社会 | イエロージャーナル

 交流会詐欺という悪徳詳報、いや、犯罪行為をご存じだろうか。

 異業種交流会ならば、知っている方も多いだろう。自分が働く「業界」で、自社・他社での出逢いが重要なのは言うまでもない。しかしながら、どうしても似た〝世界〟を背負っているのも事実だ。

「井の中の蛙」の喩えを使うなら、「井戸の中における出逢い」だけでなく、「井戸の外」で働く人々と知り合いになりたい。

 少なくとも刺激になるのは間違いない。場合によってはルーティーンと化した仕事に新たな発見が生まれる可能性があるし、何より人脈が広がれば最高だろう──。そのような動機から、交流会に参加する人は跡を絶たない。

 だが、見知らぬ人同士が出逢う場所は、詐欺師にとっても絶交の場所だ。真面目な異業種交流会に詐欺師が紛れている場合もあるが、詐欺グループが交流会を開いているケースもある。

 手口も多種多彩だ。例えば異業種交流会を利用するケースなら、参加して美人局を狙うグループもあれば、悪質なマルチ商法に勧誘する連中もいる。

 この連載で取り上げるのは、交流会そのものが詐欺グループによって運営されているケースだ。具体的には主に渋谷で活動する「シナジーブックス」という異業種交流会は、詐欺の疑いが濃厚なのだ。

 検索エンジンに「シナジーブックス」と入力すれば、「詐欺」の被害を訴えるサイトが多数表示されることが、深刻な被害を物語っている。

 弊誌は被害者男性の接触に成功し、詐欺がどのようにして行われるのか、その詳細な内容をインタビューすることができた。全てをノーカットでお届けしよう。

■―――――――――――――――――――― 【写真】シナジーブックス公式サイトより (http://synergybooks.tokyo/)

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──「シナジーブックス」と接点ができたのは、どんなきっかけだったのですか?

被害者男性(以下、被害者) 私は大学を卒業してから、外食産業を中心に勤務してきました。そして数年前から独立を模索するようになったんです。

 既に独立を果たした知人もいます。そこで、最初は知人に相談したんです。「何から始めたらいいんだろう」とアドバイスを求めると、「まずは人脈を広げるべきだろう。異業種交流会が盛んなようだから、参加してみたら?」と提案してくれたんです。

 インターネットで探してみると、交流会の情報サイトを見つけました。チェックして、「ここに行ってみよう」という会を選んだんです。「カフェでこじんまりやっています」といった触れ込みでした。

 2014年の冬でしたか、カフェに行ってみると、他のメンバーの方々は参加できなくなったとかで、カフェ会の運営をしている方と、2人きりで話をさせてもらいました。

 私が独立の話をすると、その運営をしている方が「それなら会わせたい人がいる」と紹介してくれたのがMという男でした。このMがシナジーブックスのメンバーだったんです。

 翌15年に、秋葉原のカフェでMと会いました。

 Mはアパレル関係の会社を経営しているといい、年齢は30代半ばぐらいでしょうか。営業マンやフリーランスといった人脈を必要とする人に、人を紹介するのが「ライフワーク」と言っていました。

 その言葉に嘘はなかったんです。最終的には20〜30人を紹介してもらいました。

 会社の名前に頼らず、自分の力で頑張っている方々とお話をさせてもらうと、やっぱり勇気が出ます。独立に至る具体的な道筋も教えてもらいましたし、私の事業計画にアドバイスを頂くなど、非常に有益な体験がたくさんできたことは事実でした。

 次第に私も「サラリーマンを辞めて独立しても、何とかなるのではないだろうか」と考えることが増えていきました。

 当時の勤務先が、非常に閉塞感の強い職場だったことも大きかったでしょう。給与も満足できる額ではなく、何よりも将来の展望が全く描けませんでした。生きているのか死んでいるのか分からないというのが正直なところだったんです。

 ですので、「これなら失敗してもいいから、独立にチャレンジしてみよう。そうすれば、死んでいる自分の時間も、再び生き返るだろう」と気持ちを固めたんです。 

 そうすると、Mが「あなたのように頑張っている人を応援する団体というか、サークルのようなものがあるんです。そこでも相談してみてはどうですか」とシナジーブックスについて切り出してきました。

 Mは「自分は創設初期からシナジーブックスに関わっているけれど、正規メンバーではない時期もあった。今は正規メンバーだけれども」と言い、シナジーブックスはメンバーが多く、社会的に成功している人も少なくない。

 ただ、誰でも入会できるわけでもない。面接があり、それに合格する必要がある、とのことでした。そしてMは「まずは面接だけでも受けてみたらどうですか?」と誘ってきました。

──シナジーブックスに何を期待しましたか?

被害者 団体としての規模が大きく、パーティーも開催しているという話だったんです。ならば参加することで、最終的にはパーティーに自分のサービスを提供できることになったらいいな、と考えました。

──「うちに来れば儲かるよ」といったような露骨な誘導はなかったんですか?

被害者 この時点で、それはなかったです。「何かの助けになるかもしれません」という以上のことは言わなかったですね。お金についての具体的な話は、面接を受けてからですね。

──とはいえ、いきなり「面接」という単語が出てきたわけですよね。違和感はなかったですか?

被害者 ありましたし、実際に「面接ですか?」と訊きました。

──Mは何と答えたんですか?

被害者 単なるサークルだけど、あまり変な人は入れたくない。ある程度、人を見るためにやっているので、という説明でした。

──「あなたはちゃんとした人ですけれど、そうではない人もいるので、面接をしているんです」という理屈ですね?

被害者 その通りです。

──実際の面接は、どうでしたか?

被害者 シナジーブックスは伊藤大智氏が代表ということになっていますが、いきなり、その伊藤代表が出てきました。

──オフィスみたいなところがあるんですか?

被害者 私の知る限りでは、オフィスのようなものは持っていないようです。渋谷の喫茶店に居座っていて、そこをメンバーが出入りしているんです。

──喫茶店で面接になったんですね?

被害者 はい。

──伊藤代表を含めて、何人ぐらいいましたか?

被害者 10人ぐらいいたと思います。店の一角を占めているんですが、特に迷惑をかけているという印象はなかったですね。むしろ常に飲み食いしていますから、店側からすれば非常にありがたい常連客だということになると思います。

──伊藤代表の面接というのは、どんな内容でしたか?

被害者 シナジーブックスについての説明と、私に対する「何をやっている人なんですか、将来は何を目指しているんですか?」という質問ですね。

 その上で、「シナジーブックスは様々な形でメンバーを応援しています」「メンバーではビジネスで成功している人がいます」「フリーランスの人もたくさんいます」という話が続きました。

 他にも「イベントを定期的にやるので、ビジネスマッチングのように、メンバー同士がつながって発展していきます」「研修制度もあり、勉強会が開かれています」という話もありました。

──伊藤代表は、シナジーブックスを、どう説明したんですか?

被害者 基本的にはMの説明と同じでした。シナジーブックスは「これから何かを頑張りたい人を応援する団体」で、「入会金が発生するけれど、後払いでもいいし、最終的には払わなくてもいい。お互いの信頼感や相手を応援したいという気持ちだけで成り立っている団体だから、後々成功した時に払えるようになってくれればいい」などと言っていました。

──入会金は、具体的な額を言いましたか?

被害者 ちょっとうろ覚えなのですが、20万とか50万とか、それぐらいだったと思います。

──書類とか、マニュアルのようなものを見ながら、説明するんですか?

被害者 説明の時には何も見ていませんでした。後で書類のようなものを、タブレットで見せられましたけれど。パンフレットのようなもので、「入会した場合、以下のことは守ってもらいます」ということを言われました。

──守ることとは、具体的にはどういうことが書いてあったんですか?

被害者 常識的なことがずらずらと書いてあった印象です。「人を信じよう」とか「まず自分から他人を助けましょう」とか、そんな内容ですね。

──面接時間は、どれぐらいでしたか?

被害者 2時間ぐらいだったと記憶しています。

──総体としての印象は、いかがでしたか?

被害者 その時の私は、独立するなら、人脈をもっと広げなければならない、顧客を確保しなければならない、資金を回せるようにならなければ、と焦っていました。なので思い切って「とりあえず、参加させてもらいましょう」と言いました。

 シナジーブックス側も「来て下さい」とは言いませんでしたね。「参加を認めますけど、あなたはどうしますか?」というスタンスだったんです。

「あくまでも決めるのは、あなたです」という話に終始しました。ただ、それが「結果的には入るでしょ」ということを遠回しに伝えてきたのかな、とも感じましたけど。

──「ぜひ入って下さい」と言わないのは、相手側のテクニックという感じがします。

被害者 そうだと思います。話は善意のものなんだという印象が強まりました。

──20万とか50万という入会金の話も、逆に正直な印象を与えるのでしょうか?

被害者 金額的に大きいと思いましたけど、「最終的には払わなくてもいい」と言っていましたから、なら参加しようかという感じでした。とにかくシナジーブックス側は一歩引いているというか……。

──ガツガツしていない?

被害者 そうですね。ただ、団体としての力を持っているなとは思わされました。うまくいけば自分のサービスを買ってくれるかもしれないという期待や、人脈を紹介してもらえそうだという希望は大きかったですね。

──伊藤代表の喋り方というのは、どんな感じですか?

被害者 ちょっと引いた感じなんですが、自信を持っているなという印象を与えますね。あと、どちらかと言えば、聞き上手です。

──面接に合格して、「入ってもいいよ」とOKが出ました。とりあえず「入りましょう」ということになったわけですが、そうすると向う側はどんなアクションを起こしてくるんですか?

被害者 その後、「シナジーブックスに関する勉強会をやっています」と紹介されて、2月1日に出席しました。

──場所は、どこでしたか?

被害者 渋谷の椿屋珈琲店ですね。

──勉強会の内容は、どんなものだったんでしょうか?

被害者 『シナジーブックスの2年』というものもありました。こういう背景で、人を応援していくんです、と教わるわけです。創業が佐藤謙一郎氏で、「サトケンと呼ばれている人間がシナジーブックスを最初に作り、それが今はこういう形で広がっています」という話をされました。

 組織内部が色んな部門というか、グループに分かれているという説明で、広報とか、イベント開催とか、そういう仕事を担当するグループがあって、参加者の強みや弱みを勘案しながら、部署を活動させているということで、組織図のようなものも見せられました。

──組織図はiPadで見せられるんですか?

被害者 iPadですね。パワーポイントのようなものが表示されました。

──この勉強会も、伊藤氏が説明したんですか?

被害者 この時は別人です。男2人が講師役で、出席者も全員が男性でした。Mも同席したんです。

──Mも来たんですか? 久し振りの再会になりますね。

被害者 いえ、説明するのを忘れていたんですが、面接の時もMは同席していたんです。

 私に「この人が伊藤さん」とシナジーブックスの人間を紹介する役割でした。シナジー側の人間は3人いて、私を入れて4人で話をするわけです。

 そして勉強会もMと、他に新しい講師役の2人の男、そして私の4人で行われました。

──自分たちはNPOなのか、NGOなのか、株式会社なのか、そんなことは何も説明しないんですね?

被害者 はい。

──団体のメンバー数なんてことは言うんですか?

被害者 一応、「何百人が参加しています」という話はあったと思います。

──広告塔的な有名人の名前とかは出ましたか?

被害者 そういう人名は出てこなかったです。「不動産業で成功している人がいます」という話や、サクセスストーリーというわけではないんだけれど「こういう活動をしている人がいます」という内容でした。

 パルクールという、「忍者スポーツ」とも呼ばれるような運動をご存じですか? 屋根の上を走ったり、ビルから回転しながら落ちて着地したりするんです。そのパルクールに打ち込んでいる人の話が出たりしました。

──実名なんですか?

被害者 一応、「何とかさん」という名前は出ていたはずです。けれど、結局は会っていないので、どこまで本当だったのかは分かりません。

──iPadで成功者の顔写真が出たりということは?

被害者 それはありませんでした。

(第2回につづく)