2017年6月22日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第3回

2017-06-22 11.42.13

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第3回は、西村氏の「フランス在住レポート」という内容だ。

◇第2回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000511/

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【写真】パリ市公式サイトより
http://www.paris.fr/
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編集部(以下、編) 4年が経って、ラトビアの住民許可証の使い勝手といいますか、ヨーロッパの居心地はどうですか?

西村博之氏(以下、西村) 住み始めたのは2015年からです。ラトビアではなくフランスのパリ。フランスでも滞在許可証のようなものを取得しています。

本堂まさや氏(以下、本堂) なぜフランスを選んだんですか? 大学の時に1年間、アメリカに留学しているから、英語圏の方がよかったんじゃないですか?

西村 フランス語が全く喋れないので、フランスを選んだんです。

編 語学留学ということですか?

西村 僕は、ネットの仕事ができれば、住む国はどこでもいいというのがあります。その上で、僕が観察している限り人間は、ある国に住めば、その国の言葉を喋られるようになります。それなら、得をしそうな言語を覚えようと考えたんです。全然言葉を知らないフランスに住んで、フランス語を喋られるようになるか試してみたんですが、ある程度いけるので、便利ですね。

本堂 1年で喋られるというのは凄いですよ。

西村 でも日本でも外国人がコンビニで働いていますけど、別に超優秀な人でなくても、レジで日本語を喋っていますよね。

編 そういえば先ほどメールを送って頂きましたが、「iPhoneから送信」と書いてあるんだろうなというところがフランス語になっていました。

西村 フランス語になっていましたか、すいません……。フランス語を覚えようと思って、iPhoneの設定はフランス語にしているんです。

編 パリの住み心地、日常生活の実際など、どんな感想をお持ちですか?

西村 飯は旨いです。外食をしない限りは食費も安いので、かなり食生活は充実します。例えばエシレというバターがあって、日本では高級品扱いですが、パリならスーパーでも売っています。250グラムが日本円で200円ぐらいです。
 
 向こうで高級バターというと、ボルディエというノルマンディーの手作りバターがあって、たまに僕も買うんですけど、これだと250グラムで300円ぐらいかな。ところが日本の楽天で見ると、3000円ぐらいの値段になっています。

本堂 乳製品は輸入関税が凄いですからね。

西村 牛耳っている人がいるわけです。あと、恵比寿にユーゴ・デノワイエという肉屋ができたのですが、ここはフランスにもともとあるんです。星がついているレストランに肉を卸しているんですけれど、僕らも行けば普通に買えます。値段も100グラム200円ぐらいで、そんなに高いわけじゃないんです。

編 日本円で200円ですか?

西村 2ユーロです。だからステーキで200グラム買ったとしても、500円で収まる。だから星付きのレストランで食べる肉と同じものが2人で1000円しなかったりするわけです。これは楽しく暮らせますよ。

編 松坂牛が500円で買えるようなものですか。

西村 あとフランスパンが美味しいです。パリで食べて理解しましたが、とても乾燥していて、美味しいフランスパンは乾燥していないと作れないようなんです。雨の日は膨らみが悪いんですね。乾燥した日に膨らんでいるのが美味しい。だから同じ材料を持ってきて日本で焼いても、やっぱり無理じゃないでしょうか。

編 1日経ったフランスパンを齧ると、破片が凶器のようになって口から血が出たという話を聞いたことがあります。

西村 それぐらい乾燥していますね。

編 フランス語の習得状況は、どうですか?

西村 日常会話は何とかなります。やはり住んでいるからですね。

編 どんなところにお住まいなんですか?

西村 パリの部屋は狭いので、1平米あたりの家賃は東京より高いんです。僕が住んでいるのはワンルーム的な部屋ですね。30㎡ぐらいでしょうか。

本堂 結婚しましたよね?

西村 しています。

本堂 奥さんと一緒にパリで暮らしているんですか?

西村 一緒です。

花田庚彦氏(以下、花田) じゃあ今回、奥さんと一緒に来日したんだ?

西村 そうです。ちょっとずれて、別々に入ったんですけどね。僕だけ用事があったので、先に来ました。まあ、来日なのか帰国なのか分からないですけれども(笑)

花田 そうだ帰国だ、来日ではないよね(笑)

本堂 フランス人になってしまった(笑)

編 日本には年に2、3回は帰られるんですか?

西村 一応は月1です。何だかんだやることがありまして。あと不在時の郵便を保管してくれるのが1か月ということもあります。

本堂 じゃあ、シャルル・ド・ゴール空港から飛んでくるんですね。

西村 そうです。11時間ぐらいです。

本堂 きつくないですか?

西村 僕は飛行機が好きなんです。

(第4回につづく)

2017年6月15日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第2回

2017-06-15 12.57.18

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第2回は、何と西村氏が現在、ラトビアの住民権を持っているという意外な展開になる。

◇第1回記事
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000510/

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【写真】ラトビア政府観光局公式サイトより
http://ww3.latvia.travel/ja
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花田庚彦氏(以下、花田) それで、いくらで2ちゃんねるを売ったの?(笑)

西村博之氏(以下、西村) 売ってはいないんです。シンガポールに作った会社に譲渡したという形にしただけです。

花田 となると、今の収入源は?

西村 データを使う権利をホットリンクという会社に契約していて、そこから収入を得ています。

花田 結構な額なの?

西村 まあ、結構というほどでもないですけど、そこそこです。

花田 アクセスが、かなりの数だろうからね。

西村 でも、2ちゃんねるは乗っ取られているので、どれぐらいのアクセスなのか、僕は分からないんですけどね。

※編集部註
 2014年4月1日、西村氏は『昨今の2ちゃんねるの現状に関して。』との文書を発表し、2ちゃんねるが「乗っ取り」の被害に遭ったことを明かした。
 その後、15年9月に西村氏が、2ちゃんねるの管理人、ジム・ワトキンス氏に対して訴訟を起こすことを表明するも、16年8月にWIPO(世界知的所有権機関)に対する西村氏の申し立ては却下されたとの報道が行われた。

西村 WIPOの審理は、まだ続いています。商標などの問題です。そもそもWIPOとは例えば、トヨタが「toyota」というドメインだったとして、「toyota.mx」がメキシコで取られましたというときに簡易的な判断をする機関です。

 こちらの申し立てに対し、WIPOは「もともと関係があった相手が『乗っ取り』を行ったという主張で、事実関係も複雑なので、訴訟を起こして裁判所で争うべき」という結論に至ったんです。

本堂まさや氏(以下、本堂) 色々ありましたよね。ところで、昔はサンダルを愛用していたのに、今はクロックスに変わっています。出世しましたね(笑)

西村 はい、おしゃれになりました(笑) 先日、ラトビアに行ったんですが、その時にサンダルが必要になって、購入したんです。僕は今、ラトビアの住民権を持っているんです。

花田 そうなの!? 国籍は日本だよね? 

西村 国籍は日本です。ラトビアで発行してもらっているのは、住民許可証になります。ですから労働もできるんです。

花田 労働する気、ないでしょ?(笑)

西村 ラトビアはEU加盟国なので、住民権を持っていると、EU域内なら、どこにいてもいいんです。だから非常に便利ですね。

花田 難民みたいだね(笑)

西村 難民は住民許可証を持っていませんよ(笑)

編集部(以下、編) いつ頃、取得されたんですか?

西村 4年前ぐらいです。

編 きっかけは何かあったんですか?

西村 ネットで探して、面白そうだと思ったんです。

 例えばスペインにも同じようなシステムがあるんですが、基本的には滞在のための許可証ですから、半年など一定期間いなければならない、というルールがあります。ところがキプロスとラトビアは滞在しなくてもいいという珍しいものなんです。

 両国とも取得の条件は定期預金の口座作成なんですが、キプロスは銀行封鎖の危険性があったので、怖いと思ってラトビアにしました。

編 いくらぐらいを定期預金にしなければならないんですか?

西村 僕がやった時は20万ユーロでした。

本堂 20万ユーロは結構高いですよね。

花田 1ユーロって、円でいくらだっけ?

本堂 今なら110円から120円ぐらいですから、2000万円は越えますね。

西村 でも僕が定期預金を作った時の利息は4%でしたからね。

編 4%ですか!?

本堂 凄いですね。不動産投資よりリターンが大きい。

西村 ですから、とりあえず預けましたが、それだけで何か物凄く得をしているという、謎な状態になっています。

花田 遊んで暮らせる(笑)

西村 いいえ、ただの庶民ですよ(笑)

編 EUを自由に移動できて、なおかつ働くことも可能なんですね。

西村 働けるのはラトビアだけです。とはいえ、ラトビア住民として働くので、仮に他国で仕事をしたとしても、そんなに問題は発生しない、というのがEUの仕組みなんですね。

(第3回につづく)

2017年6月8日

無料連載『不惑のインターネット』①西村博之氏・第1回

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 日本における「インターネット元年」は1995年との定義がある。だとすれば、わが国のネットは21歳。既に成人しているわけだ。

 当時は18歳だった関係者も、今は38歳と「不惑」が目前。いや、世界レベルの「ネット元年」は82年だともいう。するとネット自体が30歳を過ぎている。立派な中年ではないか。

 かつて、インターネットどころか、パソコン通信が「ニューメディア」と呼ばれた時代があった。それが今、ネットに「ニュー」の要素は乏しい。電気や水道、ガスと同じように「公共インフラ」と見なされている。

 存在して当り前というわけだが、それは同時にネットの「オールドメディア化」が進んでいることも意味するだろう。

 意外にもネットは高齢化している。ならば改めて、この20年を振り返ってみると、何が見えてくるのだろうか。

 それも、ありきたりの関係者ではなく、どちらかと言えば、少し〝ブラック〟な才人たちに回顧してもらえば、現状の理解、未来の予測が深まるに違いない──。

 こんな企画趣旨で、我々は『不惑のインターネット』の連載を開始してみる。第1回のゲストは、2ちゃんねるの開設者、西村博之氏だ。

 西村氏にインタビューを行って頂いたのが、暴力団や薬物などの取材で知られる、フリーライターの花田庚彦(歳彦)氏と、老舗サイト『激裏情報』の代表・本堂まさや氏だ。

 このお三方、実は昔に座談会に出席されたという縁もあり、久し振りの再会となった。では、前置きはこの程度にして、さっそく鼎談を開始しよう。

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【写真】対談中の西村博之氏
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花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの創設は何年だっけ?

西村博之氏(以下、西村) 1999年です。でも、そう答えているのを覚えているだけで、いつから始めたかというのは、実感のレベルでは全く記憶に残っていないですね。

花田 以前、ムック『ザ・ブラックマーケット (2)』(ワニマガジン社)で、座談会のようなものを開いたじゃない。新宿のロフトプラスワンで激裏とか色んなトークライブもやったけど、ムックの座談会では『2ちゃんねるは要するにアングラサイトの入口だ』という指摘が出て、ひろゆきは思い切り否定したよね。あの気持ちは、いまだに変わってない?

西村 変わっていないのではないでしょうか、もう、その時に何を言ったのか覚えていないですけれど(笑)

花田 とりあえず、編集部から聞きたいことを進めてもらえますか。

編集部(以下、編)いきなりで申し訳ないんですが、今でも覚えている、最も幼かった時の記憶は、何になられますか?

西村 多分、3歳ぐらいの時の記憶だと思います。玄関のドアを開けたところに棚があって、そこに洗面器などが置かれていたような気がするんですが、それが本当にそうなのかも覚えていませんね。

編 今されている仕事の原点を辿っていくと、何歳ぐらいの頃に行き着きますか? 例えばインタビュー集『就職しない生き方 ネットで「好き」を仕事にする10人の方法』(インプレス)で西村さんは、

<小学生のときに、MSXでBASICプログラミングをやったりしてたんですけど、そのあと古いPC−98をゲームソフトといっしょにもらって、ちょっとやって>

と答えておられますが、この時期にまで遡られるのでしょうか?

西村 基本的に行き当りばったりですから、「これをやったから、これを生かそう」という考えで生きてきた実感は持っていません。

 また、「自分が持っているスキルはこうだから、これをしよう」という思考も、今のところはあまり持っていませんね。

編 この『就職しない生き方〜』のインタビューを拝読して……

西村 何を喋ったのか、覚えていないんですけれども(笑)

花田 そのスタイル、本当に変わってないなあ(笑)

西村 変わる必要がなかったせいだと思います。例えば戦争に直面すれば、考え方は変わるはずですが、特にそういうこともなく、だらだらと楽しく生きてしまいましたから。よくないと思うこともあるんですが……。

花田 メディア側からすると、ひろゆきは色んな意味で映えるだよね。だから大手でも取り上げやすいわけだけど、例えば堀江貴文さんと一緒にテレビに出たりしたじゃない。ああいうのは自分が求めていたことなの?

西村 求めていたということはないですね。単に頼まれたから出演しているだけです。

花田 求めているのは視聴者と制作会社ということ?

西村 いえいえ、視聴者は関係ありません。制作会社などの発注側です。

編 すいません、先の『就職しない生き方〜』を、また引用させて頂きたいんですが、

<高校から大学までぱったりパソコンにさわらなくなって、遊んでばかりいました(略)同じ学校の友だちの中に、親が帰ってこない家があった。鍵をかけてなくて、そこに行くといつも友だちがいたんですね。そこでいつも集まって……ゲームしてました(笑)>

という箇所がありますけど、当時のゲーム機はスーパーファミコンですか?

西村 スーファミです。『ファイナルファンタジーⅥ』をやったりしていましたね。

編 いまだに強烈な印象に残っているゲームソフト、というものはありますか?

西村 いいえ、全然記憶にないです。

花田 ひろゆきは、そこは適当だよね(笑)

西村 僕は基本的に記憶力が悪いんです。言われて出てくるものはあるんですけど、引出しの中から探すということができない。

編 大学時代については、

<HTMLを覚えてホームページが作れるようになったんで、バイトがわりに仲間とホームページ制作の会社をやってみようと。注文が来たらやろうか、と言っていたら、ほんとに注文が来た>

ということですが、この時に設立されたのが、合資会社東京アクセスですね?

西村 そうです。東京アクセスはまだ、一応は存続していますね。

(第2回につづく)

2017年5月12日

【最終回】プロ野球B級ニュース2016㉕何でそうなるの?

17年5月12日 baseball 2017-05-11 13.05.39

 この『プロ野球B級ニュース事件簿2016』は、決してスポーツ新聞の1面を飾ることはないが、愛好家には極めて興味深い記録やエピソードで16年シーズンを振り返ってきた。

 好評を博した連載も、残念ながら今回で最終回。掉尾を飾るのは、やはり「B」の精神に満ちた「何でそうなるの?」篇。

 ど真ん中の珍プレーでもなく、かといって好プレーというわけでもない。しかしながら、技術の未熟な高校球児には絶対不可能な、プロならではのプレー。

 いやはや、そもそもの観点が「何でそうなるの?」なのだから、これを説明するのは極めて難しい。さっそく、以下に記した4選手のプレー要約をご覧になって頂きたい。

①2回もファウルがベースコーチを直撃
 角中勝也(ロッテ)
②メジャーも驚愕の「歴史的大暴投」
 澤村拓一(巨人)
③〝鈍足〟が生んだホームイン
 村田修一(巨人)
④トリプルスリーの〝鬼ごっこ〟
 山田哲人(ヤクルト)

 それでは、もし機会があれば、2017年篇で、またお会いしましょう。ご愛読、本当にありがとうございました。

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【著者】久保田龍雄
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2017年4月28日

プロ野球B級ニュース2016㉔大記録

baseball2017-04-28 13.33.56

「プロ野球B級ニュース事件簿」と銘打っていながら、今回は「看板に偽りあり」という内容となる。とてもではないがB級ではない、正真正銘の「A」である大記録を取り上げるためだ。

 さすがプロ、と唸りたくなるエピソードは

①18試合連続四球
 柳田悠岐(ソフトバンク)
②史上最遅の2000本安打 
 新井貴浩(広島)
③デビューから14連勝 
 ヘンリカス・ニコラス・バンデンハーク(ソフトバンク)
④まさかのギネス世界記録
 三浦大輔(DeNA)

の4選手となる。さっそく、先に進もう。

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■プロ野球タイの18試合連続四球達成も「(王会長に)全然並んでないです」

 

柳田悠岐(ソフトバンク)

 

4月19日 ソフトバンクvsロッテ(QVCマリン)

 2016年、開幕から17試合連続四球の記録を継続中だったソフトバンク・柳田悠岐が4月19日のロッテ戦(QVCマリン)で、王貞治(巨人-現ソフトバンク球団会長)が70年につくった18試合連続四球のプロ野球記録に並んだ。

 この日3打数無安打2三振の柳田は、1対1で迎えた8回1死満塁の勝ち越し機に4度目の打席に入ると、カウント3-1から代わったばかりの左腕・松永昴大の外角低めをしっかり見極め、決勝点となる押し出し四球。「チャンスで打てていなかったので、どんな形でも点が入ればと思っていた」とフォア・ザ・チームを強調した。

 結果的にチームの7連勝と今季初の首位奪取を決める貴重な1点となり、工藤公康監督も「非常に大きかった」と大喜びだった。

 連続四球の記録は、15年にトリプルスリーを達成した〝怪物〟を各球団の投手たちが何とかして抑えようと開幕から厳しい内角攻めを続けてきたのに対し、「自分のスイングをするだけ」とけっしてボール球に手を出さない打撃スタイルを貫いた結果と言える。

 それを証明するように、18試合で選んだ計25四球のうち、フルカウントまで粘ったものが15個もあった。「全部の球を追いかけても打てない。それがたまたま四球になっているだけ」と本人。

 46年ぶりのタイ記録についても、「全然並んでないです。(記録は)何も考えてないです」とまったくこだわっていなかった。

 そして、プロ野球記録更新がかかった翌20日のロッテ戦、柳田は遊ゴロ2つと三振の3打数無安打で9回の先頭打者としてこの日4度目の打席に立った。

 新記録へのラストチャンスだったが、積極的に打ちに行って、ロッテの2番手・南昌輝の初球ストレートを中前安打。この一打を足掛かりに、ソフトバンクは貴重な2点を加え、5対0で快勝した。

 試合後、「これで連続四球のことを聞かれなくなるね」という報道陣の問いに「そう、それですよ」とニヤリ。記録が途切れたことによる解放感から、つい本音が出たといったところか。ファンとしても、柳田が四球で一塁に歩く姿よりも、豪快な一打を見たいという気持ちに変わりはない。

 9月に右手薬指を骨折し、長期離脱するアクシデントもあり、2年連続トリプルスリーは達成できなかったが、今年も〝怪物〟の見出しが何度も躍る予感は十分だ。

■大学&社会人出身では史上最遅! 2112試合目で2000本安打達成!

 

新井貴浩(広島)

 

4月26日 広島vsヤクルト(神宮)

 3回無死二塁、成瀬善久の内角スライダーを、左翼線に運んだ痛烈なタイムリー二塁打が新井貴浩にとって史上47人目の通算2000本目の安打になった。

 プロ18年目の39歳2ヶ月。2112試合目での達成は、大学・社会人出身では史上最も遅い記録になる。また、FAで離れた古巣に戻っての達成も、史上初だ。

 駒大4年の98年秋、「どうしてもプロ野球選手になりたい」と売り込んで、ドラフト6位で広島に拾ってもらった無印の「不器用な男」は、キャンプ早々に故障して挫折を味わうが、周りの人に恵まれた。駒大の先輩にあたる〝鬼軍曹〟大下剛史ヘッドコーチは「この男を何とかモノに」と結果が出なくても、開幕から1軍に置きつづけた。

 そして、99年5月12日の巨人戦(広島市民)で、ホセからプロ初安打。速球に押され、左方向に引っ張ったはずの打球が右前に飛ぶというラッキーな当たり。「ホセの球は速かった」と言うと、もう一人の駒大の先輩・野村謙二郎から「そんな寂しいこと言うな」と叱られた。プロにはもっと速い球を投げる投手がたくさんいるんだから、そんなことを言っていたら、この世界では生きていけない。これが「プロ1安打目の教訓」になった。

 2年連続100打点以上を記録し、不動の4番になった07年オフ、「これまで一度も体験していない優勝を実現したい」と阪神にFA移籍したが、腰や肩の故障に苦しみ、代打要員格下げの悲哀も味わう。この時点では、2000本安打も達成できずに終わるかに見えた。

 だが、14年オフ、自ら自由契約を申し出て、8年ぶりに古巣・広島に復帰すると、阪神での最終年は43本しか打てなかった安打が117本と3倍増。2000本まであと「29」となった。

 そして16年、24試合目で、ついに大台到達。何度挫折を味わっても、必ず誰かが救いの手を差し伸べてくれた。一度広島に背を向けて出ていった男を温かく迎えてくれたカープファンにも、「優勝して恩返ししたい」と心の中で誓った。まさに「ワシほど人に恵まれた男はいない」という感謝の気持ちが大きな力となって築き上げた金字塔だった。

 8月3日のヤクルト戦(神宮)では、2回無死一塁、石川雅規から中越えに先制2ランを放ち、史上42人目となる通算300本塁打を達成。2179試合目での到達はもちろん史上最遅記録である。

■デビューから14連勝! 不敗男が2つのプロ野球記録更新!

 

ヘンリカス・ニコラス・バンデンハーク(ソフトバンク)

 

5月10日 ロッテvsソフトバンク(ヤフオクドーム)

 2015年6月14日の初登板以来、2年がかりで連勝街道を驀進したの「負けない男」バンデンハークが16年5月10日のロッテ戦(ヤフオクドーム)で8回を4安打10奪三振の1失点の快投を見せ、ついに14連勝を達成。

 66年の堀内恒夫(巨人)が持つデビューからの最多連勝記録「13」を抜いたばかりでなく、87年から88年にかけて郭泰源(西武)が記録した外国人最多連勝記録「13」も同時に更新した。

「不敗神話」の主人公は、けっして自らの記録を誇ることなく、謙虚そのものだった。

「自分の名前が残ることは嬉しい。でも、自分だけでできたことじゃない。ホークスというチームで達成できたこと、ホークスの一員になれたことが嬉しい」。

 それもそのはず。5月3日の日本ハム戦(札幌ドーム)では、自己ワーストの3被弾を喫し、0対4とリードを奪われた7回終了後に降板。

 ついに連勝記録もストップかと思われたが、味方打線が8、9回に奮起。4対4と追いついて初黒星を消してくれた後、延長10回に松田宣浩の左越えソロで逆転勝ち。「頼りにしているし、チームを勝たせたいと思って自分も投げている」と感謝するのもごもっともなのだ。

 そして、仕切り直しとなったロッテ戦、今季初の本拠地登板とあって、「気合が入った」。序盤から150キロ超の速球が唸り、ナックルカーブを中心とする変化球も低めに決まる。

 6回1死から田村龍弘に初安打となる中前安打を許すまでパーフェクトだった。加藤翔平の犠打で2死二塁にされたが、1番・中村奨吾を空振り三振に切って取った。

 その裏、「バンディが頑張っているから」と柳田悠岐が左越えに先制2ランを放ち、勝ち投手の権利をゲット。8回に1点を失って降板したものの、9回は守護神・サファテがきっちり締めて2対1で逃げ切り。まさにチーム全員でかち取った金字塔だった。

 だが、どんな記録も、いつかは途切れるもの。同17日の日本ハム戦(北九州)、15連勝をかけて先発したバンデンハークは、開幕以降ワーストの3四死球と自慢の制球が乱れ、大谷翔平に先制2ランを浴びるなど5回7失点KO。連勝記録は「14」でストップした。

 その後、「疲労蓄積」を訴えて6月1日に登録抹消され、3ヶ月以上も戦線離脱。連勝記録へのプレッシャーは予想以上に大きかった?

■プロ野球新記録ならず! でも、「頭になかった」ギネス世界記録を達成!!

 

三浦大輔(DeNA)

 

7月11日 中日vsDeNA(横浜)

 2015年に引退した山本昌(中日)とともに23年連続勝利のプロ野球記録を持つ43歳のレジェンド右腕・三浦大輔が16年7月11日の中日戦(横浜)で初先発初登板。前人未到の24年連続勝利に挑戦した。

 同年は調整不足から出遅れたが、コーチ兼任であるため、1軍に帯同しながら、黙々と練習を続けてきた。

 だが、開幕から3ヶ月半遅れてのシーズン初登板のマウンドは、ほろ苦いものになった。

 初回に先頭の大島洋平に右越え二塁打を浴びた後、2番・堂上直倫にも右前に打たれ、あっさり先制の1点を許してしまう。

 さらに1死後、ビシエド、森野将彦、福田永将に3連打されて、2点を失った後、エルナンデスにも左越え3ランを浴びた。百戦錬磨の大ベテランも、初回にいきなり大量6失点というまさかの事態に、ベースカバーに走った本塁で呆然とするばかりだった。

「悔しいし、申し訳ないです」

 しかし、ここからが「ハマの番長」の真骨頂。次打者・杉山翔大にも中前安打を許したが、バルデスの送りバントで2死をとった後、大島を二ゴロに仕留め、何とか踏ん張った。
平日にもかかわらず、三浦の快挙をひと目見ようとスタンドは満員だったが、さすがに6点のハンデはきつい。

「今日はダメか」とファンがあきらめムードになりかけた矢先、投手としてではなく、打者としてのもうひとつの大記録を目の当たりにするのだから、本当に野球は何があるかわからない。

 2回2死一塁で打席に立った三浦がバルデスの外角高めの134キロを鋭く振り抜くと、快音とともにライナーがショート・堂上の頭上を越えていった。

 この瞬間、大島康徳(中日-日本ハム)と並ぶ歴代4位タイの24年連続安打が達成された。

「そっちは全然頭になかった」そうだが、こちらの記録もプロ野球史に燦然と残る大きな勲章であるのは言うまでもない。

 否、プロ野球史どころではなかった。8月22日、「プロ野球投手による安打最多連続年数」として、ギネス世界記録にも認定されたのだ。

「(打撃は)得意じゃないけど好き。打席に入って一生懸命打とうとやってきたのが、24年につながったのだと思う」。かくして、「ハマの番長」は、「世界の番長」になった。

2017年4月21日

プロ野球B級ニュース2016㉓代役ヒーロー

baseball2017-04-21 16.18.21

 代役のドラマといえば、映画や舞台といった役者の世界というイメージがあるかもしれないが、プロ野球にも実に興味深いエピソードに事欠かない。

 なじみ深いのはシーズン途中で監督が降板したものの、監督代行がチームを好調に導いた場合だろうか。しかしながら今回は選手しか登場しない。

①緊急登板は「予定継投」
 福敬登(中日)
②前代未聞「ヒーローインタビューの代役」
 熊代聖人(西武)
③2年ぶり先発が「鯉退治」
 村中恭平(ヤクルト)
④代役先発が奇跡のGJ!
 薮田和樹(広島)

の4選手のエピソードをご紹介したい。

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【著者】久保田龍雄
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【写真】薮田和樹公式ブログより
https://ameblo.jp/yab-kaz/
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2017年4月14日

プロ野球B級ニュース2016㉒大乱戦&大量得点

baseball2017-04-14 13.47.47

 野球において、最も面白いスコアは何対何か──。

 こんなアンケート調査を行えば、たちまち百家争鳴、収拾がつかなくなるのは言うまでもないだろう。

 シーソーゲームですら前提にはならない。1対0を至上とする者もいるからだ。8対7は「ルーズヴェルト・ゲーム」として有名だが、9対8、もしくは7対6を主張するファンも相当な数にのぼる。

 いや、1点差でさえ、否定されるかもしれない。愛するチームが12対0で勝つのが最も面白い、という意見も、ファン心理としては理解できる。

 とにもかくにも、息づまる投手戦も野球なら、呆れるほど打者が活躍する乱打戦も、同じ野球に間違いない。そして16年のシーズンでも、歴史に残る乱打戦・大量得点の試合が行われた。様々な野球の魅力のうち、1つの究極をお読み頂こう。

「プロ野球B級ニュース事件簿2016」の第22回は「乱打戦・大量得点篇」とし、

①ミスター・ルーズヴェルト・ゲーム!
 川本良平(楽天)
②大量得点でも憮然
 伊東勤監督(ロッテ)
③先発全員「打点」の凄まじい打線
 長谷川勇也(ソフトバンク)
④荒れたのはスコアだけでなく、1試合2乱闘
 T-岡田(オリックス)

の3選手、1監督のエピソードをご紹介したい。

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【著者】久保田龍雄
【購読記事の文字数】4600字
【写真】福岡ソフトバンクホークス公式サイト「長谷川選手グッズ」「選手下敷」より
http://dugout.softbankhawks.co.jp/shop/genre/genre.aspx?genre=1036&_ga=1.257450691.994093721.1492145243
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2017年4月7日

プロ野球B級ニュース2016㉑長いトンネル

baseball2017-04-05 15.57.34

 プロ野球選手の「長いトンネル」と聞いて、思わず自分の人生と重ね合わせてしまう人も少なくないだろう。

 今年もプロ野球は開幕した。こうなると、選手と自分を同一視する余裕など失ってしまうのがファンというもの。

 ひいきのチームだけでなく、応援する選手が「長いトンネル」に入ってしまえば、心配したり、怒ったり、神を呪ったり、テレビの前で悪態をついたり……と、ありとあらゆる狂態を演じるのがファンだ。

 連載第21回は「長いトンネル」に捕まってしまった4選手のエピソードをお届けする。今年もきっと、同じような罠に落ちる選手が出現するはずだが、その「復習」をみんなで済ませておこうではないか。

①日本一MVP投手が1112日ぶり本拠地勝利
 美馬学(楽天)
②71打席ぶり弾も15連勝でストップ 
 中田翔(日本ハム)
③高卒新人ワーストのデビュー6連敗寸前から奇跡が
 小笠原慎之介(中日)
④シーズン2勝目は遠かった 
 東明大貴(オリックス)

 今回は以上、4選手のエピソードをご紹介したい。また、そのうち、美馬学選手の部分は全文、無料記事としてお届けする。

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【著者】久保田龍雄
【購読記事の文字数】約4900字
【写真】小笠原慎之介選手Instagramより
https://www.instagram.com/dshinnosuke11/
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2017年3月31日

プロ野球B級ニュース2016⑳珍記録篇

baseball2017-03-31 11.09.12

 そもそも「プロ野球B級ニュース」という時点で、ある程度は「珍記録」の要素を持っている。

 だが、そんな本欄が「珍記録」を銘打って連載の1回とするのだから、これはもうベスト・オブ・ベスト、選りすぐりの中の選りすぐりと受け止めて頂いて差し支えない。

 本当に野球の神様は、様々な瞬間を選手とファンに提供してくれるものだと、改めて実感されるだろう。

 連載第20回は「珍記録篇」とし、

①投手の犠打で、まさかの1対0勝利
 若松駿太(中日)
②通算100暴投を達成 
 新垣渚(ヤクルト)
③1イニング4三振もトレード
 八木亮祐(ヤクルト)
④1球勝利を2度達成
 金刃憲人(楽天)

の4選手のエピソードをご紹介したい。
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【著者】久保田龍雄
【購読記事の文字数】4480字
【写真】新垣渚公式ブログより
http://pakila.jp/nagisa/
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2017年3月28日

【初回無料】連載「激震・品川美容外科」①注射針使い回し疑惑

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 2016年秋から、品川美容外科(東京都港区港南)の医師や看護師が相次いで退職している。品川美容外科の綿引一・理事長は危機感を抱き、組織の引き締めに自らが全国のクリニックを行脚。医師や看護師との面談を繰り返している。綿引理事長は、この半年、ほとんど品川の本院にいることはなかったという。

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【写真】品川美容外科公式サイトより
http://www.shinagawa.com/lp/lp_biyou2/index.html
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 この面談だが、単に退職を引き留めるだけではない。激減する売上げの回復を狙って追加施術のオーダーを可能にする「トーク勉強会」も兼ねているらしい。深夜の11時まで面談が続いたクリニックもあったとの話も伝わっている。

 だが、退職者問題だけでなく、更に「注射針の使い回し」という内部情報が漏れていることが判明。綿引理事長は火消しに躍起になっている。

 今は全国、どこの病院でも注射針は使い捨てが基本中の基本だが、何と品川美容外科は昔ながらの煮沸消毒を行って〝リサイクル〟しているらしい。エコ、無駄削減などと冗談を言っている場合ではない。深刻な感染リスクが懸念されて当然だ。

 情報をキャッチした一部の報道機関は、品川美容外科側に取材を申し込んだが、多忙を理由に拒絶されたという。使い回しの話を看護師から聞いたという、元患者が憤る。

「今も通院していますが、驚くほど高額な手術費用を請求されました。にもかかわらず注射針を再使用しているなんて、詐欺のような話だと思います」

 医療過誤や薬害訴訟に詳しい弁護士は、元患者の指摘に同意する。

「治療費の中には当然、医療器具の費用も含まれています。ですから、注射針を使い回していたのが事実だとすれば、患者は返金を求めることが可能だと思います。集団訴訟に発展することも充分に考えられます」

 品川美容外科は、これまでにも様々な事故を引き起こしている。

 例えば2009年、脂肪吸引の手術を受けた70歳の女性が、術後の2日後に死亡し、担当医師が業務上過失致死罪などで逮捕、起訴。更に、品川美容外科に顧問として勤務していた警察OB2人も捜査の情報を漏洩したとして逮捕されている。

 ちなみに医師が逮捕されたのは事故から1年半が経過してからのことだったのだが、その背景として「綿引理事長が徹底して捜査に非協力的で、遂に警察側が激怒した」などと、まことしやかな解説が流布したことがある。もちろん、そんな理由で逮捕が決まるはずもなく、全くの事実無根だ。だが、火のない所に煙は立たないのも事実。当時の警視庁幹部が「捜査に非協力的な態度を取り続ける理事長に怒り心頭だった」のは事実のようだ。

 この注射針の使い回し問題だが、消費者庁にも情報が届いているという。今後、相談の件数が増えるなどすると、行政指導が検討される可能性もある。

 美容外科は医療の全てが自由診療であり、厚労省の指導は及ばない。だが消費者庁なら指導が可能だ。

 品川美容外科側としては情報漏洩者を特定し、医師や看護師の退職を食い止め、問題解決としたい腹づもりだ。しかしながら、そうは簡単にいかないと見られている。

(第2回につづく)

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