【無料記事】「全柔連会長」定岡正二氏の「爆弾コラム」は「講道館廃止」 | イエロージャーナル

 2016年12月、日本経済新聞・夕刊の1面コラムに、新日鉄住金と、全日本柔道連盟の会長を務める宗岡正二氏が「日本柔道の課題」と題する提言を書いた。掲載から数か月が経過しているが、「あの中身は爆弾級だ」と、じわじわ波紋を広げているという。

 宗岡氏は、ロンドン五輪の翌年に噴出した暴力問題や不正経理などの不祥事を受け、日本柔道界の再建のために全柔連会長に就任。以来、組織改革を急ぎ、リオ五輪でも一定の成果をおさめた。

 このことに宗岡氏は自信を深めたのだろう。件のコラムで柔道界の「最後の課題」として掲げたのが、全柔連と講道館の関係だった。

■―――――――――――――――――――― 【写真】講道館公式サイトより

(http://kodokanjudoinstitute.org/)

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<最後の課題は、日本の柔道界に併存する、柔道競技全般を担う全柔連と段位認定権を持つ講道館という二つの公益財団法人のあり方の追求であろう。剣道では全日本剣道連盟が段位認定も担う等、日本の他の競技ではこのような形での二つの組織は併存しないし、諸外国の柔道団体もしかりである。組織運営上さまざまな問題が生じるからであろう>

 講道館の持つ「段位認定権」に疑問を投げかけた上で、更に「日本の柔道界に詳しい外国の友人」に、こう語らせた。

<「日本の柔道界に業務が重複するような二つの団体が存在するのは問題ではないか。講道館を柔道のレガシー(遺産)として全柔連の付属機関とし、早稲田大学大隈記念講堂のように『全柔連嘉納記念講道館』とすれば多くの問題が解消されるのではないか」>

 新聞記事だけあって、文体は品のいい優等生スタイルだ。なおかつ外国人に語らせたため、婉曲の効果も生まれている。

 とはいえ、確かに内容は強烈だ。要するに講道館が「家元」として〝既得権益〟を独占していることを批判し、解体を提案しているのだ。

 講道館が発行する段位については、1981年にも国際柔道連盟(IJF)が独自の段位を発行するとして、講道館と全面対決したことがある。同時に、全日本学生柔道連盟も正力杯主催の読売新聞を後ろ盾に講道館と衝突、全柔連からの脱退を表明した。

 当時、IJF会長とともに学柔連会長を務めていたのは、東海大総長の松前重義氏(故人)であった。さまざまな仲介を経て、対立は「講道館=全柔連」側の勝利に終わったものの、無傷というわけにはいかなかった。IJF内において、特に全柔連の立場は弱体化の一途をたどっている。

 宗岡氏のコラムは、そうした対立の再燃を予感させるものだ。しかも、その根が深い。

 宗岡氏は東京大学柔道部の出身。講道館柔道とはルールも違う「高専=七帝柔道」で鍛えられた。寝技、絞め技を中心とする高専柔道は、精神的にも講道館と一線を画しているのだ。

 松前氏も、読売の正力松太郎氏も高専柔道の出身である。現在の全柔連専務理事の元警察官僚、近石康宏氏(67)も東大柔道部で宗岡氏の後輩だ。一方、副会長の山下泰裕氏(59)は松前氏の東海大組である。

 極論を承知で言えば、気がつけば全柔連幹部は「講道館色」を失いつつあり、「高専柔道色」が濃くなっているのだ。当然ながら講道館側の危機感は強い。

 図式としては、講道館にとって段位認定権こそが、最後の牙城であることは間違いない。もし宗岡コラムの提案が実現し、認定権を失ってしまえば、講道館は経済的にも無力化していくことは間違いない。

(無料記事・了)