【無料記事】傑作売春ノンフィクション対談「赤vs青」八木澤高明×清泉亮【前編】

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 偶然と言えば身も蓋もないが、2015年に売春をテーマとした2つの傑作ノンフィクションが上梓された。
 刊行順で紹介すれば、3月に『吉原まんだら 色街の女帝が駆け抜けた戦後』(清泉亮・徳間書店)が、10月に『青線 売春の記憶を刻む旅』(八木澤高明・スコラマガジン)が相次いで発売されたのだ。
 著者や版元の意向を超えて、この2作は見事な対称形を描く。吉原の場合、かつては赤線と呼ばれていた。その意味は、

(警察などで地図に赤線を引いて示したことから)売春が公認されている地域。売春防止法で廃止された。「―地帯」(広辞苑)

 と定義されている。一方の青線は、

(青線地帯の略。警察などで地図に青い線を引いて示したことから)表向きは飲食業を営みつつ、許可なく売春行為も行なっていた地域(同)

 という具合だ。
 同じように女性が身体を売っていても、一方がお上の〝公認〟であれば「赤」となり、〝非公認〟なら「青」となる。だが、両作品の差異は、売買春の形態が違うことだけに根ざすわけではない。
 Amazonで『吉原まんだら』の内容紹介を見てみよう。

<メディアに一切出たことのない「吉原の女帝」が初めて語った、色街から見たこの国の戦後70年>

 正確には女帝だけでなく、角海老の〝帝王〟も登場するのだが、とにもかくにも吉原の戦後史が、2人の強烈な登場人物を軸にして展開されていく。
 対して『青線』は、以下のような具合だ。

<かつて各地に存在し、非合法の売春が行われていた場所・青線。“性”の残り香を求め、10年かけて現場を歩いた著者が、日本の裏面史を描き出す>

 こちらは1章で最低1か所の青線地帯が取り上げられている。やはり印象としては、まず土地が主役だという印象が強い。
 もちろん多彩で印象深い女や男が登場するのだが、やはり青線の来歴や、現在の様子が豊かなイメージを喚起させる。

 やはり、これほど好対照となった傑作ノンフィクションが、同じ年に相次いで出版されたのは奇跡と形容しても大げさではないはずだ。
 編集部は両作の著者である清泉亮氏と、八木澤高明氏に対談を依頼。快諾を頂き、ここに記事化することになった。
 正真正銘の「赤青対談」というわけだが、2人はいずれも手練れのノンフィクションライターだ。問答無用に興味深い話題が飛び交い、実りある議論は永遠に続きそうな勢いを感じさせた。
 前編となる今回は、両作品が誕生した経緯や、赤線と青線の歴史と推移、現在の実情などを語ってもらった。

————最初に、八木澤さんの『青線』について、清泉さんの読後感を教えてください。

清泉亮氏(以下、清泉) 八木澤さんのご著作については、もともと『ネパールに生きる 揺れる王国の人々』(新泉社)などを拝読していたんです。そして今回の『青線』の読後感は安堵という言葉が浮かびました。

————安堵、ですか?

清泉 ノンフィクションといえば、例えば石井光太氏は高く評価され、人気作家と位置づけられています。しかしながら2012年、第34回の「講談社ノンフィクション賞」の選考では、一部の委員から石井氏の『遺体─震災、津波の果てに』(新潮社)が、「ノンフィクションとして違和感」「ほとんど小説」などの批判が行われました。石井氏も一部の自作を「文芸的ノンフィクション」と形容しておられますから、これ以上の言及は避けたいと思いますけれども、八木澤さんの『青線』が完全なノンフィクションであることは論を俟ちません。文中で紹介される取材協力者の言葉はリアルそのものです。生の肉声を文脈で活かしきっています。僕は拝読しながら「これこそ本物のルポルタージュだ。よかった。こんな秀れた作品が現在でも出版されるんだ」との感想を持ち、出版の現状に「ほっとした」という意味で、安堵という言葉を選ばせてもらいました。

————リアルという話なら、例えば『青線』の『渡鹿野島・京都』の章で、八木澤さんは4万円を支払って、島内にあるタイ人娼婦の自宅に泊まります。その女性と雑談のような、取材のような曖昧な会話を交わしながら、手作りのタイ料理を食べ、シャワーを浴び、布団で横になります。ところが八木澤さんは、どうしても性欲が湧かない。そこでセックスの必要はないと告げると、「彼女はすぐにささやかな寝息を立てながら心地良さげに寝てしまった」との記述が続きます。

清泉 あの場面はもう、ノンフィクションとか文芸とかを超えた、完全な「文学」だと思いました。

八木澤高明(以下、八木澤) あんまりほめられると気持ち悪くなっちゃいますね(笑)

清泉 編集者の力量も大したものです。こういうノンフィクションこそ主流になってほしいと思うのですが……。

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【写真】対談中の八木澤氏と清泉氏
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