楽天ブックス | イエロージャーナル

2017年3月2日

【無料記事】楽天「ブックス・EC流通鈍化」で「崩壊前夜」の声も

 楽天ブックスが2016年度の国内インターネット通販売上高で、7位に沈んだとの情報が飛び込んできた。アマゾンやヨドバシカメラには遠く及ばず、上新電機の後塵を拝す結果だという。

 国内のネット通販の売上高はインプレスが集計して発表している。「自らが仕入れた物品をネットで販売した」結果を集計したものだ。

 そのため、例えば楽天市場なら店舗から徴収する出店料でも稼いでいるが、こうした収益システムは集計に入っていない。楽天ブックスの場合は書籍とCD、DVDの販売が主なカウントの対象となる。

 インプレスが16年12月に発表した『インターネット通販TOP200調査報告書2017』では、15年度の売上高調査がまとめられている。それによると、ベスト10は、

1位 アマゾン         9300億円 2位 ヨドバシカメラ      790億円 3位 千趣会          774億円 4位 ディノス・セシール    570億円 5位 デル           550億円 5位 上新電機         550億円 5位 楽天ブックス       550億円 8位 ニッセンホールディングス 516億円 9位 イトーヨーカ堂      500億円

10位 ジャパネットたかた     470億円

となっていた。

 16年度は発表待ちだが、王者アマゾンは1兆円を超えたことは間違いないという。2位のヨドバシカメラも1000億円に達したそうだ。

 以下、3位・千趣会は800億円、4位・ディノス・セシールは約600億円、そして5位に3社が並んでいたのが崩れてしまった。

 5位はデル、6位は上新電機、そして楽天ブックスは「全く伸びなかった」(関係者)ことから7位に転落してしまったという。

■―――――――――――――――――――― 【写真】楽天市場公式サイトより

(http://www.rakuten.co.jp/)

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 また楽天ブックスよりランク下となっている企業でも、集計の考え方を変えると、順位が変わるものがある。

 8位のニッセンホールディングス、9位のイトーヨーカ堂、そして20位のセブン-イレブン・ジャパンは、いずれもセブン&アイ・ホールディングスのグループ企業だ。3社を合計すると15年度でも約1300億円に積み上がる。

 そして16年度は1500億円に迫る勢いだとの情報があり、これが事実だとすれば、実質的にはアマゾンに次ぐ2位。楽天ブックスの3倍に達する。

 ユニクロの通販も年率25%超の高い伸びを見せ、16年は400億円を超えたと推測されている。まったく伸びなかった楽天ブックスの550億円──これも同じように推定額ではあるのだが──を抜くのも時間の問題かもしれない。あと1~2年後には10位に転落する可能性も決して低くないのだ。

 ちなみに調査報告書の『2014』では、楽天ブックスは450億円で9位だった。それを『2017』で5位にしたのだから、つい最近まで売上を伸ばしていたのは事実だろう。

 だが、他社がいまだに右肩上がりの成長を示す中、楽天ブックスだけが鈍化傾向にあり、取り残されているのは間違いない。

 では楽天ブックスが「凋落傾向」だとして、それは本体たる楽天市場にどれだけ影響を与えるのだろうか。

イメージとは異なり「楽天市場」の厳しい台所事情

 本題に入る前に、これまで他社が行った報道を見てみよう。例えば『東洋経済オンライン』は16年2月『成長続いた楽天、海外事業で減損の「誤算」』との記事を掲載した。
(http://toyokeizai.net/articles/amp/105383?display=b)

 その記事では、

・減損損失は全部で381億円に上り、営業利益を大きく押し下げた。
・10年に買収した仏ECサイト運営の「プライス・ミニスター」と、11年に傘下に収めたカナダの電子書籍企業「コボ」の2社が大きく、減損額の6割超を占めた。

などとマイナス要因を指摘したが、

・国内EC(電子商取引)事業や金融事業は、ともに成長を続けている

とも指摘。事業における国内>海外のアンバランスの是正を訴えるにとどめた。

 その1か月前には、経済系ニュースサイト『ビジネスジャーナル』が、『楽天の危機…停滞鮮明で成長「演出」に必死、ヤフーの猛攻でトップ陥落』との記事を掲載した。
(http://biz-journal.jp/2016/01/post_13136.html)

 こちらは、楽天に厳しい内容が多い。中でも興味深いのは、

・証券関係者が首を傾げたのは、国内のEC総額にそれまで含まれていなかった宿泊予約サイト、楽天トラベルが追加されたことだ。市場では「国内のEC総額が伸びていると見せるため」と受け取られた

との部分だ。

 では、この2つの記事を踏まえて、楽天本体の状態を読み解いてみよう。原点に戻れば、楽天ブックスの成長鈍化は、本体にどれだけ影響を与えているのかという問題だ。

 楽天ブックスという「一部門」の不調が、全体に影響を与えたとしても限定的だとするのが常識だろう。だが、関係者に取材すると異なる答えが返ってくる。「全体の流通総額もやばいのです」と声を潜めるのだ。

 例えば楽天は2月に16年12月期の決算を発表した。そこには「国内EC流通総額」として「3兆円」という数字が書かれている。

 ただこれは「市場」「トラベル」などに加え、「Edy」「カード」という金融ビジネスも加算した数字だ。では「市場」の真の数字はいくらなのか。

 楽天は15年6月期まで真面目に市場の「EC流通総額」を掲載していた。金額は5341億円だ。ところが15年9月期決算で楽天トラベルと合算した数値を出す。6836億円だった。

 ここから市場の真の数値を弾いてみよう。15年6月期のトラベルは予約を含んで1978億円。9月期は「宿泊のみ」のため20%減の1700億円と推定する。そこから市場は前四半期を下回る5100億円だったと見る。とすると、この時点で実は、楽天の伸びが止まっている懸念が生じてくる。

 その後16年9月期までは市場とトラベルを合算した数値が発表されていたが、16年12月期にカードなど金融事業を加えた数値に変更される。ただ前述の「国内EC流通総額3兆円」は年間累計だ。

 関係者によると「四半期は2兆4000億円程度」。そのうち金融が1兆6000億円を占めると見られる。そこから市場とトラベルの合算は約8000億円という線を導きだしてもいいだろう。

 トラベルは年率15%近く伸びているため約2000億円は超えるに違いない。とすれば市場は5000億円の後半になる。やはり15年6月期からほとんど伸びていないのだ。いや横ばいか減少している可能性もある。

 数字より本質を示すのが人事だ。こういう状況だからこそ、責任者だった高橋理人常務執行役員が16年7月に解任され、三木谷浩史社長自らが責任者となったのだ。

 楽天は一般的なイメージと異なり、それほど開かれた企業ではない。表面的な数字を追えば「楽天全体は好調であり、特にトラベルが利益を牽引している」と分析するのが普通なのだが、少し視点を変えれば、違った姿が見えてくる。

 そのため最も厳しい見方を示す関係者は「凋落傾向という言葉でも物足りない。このまま冴えない状態が続くのなら、崩壊の前夜と表現しても、過言ではない」とステークスホルダーなどに警鐘を鳴らす。

(無料記事・了)