無料連載『不惑のインターネット・関係者インタビュー』①西村博之氏・第9回

Instagram 2017-08-03 13.11.41

 西村博之氏を迎え、花田庚彦、本堂まさや両氏がインタビューを行う「ネット・ブラック鼎談」の第9回は、Twitterの「大問題」と、〝利子生活者〟たる西村氏の「生活哲学」を浮き彫りにする。

◇第8回記事(リンク)
http://www.yellow-journal.jp/series/yj-00000518/
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【写真】Instagram公式サイトより
https://www.instagram.com/
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編集部(以下、編) 自分が運営している掲示板で、様々な人が蠢いている。その中には違法な書き込みも含まれているが、それを含めて〝特等席〟で見ている、というわけですね?

西村博之氏(以下、西村) Twitterで何かやらかした人が出ると、それを見て面白いと思うのと、本質的には変わらないと思います。

編 私が以前、勤務していた雑誌が廃刊になり、その話題が2ちゃんねるのスレッドになったんです。半分はデタラメな書き込みなんですけど、残りの半分は恐ろしく正確でした。完全に内部情報でしたね。特等席という表現は、分かるような気がします。

花田庚彦氏(以下、花田) 2ちゃんねるの書き込みは、当事者に近い人たちが書いているものは少なくないだろうね。

西村 へえ。

花田 相変わらず、他人事だね(笑)

西村 基本的には他人事ですから(笑)

編 2ちゃんねるの終わり、ということを想像されることはありますか?

西村 2ちゃんねるでなくとも、TwitterやFacebookでも同じことが行われているわけですから、終わらないのではないでしょうか。

編 掲示板という形式の強さがあると思うのですが?

西村 使い勝手とユーザーインターフェースの問題で、今は文字で意思疎通を行うのが基本ではあります。ですが、Instagramのように画像でコミュニケーションを行ったり、YouTubeでも動画で会話をしたりする人もいます。

 そういうことを考えると、文字をツールとして使う場が減少していく可能性はあると思いますね。ただ、消滅する可能性は低いと考えています。新聞や雑誌も、文字のまま残り続けていますしね。

花田 Facebookは廃れてきているイメージだけど、実際にはどうなの?

編 若い女性が、Facebookも高齢者が使うようになって落胆したので、インスタには来ないで下さい、といったことをネット上に書いて話題になりましたよね。

西村 InstagramもイコールFacebookですから、Facebookの閉じた中でFacebookユーザーがインスタに移動するというのはあるでしょう。だからFacebook自体は、ブームは過ぎたけれども、衰退というほどでもない気はします。

 衰退はむしろTwitterです。これは日本ではなくて世界の話ですが、Twitterのほうが今はまずいのではないでしょうか。世界中の会社が、ディズニー、Facebook、Googleも「Twitterは要らない」と言っています。

編 背景はどのようなところにあるのですか。

西村 コストが高過ぎる割に、広告の出しようがなかなかないのです。Twitterが出た当時にTwitter的なものを作ろうとしたことがあるのですけれども、これは投資を受けた金でやれるからやれるのであって自分でシステムを作ったら無理だなと思いました。

 メールで喩えてみるとTwitterの仕組みというのは、例えばフォロワーが100万人いた場合は1つ書き込むたびに、100万人にメールを送っているのと同じ仕組みなのです。

 僕がログインした瞬間に自分がフォローしている人のデータを集める仕組みだったら、ログインするまでは一切データを動かさなくていいからまだ楽なのですけれども、Twitterというのはログインした瞬間にバッと出るでしょう。

 ログインしないような人というのは100万人の中で多分、半分ぐらいはログインしないと思うのですけれども、見もしないデータをずっと送らなければいけないのです。これはコストが悪すぎますね。

 早晩つぶれるか、めちゃくちゃに金を払い続けるかどちらかだろうと思ったら金を払い続けるというモデルで何とかここまで来ました。ですが、やはり利益は出ないモデルですから誰も引き受けません。

編 2倍以上のフル生産をずっとしている工場のような感じなのですか?

西村 工場の比喩なら、Twitterという製造ラインは造っては捨て、造っては捨てを繰り返しているわけです。これは無駄すぎますよね。

西村氏「楽隠居願望」の原点

編 「利子生活者」という言葉なのか「楽隠居」という言い方なのか、いろいろな言い方はできると思うのですけれども、一生遊んで、しかも月3万円の範囲内で金に困らないぐらいの貯金があればいい、と思われたのは、どれぐらいの時期に遡ることができるんですか?

西村 高校ぐらいでしょうか。

編 これから一生、死ぬまで「楽隠居」できそうですか?

西村 よほどのインフレや戦争などがなければ可能かもしれませんが、僕は不可能となる可能性の方が高いと考えています。

編 とはいえ、月3万円ですからね……。

西村 だらだらと暮らせるかどうかというぐらいでしょうか。

編 利子生活が可能になると、明日、明後日、来年、5年後、10年後の行動やビジョンというものは変わりますか?

西村 変わらないと思います。ただ、日本が危なくなったら、ヨーロッパへ行こうというような、逃げ道を作っておくのが好きなんですね。

 別にヨーロッパに行かなくてもいいはずなんです。日本で月3万円で暮らす方法もあるはずなんですが、あえてそういうことをしてしまう。そういうことを考えると、貯金があるかないかというのは、あまり僕に影響を与えないのかもしれません。

 貯金の話なら、例えば銀行が閉鎖されたり、金融社会が完全に消滅したりする可能性もゼロではないですよね。僕は、そういう極端な未来予測も、心のどこかである程度は意識しています。

 そうすると日本だけに拠点を置くのは危険ですよね。日本を切り捨てて、英語とフランス語で暮らす準備もしておこうと考えるタイプなんです。

編 究極のリスクヘッジ、という理解でよろしいでしょうか?

西村 はい、そうですね。 

編 となると、お持ちの資産も、ドル・ユーロ・円というように、外貨も含めて分散させているんですか?

西村 貯金は日本円とユーロですね。

編 それはゲーム的な感覚で遊んでいるんですか? それともリアルに、日本崩壊や、ご自身が命を狙われるような危険性を予測しておられるんですか?

西村 僕の生命に危険が及んでいるわけではありませんし、実際のところ、僕の今の備えも万全というわけではないと思っています。ただ、問題を見つけたら、対処はしなければならないですよね。ゲームというより、パズル的なイメージでしょうか。

編 日本とパリにしっかりと生活の場を確保できている人が、「万全ではない」と考えているというのは、ちょっと珍しい気がします。

西村 確かに、ある程度の危険性は除去できてきているとも思います。日本だけに住み、日本円の資産しか持っていない人に比べれば、僕の方がリスクを減少させているのは確かでしょう。とはいえ、僕が想像するリスクヘッジというのは最終的に「宇宙人が地球に攻めてきたら、どう対処するか」というレベルに達しますので。

一同 (笑)

本堂 そんなことまで想定しているんですか!?(笑)

西村 だから単なるパズルとも言えるんです。本当に、そんな危険性が及ぶとは考えていないですからね。でも、核戦争の危険性を考えるなら、シェルターは用意した方がいいよな、という思考はありますね。

花田 そこまで考えるんだ、なるほどね。

西村 基本的に暇ですから(笑)

編 それって、ある種の勤勉さに通じるのではないですか?

西村 いいえ、単なる暇つぶしですね。

編 やっぱり、暇つぶしという言葉が出てくるんですね。

西村 例えば、完全犯罪をやるにはどうすればいいかというのを想像することって、誰でもあると思うんですよ。実際にする気はないですし、する必然性もない。でも考えて、「あ、1個方法を見つけた」というようなものに近いのではないでしょうか。

編 実際、それだけの資産を持っておられるわけですしね。

西村 余裕のあるうちにやっておいた方がいいのは間違いありません。

編 結局、パリに住むのも、ラトビアに行くのも、暇つぶしなんですか?

西村 うーん、何でしょうね……。日本に生まれて、日本に育ったことは、僕が選んだことではないですよね。ひょっとしたら僕は別の場所の方が合うのかもしれないという、ちょっとした期待感は持っているかもしれません。

 沖縄が大好きだと思っていた人が、北海道に行ってみたらそっちの方がよかったということはありますよね。それと同じことで、色々なところに暮らした方が、住みやすい街を見つけられます。その際、大勢の人が「ここはいいよ」と褒める場所は、とりあえず住んでみたいですね。

(第10回につづく)