無料記事 | イエロージャーナル

2017年7月28日

【無料記事】交流会詐欺「シナジーブックス」被害者インタビュー②

 詐欺の疑いが濃厚な「シナジーブックス」という異業種交流会の被害者インタビュー。第2回は、被害者が「信用情報」を自分で取得させられるプロセスを詳述する。

■―――――――――――――――――――― 【写真】全国銀行個人情報センター公式サイトより (https://www.zenginkyo.or.jp/pcic/) ■―――――――――――――――――――― (承前)

──勉強会に参加するためには、入会書のようなものは必要だったんですか?

被害者男性(以下、被害者) 必要があったかは分かりませんが、私は書いていません。

──あくまでサークルだから、入会書のようなものはないという感じですか?

被害者 そうだと思います。

──向こうが要求する入会金とは、幾らだったんですか?

被害者 20万円です。

──すぐに払えと、要求されたりするんですか?

被害者 いえ、「今すぐ払わなくても、別にいいですよ」というスタンスでした。

──なるほど。では、勉強会の次は、どうなるんですか?

被害者 その勉強会の中で、「実はライフコンサルというのもやっているんです」という話が出てきたんです。

──ライフコンサル?

被害者 それが投資の話になっていくんです。

──具体的には?

被害者 シナジーブックスとして資金を運用しているというんですね。そこに現金を預ければ、運用益が支払われて、仕事や生活の援助に充てられますよ、という話だったんです。

──相手が初めてカードを切ってきた。これまでは常に人脈の紹介であって、そういう資金援助という話はなかったんですよね?

被害者 私の記憶は、それに近いですね。ライフコンサルという単語は、もっと前から出ていたのかもしれませんが、そこに焦点を合わせた説明はされていません。

──少なくとも記憶には残っていないわけですね。では、ライフコンサルという単語が出てきた時、最初にどんな印象を持たれました?

被害者 お金が定期収入として入ってくるのであれば、すごくありがたいな、というのと、実のところ「でも本当かな?」と疑ってもいました。

──シナジーブックス側は、どの程度、売り込んできましたか? これまでは全くがつがつするところがなく、淡白な関わり方で、それが彼らの信頼性を高めていたようですけれど。

被害者 淡々としていました。「興味がありますか?」「お金を預けてもらっても、預けなくてもいいですけど、どうしますか?」ぐらいの話です。面接の時も「やってもやらなくてもいいですけど、どうしますか」という感じでしたから、トーンは一定しています。パワーポイントで資料を見せられたんですけれど、ライフコンサルも、たくさんある説明の中の1つという感じで、熱心に売り込んでくるようなことはありませんでした。

──向こうは熱心に勧誘しなかったわけですが、どうしました?

被害者 結局、「興味はあります」と答えてしまったんですね。シナジーブックス側は「じゃあ、改めて別の人間にライフコンサルの話を聞いて下さい。進めていけるかどうか確認しましょう」と言うにとどめたんですが、ただ、その時に「信用情報に問題がなければ、銀行から借りたお金でも運用できますから、手持ちの現金が少なくとも大丈夫です」といった説明はされたという記憶があります。

──その「別の人間」が出てきたのは、いつぐらいですか?

被害者 いつだったかなあ……。

──面接が1月、勉強会が2月、となると、3月ぐらいですか?

被害者 まだ相当に寒かった記憶はあります。また、それほど待たされなかったという印象も残っていますね。

──ありがとうございます。では、そのライフコンサルの話が、どのように持ちかけられたか、教えて下さい。

被害者 勉強会の後、ランチ会のようなものが開かれたんです。経営者の人たちといった数人で、渋谷の居酒屋のような場所で、昼食を食べました。

──この時点では、一応は「人を紹介します」ということはしているんですね。

被害者 この段階では、そうでした。

──勘定は割り勘ですか?

被害者 この時点までは、向こうが全額、出してくれていました。

──その昼食会を挟んでから、ライフコンサルの担当者に会ったんですね?

被害者 昼食会で会った女性も、ライフコンサルの担当者に会うということで、では一緒に会いましょうということになったんです。その後、JR新宿駅の改札で待ち合わせをするように言われて、当日に出向くと、1人の男性がいました。ちょっと強面な印象の表情をしていました。

──女性はどうだったんですか?

被害者 後から来るということで、では先に私の方をやってしまいましょうということになりました。

──喫茶店かどこかで、ライフコンサルの説明を受けたのですか?

被害者 いえ、違います。新宿にはCIC(編集部註:割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)の首都圏窓口があるんです。そこに行って手数料を払うと、私が金融機関から借金をしているか、何かのローンを組んでいるか、という情報が開示されるんです。その強面の男性から、そうした説明を受けて、まずはCICに行きました。

──結果はどうだったんですか?

被害者 車のローンと、後は携帯電話の分割支払いが出てきました。

──回答を拒否されても結構ですが、消費者金融からお金を借りたことはありますか?

被害者 一度もありません。

──強面の男は、情報の開示を求めている際、一緒にいるんですか?

被害者 そもそも同席はできないんです。私が手数料を払い、情報を取ってくるのを待っていました。

──信用情報を入手して、どうしました?

被害者 場所の記憶が曖昧なんですが、新宿にあるホテルの喫茶コーナーに行った覚えがあります。そこにライフコンサルの「担当者」が待っていました。最初に改札で会った強面の男性は、この担当者の部下だったようです。

──昼食会で会った女性は、結局は来たんですか?

被害者 後に来ました。

──その女性と、ご自身は、最終的には別々にさせられたんですか?

被害者 はっきりとした記憶はありませんが、僕の話が進んでいる時も、女性は同席していたはずです。

──信用情報の開示とか、最大級の個人情報の話がされているにもかかわらず、ですか?

被害者 その女性は、色々と問題があったみたいなんです。担当者たちが「別のやり方を考えないといけないので、また改めてやりましょう」というようなことを話し合っていました。

──それに対して、こちら側は信用情報に問題がないことが分かった。向う側は、どうしてきましたか?

被害者 私の方は信用情報に問題がないので、「進められますよ」ということになりました。「金額は、どうしますか?」という具体的な話も出てきたと思います。

──女性は、いましたか?

被害者 いたと思います。

──何か引っ掛かりますね。女性は退席してもよさそうですけど……。女性の信用情報は見ていないですよね?

被害者 私は見ていないですね。

──安心感を与えるため、サクラの女性を同席させた気がするんですが……。それはともかくとして、この時点では「ライフコンサルをやります」とは言っていないんですね?

被害者 はい、そうです。

──いつの時点で、ライフコンサルに出資しようと決断したんですか?

被害者 その会合中に、最終的に「やります。お願いします」と言ってしまいました。

──振り返られて、即断即決をされたんですか? それとも向こうの粘りに根負けしてしまったとか、どんな感じだったんですか?

被害者 強引に説得された、ということはありません。私は相当に迷っていて、それを放置してくれていました。最終的に、自分で決めたんです。

──となると、自分で自分の背中を押したんですね。その理由は、今から考えると何だったと思いますか?

被害者 日銭が入ってくる、という期待は大きかったのかもしれません。

──まだ会社員でしたか?

被害者 会社員でした。

──独立のことを考えると、不安だったわけですね。幾らぐらいのリターンを保証されていたんですか?

被害者 月利5%だったと記憶しています。

──資料のようなものを提示されたんですか?

被害者 一切、ありません。私がメモを取りました。

(第3回につづく)

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第8回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第8回は、懐かしい『電車男』の思い出と、アメリカ「ピザゲート」事件と西村氏の〝奇縁〟という話題だ。

◇第7回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000516/

■―――――――――――――――――――― 【写真】新潮社『電車男』特設ページより

(http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/471501/)

■――――――――――――――――――――

本堂まさや氏(以下、本堂) でも、そう考えると、自分の権限を他人に委譲して回していくという方針は、2ちゃんのときからきれいにそうなっていますよね。有志のボランティアなど、割と2ちゃんのポリシーに共感して対価として労働力を提供してくれている人たちというのは結構いたでしょう。

西村博之氏(以下、西村) そうですね。「この会社に入りたい」「やりたいことがあります」という人がいて、僕が「ではやってください」とお願いするのと、基本的には同じ状況でした。

編集部(以下、編) ほれぼれするような書き込みを読むたび、「才能の無駄遣い」という有名な言葉を実感しますが、そういう人たちが集まってくる場を作ったというのは、改めて凄いことだと思うのですが?

西村 今も昔も、優秀で面白い人は世の中に大勢いますよ。それがピックアップされやすくなっただけだと思います。

花田庚彦氏(以下、花田) ところで以前、2ちゃんねるの書き込みを書籍化することがブームになったけど、あの印税はどうなってたの?

西村 例えば『電車男』(新潮文庫)は、本人と僕と、まとめサイトを作った人で3分割です。

花田 本人にもいってるんだ。結構、売れたよね。

西村 売れました。100万部を超えましたから。

本堂 『電車男』いない説とかありましたよね(笑) 懐かしい。

編 当時のインタビューで、「『電車男』で成功されてよかったですね、とよく言われるが、それは違う」と喋っておられます。

西村 そうでしたか、へえ……。

花田 「へえ」じゃないよ(笑)

西村 全然、覚えていません(笑)

編 「『電車男』の前から成功していた」と仰っておられます。

西村 そうなのですか、へえ(笑)。

本堂 映画化もされて、一気にメジャーになったということでしょうかね。

花田 映画になったっけ?

本堂 なりました。

西村 映画とテレビドラマです。

編 『電車男』以降、2ちゃんねるの社会的反響が巨大化し、一部メディアの批判も強まったのは事実だと思います。例えば、あるスレッドが物議を醸し、実際に世間が騒いだとして、その時西村さんは、その騒動をどう見ておられるのですか? 意外に、世間と同じ視点を持っておられるのですか?

西村 「同じ視点」というのが、ちょっと分かりません。

編 例えば2000年、西鉄バスジャック事件が発生しました。当時17歳の犯人は、2ちゃんねるに犯行予告を書き込んでいたなど、様々なことが発覚しましたが、その時に私たちは単純に「わ、大変だ!」と驚いたわけですけど、西村さんも同じように「大変だ!」と思われるのでしょうか?

西村 何をもって大変だとするかだと思うのです。

編 どちらかといえば、大変だとは思わない?

西村 思わないですね。

編 では、どう見えているの説明をお願いするのは、難しいでしょうか?

西村 割と他人事ですね。最近の話ですと、僕は4chanというサイトの管理人をやっているのですけれど、
(http://www.4chan.org/japanese)
4chanのユーザーがショットガンを持ってピザ屋に乱入したのです。

 アメリカ大統領選でヒラリー候補のメールが流出しましたが、それに関連して、あるフェイクニュースがネット上で広まったことがあったんです。内容は「ワシントンDCにあるピザ屋が、子供を誘拐して販売している。それにヒラリーが関与している」ことが流出メールから判明したというんですね。「pizza」が隠語で子供を表しているとか、ものすごい陰謀論なんですよ。

 それが4chanでネタとして盛り上がっていたんですが、本当に真に受ける人がいたんですね。子供を助けようとショットガンを持って向かってしまった。少なくとも店内で1発発砲して警察に投降したんですが、大問題となってFBIなどから捜査の依頼が来るわけです。

 召喚状のようなものが来たら対応するという、いつもの手続きを行うだけなんですが、やっぱり僕にとっては他人事ですね。僕が悪いことをしたわけではないですし。

 ただ、起きた出来事に対して、僕が対応する必要のある作業が発生するわけですが、そのために特等席で事件を見られることがありますね。

 2016年の秋頃だったと思いますが、カルフォルニアの高校で殺人事件があったのです。それの殺人予告が4chanに載っているという話があったんですね。

 結論から言うと、予告を書いた人間は犯人ではありませんでした。僕も書き込みのIPアドレスがフロリダだったので、犯行時間から逆算してみると、フロリダからカルフォルニアに移動するのは不可能だと分かっていました。

 ですがFBIの捜査上、提出した情報について口外してはならないという決まりがあるので、僕は「あの予告は犯人が書いたものではない」と言えなかったんです。ところがアメリカのニュースでは「4chanに予告を書いて殺人を行った犯人がいる」と報道しているわけです。それを僕は特等席で見ていた。そういう感じの面白さは感じます。

本堂 マスコミは踊らされているなと思いますね。

西村 僕が殺人予告をしたわけではないので、別に良心の呵責を感じるわけでもありませんね。

(第9回につづく)

2017年7月21日

【無料記事】交流会詐欺「シナジーブックス」被害者インタビュー①

 交流会詐欺という悪徳詳報、いや、犯罪行為をご存じだろうか。

 異業種交流会ならば、知っている方も多いだろう。自分が働く「業界」で、自社・他社での出逢いが重要なのは言うまでもない。しかしながら、どうしても似た〝世界〟を背負っているのも事実だ。

「井の中の蛙」の喩えを使うなら、「井戸の中における出逢い」だけでなく、「井戸の外」で働く人々と知り合いになりたい。

 少なくとも刺激になるのは間違いない。場合によってはルーティーンと化した仕事に新たな発見が生まれる可能性があるし、何より人脈が広がれば最高だろう──。そのような動機から、交流会に参加する人は跡を絶たない。

 だが、見知らぬ人同士が出逢う場所は、詐欺師にとっても絶交の場所だ。真面目な異業種交流会に詐欺師が紛れている場合もあるが、詐欺グループが交流会を開いているケースもある。

 手口も多種多彩だ。例えば異業種交流会を利用するケースなら、参加して美人局を狙うグループもあれば、悪質なマルチ商法に勧誘する連中もいる。

 この連載で取り上げるのは、交流会そのものが詐欺グループによって運営されているケースだ。具体的には主に渋谷で活動する「シナジーブックス」という異業種交流会は、詐欺の疑いが濃厚なのだ。

 検索エンジンに「シナジーブックス」と入力すれば、「詐欺」の被害を訴えるサイトが多数表示されることが、深刻な被害を物語っている。

 弊誌は被害者男性の接触に成功し、詐欺がどのようにして行われるのか、その詳細な内容をインタビューすることができた。全てをノーカットでお届けしよう。

■―――――――――――――――――――― 【写真】シナジーブックス公式サイトより (http://synergybooks.tokyo/)

■――――――――――――――――――――

──「シナジーブックス」と接点ができたのは、どんなきっかけだったのですか?

被害者男性(以下、被害者) 私は大学を卒業してから、外食産業を中心に勤務してきました。そして数年前から独立を模索するようになったんです。

 既に独立を果たした知人もいます。そこで、最初は知人に相談したんです。「何から始めたらいいんだろう」とアドバイスを求めると、「まずは人脈を広げるべきだろう。異業種交流会が盛んなようだから、参加してみたら?」と提案してくれたんです。

 インターネットで探してみると、交流会の情報サイトを見つけました。チェックして、「ここに行ってみよう」という会を選んだんです。「カフェでこじんまりやっています」といった触れ込みでした。

 2014年の冬でしたか、カフェに行ってみると、他のメンバーの方々は参加できなくなったとかで、カフェ会の運営をしている方と、2人きりで話をさせてもらいました。

 私が独立の話をすると、その運営をしている方が「それなら会わせたい人がいる」と紹介してくれたのがMという男でした。このMがシナジーブックスのメンバーだったんです。

 翌15年に、秋葉原のカフェでMと会いました。

 Mはアパレル関係の会社を経営しているといい、年齢は30代半ばぐらいでしょうか。営業マンやフリーランスといった人脈を必要とする人に、人を紹介するのが「ライフワーク」と言っていました。

 その言葉に嘘はなかったんです。最終的には20〜30人を紹介してもらいました。

 会社の名前に頼らず、自分の力で頑張っている方々とお話をさせてもらうと、やっぱり勇気が出ます。独立に至る具体的な道筋も教えてもらいましたし、私の事業計画にアドバイスを頂くなど、非常に有益な体験がたくさんできたことは事実でした。

 次第に私も「サラリーマンを辞めて独立しても、何とかなるのではないだろうか」と考えることが増えていきました。

 当時の勤務先が、非常に閉塞感の強い職場だったことも大きかったでしょう。給与も満足できる額ではなく、何よりも将来の展望が全く描けませんでした。生きているのか死んでいるのか分からないというのが正直なところだったんです。

 ですので、「これなら失敗してもいいから、独立にチャレンジしてみよう。そうすれば、死んでいる自分の時間も、再び生き返るだろう」と気持ちを固めたんです。 

 そうすると、Mが「あなたのように頑張っている人を応援する団体というか、サークルのようなものがあるんです。そこでも相談してみてはどうですか」とシナジーブックスについて切り出してきました。

 Mは「自分は創設初期からシナジーブックスに関わっているけれど、正規メンバーではない時期もあった。今は正規メンバーだけれども」と言い、シナジーブックスはメンバーが多く、社会的に成功している人も少なくない。

 ただ、誰でも入会できるわけでもない。面接があり、それに合格する必要がある、とのことでした。そしてMは「まずは面接だけでも受けてみたらどうですか?」と誘ってきました。

──シナジーブックスに何を期待しましたか?

被害者 団体としての規模が大きく、パーティーも開催しているという話だったんです。ならば参加することで、最終的にはパーティーに自分のサービスを提供できることになったらいいな、と考えました。

──「うちに来れば儲かるよ」といったような露骨な誘導はなかったんですか?

被害者 この時点で、それはなかったです。「何かの助けになるかもしれません」という以上のことは言わなかったですね。お金についての具体的な話は、面接を受けてからですね。

──とはいえ、いきなり「面接」という単語が出てきたわけですよね。違和感はなかったですか?

被害者 ありましたし、実際に「面接ですか?」と訊きました。

──Mは何と答えたんですか?

被害者 単なるサークルだけど、あまり変な人は入れたくない。ある程度、人を見るためにやっているので、という説明でした。

──「あなたはちゃんとした人ですけれど、そうではない人もいるので、面接をしているんです」という理屈ですね?

被害者 その通りです。

──実際の面接は、どうでしたか?

被害者 シナジーブックスは伊藤大智氏が代表ということになっていますが、いきなり、その伊藤代表が出てきました。

──オフィスみたいなところがあるんですか?

被害者 私の知る限りでは、オフィスのようなものは持っていないようです。渋谷の喫茶店に居座っていて、そこをメンバーが出入りしているんです。

──喫茶店で面接になったんですね?

被害者 はい。

──伊藤代表を含めて、何人ぐらいいましたか?

被害者 10人ぐらいいたと思います。店の一角を占めているんですが、特に迷惑をかけているという印象はなかったですね。むしろ常に飲み食いしていますから、店側からすれば非常にありがたい常連客だということになると思います。

──伊藤代表の面接というのは、どんな内容でしたか?

被害者 シナジーブックスについての説明と、私に対する「何をやっている人なんですか、将来は何を目指しているんですか?」という質問ですね。

 その上で、「シナジーブックスは様々な形でメンバーを応援しています」「メンバーではビジネスで成功している人がいます」「フリーランスの人もたくさんいます」という話が続きました。

 他にも「イベントを定期的にやるので、ビジネスマッチングのように、メンバー同士がつながって発展していきます」「研修制度もあり、勉強会が開かれています」という話もありました。

──伊藤代表は、シナジーブックスを、どう説明したんですか?

被害者 基本的にはMの説明と同じでした。シナジーブックスは「これから何かを頑張りたい人を応援する団体」で、「入会金が発生するけれど、後払いでもいいし、最終的には払わなくてもいい。お互いの信頼感や相手を応援したいという気持ちだけで成り立っている団体だから、後々成功した時に払えるようになってくれればいい」などと言っていました。

──入会金は、具体的な額を言いましたか?

被害者 ちょっとうろ覚えなのですが、20万とか50万とか、それぐらいだったと思います。

──書類とか、マニュアルのようなものを見ながら、説明するんですか?

被害者 説明の時には何も見ていませんでした。後で書類のようなものを、タブレットで見せられましたけれど。パンフレットのようなもので、「入会した場合、以下のことは守ってもらいます」ということを言われました。

──守ることとは、具体的にはどういうことが書いてあったんですか?

被害者 常識的なことがずらずらと書いてあった印象です。「人を信じよう」とか「まず自分から他人を助けましょう」とか、そんな内容ですね。

──面接時間は、どれぐらいでしたか?

被害者 2時間ぐらいだったと記憶しています。

──総体としての印象は、いかがでしたか?

被害者 その時の私は、独立するなら、人脈をもっと広げなければならない、顧客を確保しなければならない、資金を回せるようにならなければ、と焦っていました。なので思い切って「とりあえず、参加させてもらいましょう」と言いました。

 シナジーブックス側も「来て下さい」とは言いませんでしたね。「参加を認めますけど、あなたはどうしますか?」というスタンスだったんです。

「あくまでも決めるのは、あなたです」という話に終始しました。ただ、それが「結果的には入るでしょ」ということを遠回しに伝えてきたのかな、とも感じましたけど。

──「ぜひ入って下さい」と言わないのは、相手側のテクニックという感じがします。

被害者 そうだと思います。話は善意のものなんだという印象が強まりました。

──20万とか50万という入会金の話も、逆に正直な印象を与えるのでしょうか?

被害者 金額的に大きいと思いましたけど、「最終的には払わなくてもいい」と言っていましたから、なら参加しようかという感じでした。とにかくシナジーブックス側は一歩引いているというか……。

──ガツガツしていない?

被害者 そうですね。ただ、団体としての力を持っているなとは思わされました。うまくいけば自分のサービスを買ってくれるかもしれないという期待や、人脈を紹介してもらえそうだという希望は大きかったですね。

──伊藤代表の喋り方というのは、どんな感じですか?

被害者 ちょっと引いた感じなんですが、自信を持っているなという印象を与えますね。あと、どちらかと言えば、聞き上手です。

──面接に合格して、「入ってもいいよ」とOKが出ました。とりあえず「入りましょう」ということになったわけですが、そうすると向う側はどんなアクションを起こしてくるんですか?

被害者 その後、「シナジーブックスに関する勉強会をやっています」と紹介されて、2月1日に出席しました。

──場所は、どこでしたか?

被害者 渋谷の椿屋珈琲店ですね。

──勉強会の内容は、どんなものだったんでしょうか?

被害者 『シナジーブックスの2年』というものもありました。こういう背景で、人を応援していくんです、と教わるわけです。創業が佐藤謙一郎氏で、「サトケンと呼ばれている人間がシナジーブックスを最初に作り、それが今はこういう形で広がっています」という話をされました。

 組織内部が色んな部門というか、グループに分かれているという説明で、広報とか、イベント開催とか、そういう仕事を担当するグループがあって、参加者の強みや弱みを勘案しながら、部署を活動させているということで、組織図のようなものも見せられました。

──組織図はiPadで見せられるんですか?

被害者 iPadですね。パワーポイントのようなものが表示されました。

──この勉強会も、伊藤氏が説明したんですか?

被害者 この時は別人です。男2人が講師役で、出席者も全員が男性でした。Mも同席したんです。

──Mも来たんですか? 久し振りの再会になりますね。

被害者 いえ、説明するのを忘れていたんですが、面接の時もMは同席していたんです。

 私に「この人が伊藤さん」とシナジーブックスの人間を紹介する役割でした。シナジー側の人間は3人いて、私を入れて4人で話をするわけです。

 そして勉強会もMと、他に新しい講師役の2人の男、そして私の4人で行われました。

──自分たちはNPOなのか、NGOなのか、株式会社なのか、そんなことは何も説明しないんですね?

被害者 はい。

──団体のメンバー数なんてことは言うんですか?

被害者 一応、「何百人が参加しています」という話はあったと思います。

──広告塔的な有名人の名前とかは出ましたか?

被害者 そういう人名は出てこなかったです。「不動産業で成功している人がいます」という話や、サクセスストーリーというわけではないんだけれど「こういう活動をしている人がいます」という内容でした。

 パルクールという、「忍者スポーツ」とも呼ばれるような運動をご存じですか? 屋根の上を走ったり、ビルから回転しながら落ちて着地したりするんです。そのパルクールに打ち込んでいる人の話が出たりしました。

──実名なんですか?

被害者 一応、「何とかさん」という名前は出ていたはずです。けれど、結局は会っていないので、どこまで本当だったのかは分かりません。

──iPadで成功者の顔写真が出たりということは?

被害者 それはありませんでした。

(第2回につづく)

2017年7月20日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第7回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第7回は、西村氏の「部下に権限を委譲する極意」と、バーニングマンという興味深い世界的イベントの話となった。

◇第6回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000515/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】バーニングマン公式サイトより

(https://burningman.org/)

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編集部(以下、編) 服装だけでなく、感性や思考も含めて、この20年間、全身が変わらなかったということですか?

西村博之氏(以下、西村) いえ、さすがに変わっているのではないでしょうか。昔はどのように考えていたのかは覚えていませんから、本当のところは分かりません。ですが、以前よりも長期的に考えるようにはなりました。

編 長期的、ですか?

西村 20代の頃は1年が非常に長いですが、30代になって1年が早いことに気づきました。ですから「3年後は、こうなっているだろう」と考えて、様々な種を植えるようにしたんです。

編 それを「大人になったね」と評されると、嫌ですか?

西村 別に嫌ではありません。ただ補足させてもらうと、自分1人で仕事をするより、チームで動くことが増えました。自分でやれば早い。他の人に任せると時間がかかります。でも長期的に見ると、自分ではなく他の人に任せた方が、結果的にはうまくいったことが多かったですね。

編 そのお話ですが、人を使う大変さとメリットが集約されている気がします。

西村 自分なら1時間で終わる仕事を、他の人に3日間かけてやってもらうわけです。それを積み重ねていくんですね。

編 それでも他の人に頼むのは、どうしてですか?

西村 怠け者だからではないでしょうか(笑) 僕が担当するとして、週に1回、1時間が必要な仕事を、誰かが担当できるようにして回した方が楽でしょう。新しい担当者を作る方が、僕は楽ができます。いかに楽をするかということに腐心しているんですよ(笑)

編 もっと楽をするために、長期的に、3年間の視野で考えるということですか?

西村 そうです。

編 となると「ひろゆきの人生哲学は、楽をすることにある」と強引にまとめたくなってしまうんですが、それは間違っていますか?

西村 どうぞどうぞ(笑)

編 大丈夫なんですか?(笑)

西村 別に大丈夫ですよ。

編 当たらずといえども遠からずということですか?

西村 人生哲学というのは間違っていますけどね。人間は楽をしたいから楽をするというだけのことです。

 旅行で、わざと辛い思いをするのは楽しいです。知的好奇心を満たす体験で、大変な目にあうのは大好きなんです。『バーニングマン』というイベントはご存じですか? ネバダ州の砂漠で開催されるんです。1週間の期間で、6万人ぐらいが集まります。

※編集部註 
 8月第4週の月曜日から9月第1週の月曜日まで開催され、貨幣や商行為が厳禁とされていることが最大の特徴。電気、上下水道、電話、ガス、ガソリンスタンドといった社会インフラが全く整備されていない砂漠で、参加者は見返りを求めない「ギフト経済」で生き延びることを求められる。

花田庚彦氏(以下、花田)・本堂まさや氏(以下、本堂) 行ってましたね。

西村 何回も行ってるんですけど、ネットどころか、電気もありませんというところで、人が集まって暮らすわけです。夜は寒く、日中は暑いので、相当にハードです。水も食物も持参しただけ、というハードな状況で生活するのは割に好きなんです。

 ですが仕事となると、いかに楽なルーティンを作って成果を出すかというのが、本来の目的だと思うんです。僕が何かしなければならないというのは、僕がボトルネックになることを意味します。ならば、なるべく僕を外す形を作ると、うまく回るんです。

編 ボトルネック=支障という部分を、もう少し詳しく教えて下さいますか?

西村 例えば、僕に決定を下す役割があったとします。チームがあって、僕がリーダーというイメージですね。「これは、どうすればいいですか?」と訊かれて、僕が決めないと進まないで止まってしまうわけです。

 そうなら、「もうあなたたちで決めて下さい、決定の規準は以下の通りです、最初は間違っても構いません」とお願いするわけです。確かに最初は間違った決定をしてしまうかもしれません。でも、人は何回か間違うと、ちゃんと学習します。そうすると、いつしか僕の手を離れて、きちんと回っていくようになるんです。

編 そういうシステムを作るということは、20代の頃から意識的に考えておられたんですか? それとも次第に学習していくような感じだったのですか?

西村 実は、僕は朝、起きないことがあって、連絡が付きにくい人間だったんです(笑)

本堂 成長しましたよね。今日は15分の遅刻で済みました(笑)

花田 凄いよ、15分の遅刻で来たんだから(笑)

西村 ありがとうございます(笑)

編 実は私を含めて3人でお待ちしていたところ、お二人が「1時間は遅刻するよ」と仰って(笑)

本堂 1時間は、たばこをゆっくり吸えると思ってました(笑)

花田 ひろゆき時間って有名だからね。昔から平気で人を待たせる(笑)

西村 いやはや、すみません。すみません(笑)

本堂 大人になりましたね。

花田 15分になった(笑)

西村 僕がいなくて、僕がいない状態で回すようになってしまったのに、「あ、これでいいじゃない」というのはよくありました(笑)

編 その成功体験を(笑)意識的に中心に据えたんですか?

西村 遅刻は意識的なものではないですが(笑)そうした方が僕も楽ですし、チーム自体も楽になります。

(第8回につづく)

2017年7月13日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第6回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第6回は、西村氏の昔と変わらぬ〝若さ〟に話題が弾む。

◇第5回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000514/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】グーグルショッピングで「ゴムサンダル」を検索した結果

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本堂まさや氏(以下、本堂) でも世界でというと、フランスではなくスペインの選択肢もあったのではないですか?

西村博之氏(以下、西村) 英語圏の統計があって何語を覚えると給料が上がるかというのでフランス語・ドイツ語は上がるのですけれども、スペイン語は上がらないのです。

本堂 なるほど。

花田庚彦氏(以下、花田) そうなんだ。

西村 要するに、メキシコ人がスペイン語と英語の両方をしゃべるでしょう。そうすると、スペイン語が必要でしたらメキシコ人を雇えばいいのです。

 だから例えば、中国語を覚えるというのは、僕は無意味だと思っているのです。それでしたら、中国人で日本語をしゃべれる者を探したほうが早い。

 平均年収の高い国の言語でしたらドイツ、フランスになるのです。ラテン語系の流れで、フランス語を覚えておくとスペイン語もある程度分かるのです。昔、留学したときのフランス人の友達が「スペイン語は何となく分かるよ」と言っていたので、では同じような感じなら得をするほうのフランスにしましょうと。

編集部(以下、編) ひょっとするとポルトガル語も付いてくるかもしれないですね。

西村 でも、ポルトガル語は何か若干違うのです。

編 違うのですか?

西村 スペイン語はこういう感じだろうというのがあるのですけれども、何かポルトガル語は若干違うのです。

花田 ポルトガル語は、南米はブラジルだけだよね。

西村 そうです。ですから、ポルトガル語はあまり役に立たないです。

花田 役に立たないね。

本堂 それにしても、全然、年を取らないですね。

西村 いいえ。多分、取っていますよ。

本堂 そうでしょうか。

花田 ひろゆきは全然変わらない。

本堂 変わらないです。

西村 でも、白髪は増えました。

本堂 私も染めないと、もう真っ白ですよ。

西村 本当ですか?

本堂 真っ白です。ですから、ひげなどは本当にまずいです。

編 花田さんと初めて会われたのはいつごろなのですか?

花田 ひろゆきとは15年ぐらい前ですね。

西村 そうです。まだ髪が黒かったですから(笑)

花田 そうだね(笑)

本堂 花田さん、もっと太っていましたからね。今は激やせしてしまいましたけど。

西村 確かに、もうちょっと太っていたイメージはありますね。

本堂 いい薬を見つけたのですね。

一同 (笑)

花田 訳の分からないことを言うな(笑)

編 皆さんが面識を持たれたきっかけは、何だったんですか?

花田 きっかけは、もともと自分もアングラサイトをやっていたので、それで遊んでいたのです。それで本堂と知り合って、ネットの悪い者たちはみんな、そこからの流れです。

編 悪い者たちですか(笑)

西村 本堂さんのつながりです(笑)

花田 そうです。みんな彼が元凶ですから。

西村 本堂さんが悪い人たちを……。

花田 悪い人を引き寄せるオーラがあるのです(笑)

本堂 止めて下さい(笑) 弊社のコンプラ問題です(笑)

編 当時、西村さんの肩書というのは……?

花田 当時は、2ちゃんねる管理人だったよね。

西村 そうです。普通にホームページ制作屋さんもやりつつ、でしたね。

本堂 最初に会ったときには中央大に通っていましたね。

花田 通ってたっけ?

西村 大学生のときでしたか?

本堂 そうですよ。まだ20代の大学生で、21歳とか、22歳だったはずです。

西村 まだ卒業前ぐらいだったかもしれませんね。

花田 ロフトプラスワンでイベントをやったのは、あれは何年ぐらい? 2015年?

本堂 あれは多分2000年。

花田 2000年か……。宮台真司も来ましたね。

本堂 来ました。

西村 卒業したか、する前か、という頃ですね。

本堂 そのくらいですよね。

編 ということは、お二人から見ると、西村さんは大学生の頃から全く変わっていないんですか?

花田 服装すら変わってない(笑)

西村 服が変わっていないからでしょう。

本堂 いや、想像以上に年を取っていないですよ。久しぶりに会って、びっくりしましたから。

西村 そんなことはないです。第一、太りましたし。

本堂 美容系で、優秀な店に通っているんですか?(笑) もしそうだとしたら、教えて下さい(笑)

西村 ないですよ(笑) 服装のセンスは変わっていないのは事実で、それが大きいんでしょう。

花田 昔はゴムサン履いていたもんね。

西村 今も変わりません(笑) ちょっと高価にはなりましたけど、今の大学生が着ている服と、そんなに変わらないものを身にまとっています。

(第7回につづく)

2017年7月6日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第5回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第5回は、西村氏の「ドケチ」とは全く異なる「金の必要ない生き方」について語る。

◇第4回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000513/ ■―――――――――――――――――――― 【写真】アマゾンフランスのトップページ

(https://www.amazon.fr/)

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編集部(以下、編) 知人にフランスかぶれがいるのですが、「パリほど安い値段で1日楽しめる街はない」と力説するんです。西村さんがパリに住んでいることと、西村さんが大切にしておられる「ヒマつぶし」が繋がったような気がしたんですが?

西村博之氏(以下、西村) でも、ずっと家にいるだけですから、住んでいると東京でもフランスでもあまり変わらないです(笑)

編 それでフランス語を覚えられるものですか?

西村 まあ、何とかなりますよ。覚える気になるのです。

編 覚える気になる、とは?

西村 スーパーで買い物をしたときにも一応話をしますから、覚えざるを得ないでしょう。そういうモチベーションが東京にいると一切ないですから。

編 たとえパリの自宅で1日中ネットやテレビを見ていたとしても、いつか買い物をしに外出しなければいけない、ということですか?

西村 自宅でネット通販を使おうと思っても、フランス語のサイトを見るようになるでしょう? Amazon.frを閲覧するうちに、「加湿器」という単語を覚えたりするわけです。

編 自宅に和仏辞典は必携ですね。

西村 ネットで調べますよ。紙の辞書は不便ですからね。

編 面白いですね。

花田庚彦氏(以下、花田) ひろゆきは、最後はどこに辿り着きたいの?

西村 多分、部屋で普通に映画を見て、ゲームをして、漫画を読んで終わりではないでしょうか。

花田 そうした人生を望んでいるの? というより、そういう人生に辿り着くことができるのかな?

西村 引退して、そうなりたいな、と若い頃に思っていたことが、今、実現できてますからね。

花田 今、幾つですか?

西村 40歳になりました。

花田 40歳で、引退後の夢を実現させたんだね。

西村 と言っても、30代ぐらいから実現できていましたけど(笑)

花田 確かに、そうかもしれないね。

西村 別に、そんなにお金かからないですから。

編 のんびり暮らせるな、と実感されたのは、いつ頃ですか?

西村 20代から、そう思ってました。

編 本当ですか!? 当時は今と比べ物にならない、なんて言うと失礼ですが、収入の額は全く違ったと思うんですが……。

西村 今も昔も、生活費の金額は変わっていませんから。

編 幾らぐらいなんですか?

西村 家賃を除けば、月に3万も使わないと思います。電話もしないから、電話代も常に最低額ですし。

編 家賃を除けば、年に36万円の収入で生きていけるわけですね。

西村 足ります。服も買いませんから。

編 月に3万円しか必要がない人が、それなりに多額の収入を得るということに対して、ご自身はどのように感じておられますか? 

西村 例えば2ちゃんねるは最初、趣味で始めました。広告もありません。でもサーバー代を払うために広告を付ける必要が出てきた。始めれば、資金が多目に回る方がいいし、実際に回すことができた。ああ、回った、回った、という感じです。

 逆に赤黒トントン、収益ゼロ、赤字ゼロを最初から狙うというのは、かえって難しいです。経営者の本堂さんなら分かると思いますけど……。

本堂 いえいえ、うちはトントンです(笑) いつもぎりぎりで何とかやってます、というレベルですから。

花田 絶対に嘘(笑) 闇のネット長者、裏のIT長者だもの。

本堂 いいえ。例えば貯金額なら、ひろゆきは私の20倍ぐらい持っていると思いますよ。

本堂 ひろゆきは持ってるよね。

西村 いいえ。

本堂 僕は使ってしまいます。全部、使ってしまうんです。

花田 確かに本堂君は使うね。

本堂 残りませんね。

西村 本堂さんは家を買ったりするし。

本堂 いえいえ、まさか家なんて、そんな……。

花田 15年間は静岡の片田舎に住んでたしね。

本堂 本当にそうですけど、あの、これって僕へのインタビューではないですよね(笑)

(第6回につづく)

2017年6月29日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第4回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第4回は、西村氏が「飛行機の旅を愛する理由」について語る。

◇第3回記事(リンク)

■―――――――――――――――――――― 【写真】ユナイテッド航空公式サイトより

(https://hub.united.com/)

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本堂まさや氏(以下、本堂) ビジネスか、ファーストクラス?

西村博之氏(以下、西村) 僕は常にエコノミーです。

花田庚彦氏(以下、花田) え!? そうなの?

本堂 11時間も平気ですか?

西村 映画も見られるし、ゲームもできます。飯も食べられるし、飲み物も飲み放題で、僕は割と好きです。

編集部(以下、編) 今、タバコを吸っておられますが、機内禁煙は辛くないですか?

西村 僕はタバコがなければ、吸わなくて平気なんです。

花田 私が海外に行く時は機内の時間が面倒で、睡眠薬を飲んで寝ちゃうなあ。

編 その気持ち、分かります。

西村 映画を無料で見られるのに、もったいなくないですか?

花田 いや、9時間とか10時間とか、乗っている時間が嫌です。

西村 僕は多分、24時間でも平気です。長ければ長いほど、「次は、この映画を見よう」と思いながら寝てしまったとしても、起きて続きを見られるじゃないですか。ですから、割と楽しい感じの11時間を過ごしています。

花田 飛行機は楽しめて1時間半。それ以上は嫌だなあ。

西村 となると、映画が好きかどうかによるかもしれないですね。

編 僕も11時間の禁煙が辛くて、日本の航空会社の人に愚痴を言ったら、「もう困ったらトイレで吸うといいですよ。もちろん禁煙だけど、チェックに来るCAも黙認してますから」と教えてくれたんです。それでコンチネンタル航空のニューヨーク便で吸ってみたら、現行犯的に取り抑えられたんです(笑)

花田 そりゃ当然だ(笑)

編 僕の座っている席の真正面に、NASAの警告書を貼られたんです。アメリカ航空宇宙局だから、飛行機もNASAなんでしょうね。次に吸ったら、その時はアメリカの法律に従って処分するから覚悟しろ、みたいなことが書いてありました。

西村 ということは最初の1回目は見逃してくれるんですか?

編 そういうことなんでしょうか。アバウトに英文を読んだだけなので、責任は持てませんけど……。

西村 そうですか。いい話を聞きました。

編 CAは日本人の女性でしたけど、トイレから出たら「あなた、タバコを吸いましたね!?」と詰問されて……。

西村 アラームが鳴ったわけではないんですか?

編 アラームは鳴りませんでした。先に言った日本の航空会社の人が教えてくれたんですけど、乗客がトイレから出てくると、CAはタバコの臭いがしないかチェックしに来るんです。日本の場合は臭いがしても黙認することが多いらしいんですが、コンチネンタル航空は許さなかったわけです。

花田 トイレから出ると、CAが来ることありますよ。

西村 そうなんですか。

花田 確かに最近は、国内線でも「トイレでタバコを吸う方がいらっしゃいますが」云々というアナウンスをしてるね。

西村 そうなんですか。

編 すいません、本題に戻らせて頂きますが、アメリカに留学したから、次はヨーロッパのフランス、と考えられたんですか?

西村 そうではないです。アメリカも滞在許可証というか、10年いられるビザは持っているんです。

編 今でもですか?

西村 そうです。ヨーロッパとアメリカの両方に、自分の居場所を作っておこうということは前から考えていました。あと、なぜかマレーシアの長期滞在ビザも持っていますね(笑) 何かあったら、どこかに行けるようにしておこうという意識があって、フランスを選んだのも、フランス語が喋られるようになれば、アフリカ圏に行けるようになると考えたからです。

編 フランスの植民地だった国が多いですからね。

花田 アフリカには行った?

西村 まだジンバブエと南アフリカしか行ったことがないです。

本堂 でも凄いですよ。

花田 ジンバブエってインフレが物凄かったところだよね?

西村 今は収束しましたし、結局は米ドルを使うので。

花田 確かに、米ドルはどこでも両替できるからね。

編 先の『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)に、こんな箇所があります。

<ヒマなんで、ヒマつぶしはしたいけど、お金を払うのはいやだから、自分で作る>

西村 ほう、そんなことを言ってましたか(笑)

花田 本当に覚えていないね(笑)

(第5回につづく)

2017年6月22日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第3回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第3回は、西村氏の「フランス在住レポート」という内容だ。

◇第2回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000511/

■―――――――――――――――――――― 【写真】パリ市公式サイトより

(http://www.paris.fr/)

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編集部(以下、編) 4年が経って、ラトビアの住民許可証の使い勝手といいますか、ヨーロッパの居心地はどうですか?

西村博之氏(以下、西村) 住み始めたのは2015年からです。ラトビアではなくフランスのパリ。フランスでも滞在許可証のようなものを取得しています。

本堂まさや氏(以下、本堂) なぜフランスを選んだんですか? 大学の時に1年間、アメリカに留学しているから、英語圏の方がよかったんじゃないですか?

西村 フランス語が全く喋れないので、フランスを選んだんです。

編 語学留学ということですか?

西村 僕は、ネットの仕事ができれば、住む国はどこでもいいというのがあります。その上で、僕が観察している限り人間は、ある国に住めば、その国の言葉を喋られるようになります。それなら、得をしそうな言語を覚えようと考えたんです。全然言葉を知らないフランスに住んで、フランス語を喋られるようになるか試してみたんですが、ある程度いけるので、便利ですね。

本堂 1年で喋られるというのは凄いですよ。

西村 でも日本でも外国人がコンビニで働いていますけど、別に超優秀な人でなくても、レジで日本語を喋っていますよね。

編 そういえば先ほどメールを送って頂きましたが、「iPhoneから送信」と書いてあるんだろうなというところがフランス語になっていました。

西村 フランス語になっていましたか、すいません……。フランス語を覚えようと思って、iPhoneの設定はフランス語にしているんです。

編 パリの住み心地、日常生活の実際など、どんな感想をお持ちですか?

西村 飯は旨いです。外食をしない限りは食費も安いので、かなり食生活は充実します。例えばエシレというバターがあって、日本では高級品扱いですが、パリならスーパーでも売っています。250グラムが日本円で200円ぐらいです。  

 向こうで高級バターというと、ボルディエというノルマンディーの手作りバターがあって、たまに僕も買うんですけど、これだと250グラムで300円ぐらいかな。ところが日本の楽天で見ると、3000円ぐらいの値段になっています。

本堂 乳製品は輸入関税が凄いですからね。

西村 牛耳っている人がいるわけです。あと、恵比寿にユーゴ・デノワイエという肉屋ができたのですが、ここはフランスにもともとあるんです。星がついているレストランに肉を卸しているんですけれど、僕らも行けば普通に買えます。値段も100グラム200円ぐらいで、そんなに高いわけじゃないんです。

編 日本円で200円ですか?

西村 2ユーロです。だからステーキで200グラム買ったとしても、500円で収まる。だから星付きのレストランで食べる肉と同じものが2人で1000円しなかったりするわけです。これは楽しく暮らせますよ。

編 松坂牛が500円で買えるようなものですか。

西村 あとフランスパンが美味しいです。パリで食べて理解しましたが、とても乾燥していて、美味しいフランスパンは乾燥していないと作れないようなんです。雨の日は膨らみが悪いんですね。乾燥した日に膨らんでいるのが美味しい。だから同じ材料を持ってきて日本で焼いても、やっぱり無理じゃないでしょうか。

編 1日経ったフランスパンを齧ると、破片が凶器のようになって口から血が出たという話を聞いたことがあります。

西村 それぐらい乾燥していますね。

編 フランス語の習得状況は、どうですか?

西村 日常会話は何とかなります。やはり住んでいるからですね。

編 どんなところにお住まいなんですか?

西村 パリの部屋は狭いので、1平米あたりの家賃は東京より高いんです。僕が住んでいるのはワンルーム的な部屋ですね。30㎡ぐらいでしょうか。

本堂 結婚しましたよね?

西村 しています。

本堂 奥さんと一緒にパリで暮らしているんですか?

西村 一緒です。

花田庚彦氏(以下、花田) じゃあ今回、奥さんと一緒に来日したんだ?

西村 そうです。ちょっとずれて、別々に入ったんですけどね。僕だけ用事があったので、先に来ました。まあ、来日なのか帰国なのか分からないですけれども(笑)

花田 そうだ帰国だ、来日ではないよね(笑)

本堂 フランス人になってしまった(笑)

編 日本には年に2、3回は帰られるんですか?

西村 一応は月1です。何だかんだやることがありまして。あと不在時の郵便を保管してくれるのが1か月ということもあります。

本堂 じゃあ、シャルル・ド・ゴール空港から飛んでくるんですね。

西村 そうです。11時間ぐらいです。

本堂 きつくないですか?

西村 僕は飛行機が好きなんです。

(第4回につづく)

2017年6月15日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第2回

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第2回は、何と西村氏が現在、ラトビアの住民権を持っているという意外な展開になる。

◇第1回記事
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000510/

■―――――――――――――――――――― 【写真】ラトビア政府観光局公式サイトより

(http://ww3.latvia.travel/ja)

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花田庚彦氏(以下、花田) それで、いくらで2ちゃんねるを売ったの?(笑)

西村博之氏(以下、西村) 売ってはいないんです。シンガポールに作った会社に譲渡したという形にしただけです。

花田 となると、今の収入源は?

西村 データを使う権利をホットリンクという会社に契約していて、そこから収入を得ています。

花田 結構な額なの?

西村 まあ、結構というほどでもないですけど、そこそこです。

花田 アクセスが、かなりの数だろうからね。

西村 でも、2ちゃんねるは乗っ取られているので、どれぐらいのアクセスなのか、僕は分からないんですけどね。

※編集部註  2014年4月1日、西村氏は『昨今の2ちゃんねるの現状に関して。』との文書を発表し、2ちゃんねるが「乗っ取り」の被害に遭ったことを明かした。

 その後、15年9月に西村氏が、2ちゃんねるの管理人、ジム・ワトキンス氏に対して訴訟を起こすことを表明するも、16年8月にWIPO(世界知的所有権機関)に対する西村氏の申し立ては却下されたとの報道が行われた。

西村 WIPOの審理は、まだ続いています。商標などの問題です。そもそもWIPOとは例えば、トヨタが「toyota」というドメインだったとして、「toyota.mx」がメキシコで取られましたというときに簡易的な判断をする機関です。

 こちらの申し立てに対し、WIPOは「もともと関係があった相手が『乗っ取り』を行ったという主張で、事実関係も複雑なので、訴訟を起こして裁判所で争うべき」という結論に至ったんです。

本堂まさや氏(以下、本堂) 色々ありましたよね。ところで、昔はサンダルを愛用していたのに、今はクロックスに変わっています。出世しましたね(笑)

西村 はい、おしゃれになりました(笑) 先日、ラトビアに行ったんですが、その時にサンダルが必要になって、購入したんです。僕は今、ラトビアの住民権を持っているんです。

花田 そうなの!? 国籍は日本だよね? 

西村 国籍は日本です。ラトビアで発行してもらっているのは、住民許可証になります。ですから労働もできるんです。

花田 労働する気、ないでしょ?(笑)

西村 ラトビアはEU加盟国なので、住民権を持っていると、EU域内なら、どこにいてもいいんです。だから非常に便利ですね。

花田 難民みたいだね(笑)

西村 難民は住民許可証を持っていませんよ(笑)

編集部(以下、編) いつ頃、取得されたんですか?

西村 4年前ぐらいです。

編 きっかけは何かあったんですか?

西村 ネットで探して、面白そうだと思ったんです。

 例えばスペインにも同じようなシステムがあるんですが、基本的には滞在のための許可証ですから、半年など一定期間いなければならない、というルールがあります。ところがキプロスとラトビアは滞在しなくてもいいという珍しいものなんです。

 両国とも取得の条件は定期預金の口座作成なんですが、キプロスは銀行封鎖の危険性があったので、怖いと思ってラトビアにしました。

編 いくらぐらいを定期預金にしなければならないんですか?

西村 僕がやった時は20万ユーロでした。

本堂 20万ユーロは結構高いですよね。

花田 1ユーロって、円でいくらだっけ?

本堂 今なら110円から120円ぐらいですから、2000万円は越えますね。

西村 でも僕が定期預金を作った時の利息は4%でしたからね。

編 4%ですか!?

本堂 凄いですね。不動産投資よりリターンが大きい。

西村 ですから、とりあえず預けましたが、それだけで何か物凄く得をしているという、謎な状態になっています。

花田 遊んで暮らせる(笑)

西村 いいえ、ただの庶民ですよ(笑)

編 EUを自由に移動できて、なおかつ働くことも可能なんですね。

西村 働けるのはラトビアだけです。とはいえ、ラトビア住民として働くので、仮に他国で仕事をしたとしても、そんなに問題は発生しない、というのがEUの仕組みなんですね。

(第3回につづく)

2017年6月8日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第1回

 日本における「インターネット元年」は1995年との定義がある。だとすれば、わが国のネットは21歳。既に成人しているわけだ。

 当時は18歳だった関係者も、今は38歳と「不惑」が目前。いや、世界レベルの「ネット元年」は82年だともいう。するとネット自体が30歳を過ぎている。立派な中年ではないか。

 かつて、インターネットどころか、パソコン通信が「ニューメディア」と呼ばれた時代があった。それが今、ネットに「ニュー」の要素は乏しい。電気や水道、ガスと同じように「公共インフラ」と見なされている。

 存在して当り前というわけだが、それは同時にネットの「オールドメディア化」が進んでいることも意味するだろう。

 意外にもネットは高齢化している。ならば改めて、この20年を振り返ってみると、何が見えてくるのだろうか。

 それも、ありきたりの関係者ではなく、どちらかと言えば、少し〝ブラック〟な才人たちに回顧してもらえば、現状の理解、未来の予測が深まるに違いない──。

 こんな企画趣旨で、我々は『不惑のインターネット』の連載を開始してみる。第1回のゲストは、2ちゃんねるの開設者、西村博之氏だ。

 西村氏にインタビューを行って頂いたのが、暴力団や薬物などの取材で知られる、フリーライターの花田庚彦(歳彦)氏と、老舗サイト『激裏情報』の代表・本堂まさや氏だ。

 このお三方、実は昔に座談会に出席されたという縁もあり、久し振りの再会となった。では、前置きはこの程度にして、さっそく鼎談を開始しよう。

■―――――――――――――――――――― 【写真】対談中の西村博之氏

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花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの創設は何年だっけ?

西村博之氏(以下、西村) 1999年です。でも、そう答えているのを覚えているだけで、いつから始めたかというのは、実感のレベルでは全く記憶に残っていないですね。

花田 以前、ムック『ザ・ブラックマーケット (2)』(ワニマガジン社)で、座談会のようなものを開いたじゃない。新宿のロフトプラスワンで激裏とか色んなトークライブもやったけど、ムックの座談会では『2ちゃんねるは要するにアングラサイトの入口だ』という指摘が出て、ひろゆきは思い切り否定したよね。あの気持ちは、いまだに変わってない?

西村 変わっていないのではないでしょうか、もう、その時に何を言ったのか覚えていないですけれど(笑)

花田 とりあえず、編集部から聞きたいことを進めてもらえますか。

編集部(以下、編)いきなりで申し訳ないんですが、今でも覚えている、最も幼かった時の記憶は、何になられますか?

西村 多分、3歳ぐらいの時の記憶だと思います。玄関のドアを開けたところに棚があって、そこに洗面器などが置かれていたような気がするんですが、それが本当にそうなのかも覚えていませんね。

編 今されている仕事の原点を辿っていくと、何歳ぐらいの頃に行き着きますか? 例えばインタビュー集『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)で西村さんは、

<小学生のときに、MSXでBASICプログラミングをやったりしてたんですけど、そのあと古いPC−98をゲームソフトといっしょにもらって、ちょっとやって>

と答えておられますが、この時期にまで遡られるのでしょうか?

西村 基本的に行き当りばったりですから、「これをやったから、これを生かそう」という考えで生きてきた実感は持っていません。

 また、「自分が持っているスキルはこうだから、これをしよう」という思考も、今のところはあまり持っていませんね。

編 この『就職しない生き方〜』のインタビューを拝読して……

西村 何を喋ったのか、覚えていないんですけれども(笑)

花田 そのスタイル、本当に変わってないなあ(笑)

西村 変わる必要がなかったせいだと思います。例えば戦争に直面すれば、考え方は変わるはずですが、特にそういうこともなく、だらだらと楽しく生きてしまいましたから。よくないと思うこともあるんですが……。

花田 メディア側からすると、ひろゆきは色んな意味で映えるだよね。だから大手でも取り上げやすいわけだけど、例えば堀江貴文さんと一緒にテレビに出たりしたじゃない。ああいうのは自分が求めていたことなの?

西村 求めていたということはないですね。単に頼まれたから出演しているだけです。

花田 求めているのは視聴者と制作会社ということ?

西村 いえいえ、視聴者は関係ありません。制作会社などの発注側です。

編 すいません、先の『就職しない生き方〜』を、また引用させて頂きたいんですが、

<高校から大学までぱったりパソコンにさわらなくなって、遊んでばかりいました(略)同じ学校の友だちの中に、親が帰ってこない家があった。鍵をかけてなくて、そこに行くといつも友だちがいたんですね。そこでいつも集まって……ゲームしてました(笑)>

という箇所がありますけど、当時のゲーム機はスーパーファミコンですか?

西村 スーファミです。『ファイナルファンタジーⅥ』をやったりしていましたね。

編 いまだに強烈な印象に残っているゲームソフト、というものはありますか?

西村 いいえ、全然記憶にないです。

花田 ひろゆきは、そこは適当だよね(笑)

西村 僕は基本的に記憶力が悪いんです。言われて出てくるものはあるんですけど、引出しの中から探すということができない。

編 大学時代については、

<HTMLを覚えてホームページが作れるようになったんで、バイトがわりに仲間とホームページ制作の会社をやってみようと。注文が来たらやろうか、と言っていたら、ほんとに注文が来た>

ということですが、この時に設立されたのが、合資会社東京アクセスですね?

西村 そうです。東京アクセスはまだ、一応は存続していますね。

(第2回につづく)