を納めていた彼は、この時幕府の海軍奉行と軍艦開陽丸の艦長を兼任していた人物です。
彼はこののち、土方ら北上する旧幕府軍・新撰組の面々を乗せた開陽丸で箱館戦争までを戦い抜き、明治までを生き延びるのです。

その開陽丸に異変が起きたのは、その深夜のことでした。
数名の侍が乗船、大阪城に艦長の榎本を残したままで抜錨、出港してしまったのです。

徳川慶喜と会津藩主松平容保らが、大阪城に多くの武士らを残したまま『戦争は回避、以後官軍に恭順仕るべし』とだけ言い残して、江戸に向かってしまったという、それはまた次の大きな悲劇への幕開けだったのです。

総大将に捨て置かれたことに呆然とするばかりの新撰組の面々、そして虚脱状態に陥る幕府軍の兵士らでしたが、そこに留まって、追ってくる官軍の餌食になるよりは、と他の艦で江戸にもどることを決断、それは慶喜の逃亡から、三日目のことでした。

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感想

労咳で戦線離脱した沖田の世話を任されて大阪まで移動していたセイの、短いけれど穏やかな日々は、鳥羽伏見の戦いが開戦したことで俄かに激変し、それはかつて何度も潜り抜けてきた激戦をはるかに凌駕するレベルの被害を出していたことにみなが愕然としていました。

ことに、それまでどんなことがあっても生きて帰ってきて当たり前だと思われていた仲間たちの一人、古参の井上源三郎が戦死したという事実は、多くの者を打ちのめしたのです。
彼の甥っ子で、とても可愛がられて育っていた泰助は、自らの短慮のせいで、目の前で叔父が亡くなった事実に呆然としていました。

井上はかつて、生まれたばかりの泰助を周囲に見せた時に、『天下“泰”平の“助け”となる男子に育って欲しい』と言うほど、彼のことを慈しんでいました。

井上の死は史実であり、そして彼が多くの隊士らに慕われていたこともあって、その描き方はとても丁寧で、しかし淡々と描かれているところに戦の無情を表しているように思えるのです。

物語の当初から新撰組の観察方という裏の仕事を引き受けてきた山崎は、その井上の首を切って泰助に手渡します。
『一番乗りなんてカッコ良すぎでっせ』と呟いた彼の胸の内もいかばかりだったことか。
しかし、その首の重さは、幼い泰助の腕には重すぎて、持ち帰ることを断念せざるを得なかったのです。
それを見守ってきた山崎自身にも異変が起こりました。
彼は、同じく鳥羽伏見の戦で重傷を負い、それを隠していたために取り返しのつかないことになってしまうのです。

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